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【中身見本】Halloween

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耳元に寄せてささやかれる言葉は気持ちよくて、あやすように背中をさすっている手は優しくて、涙が出てとまらない。
勝手に好きになったのは自分だし、勝手に傷ついているのも自分なのに、ハリーは抱きしめたまま僕を慰めてくれる。

この腕を離したくなかった。
いつまでもこうしていたかった。

思わず顔を摺り寄せ相手のローブの襟をつかみ、開いたシャツに顔を埋めると目元をそこで拭う。
僕の涙が相手のシャツを濡らして、ハリーの胸元に薄くしみが広がっていった。
「ああ……、僕のシャツがぐちゃぐちゃだ」
「我慢しろ」
くぐもった声で答えると、クスッという上から降ってくる笑い声。
「全く、ドラコにはかなわいな。いつも僕は負けてばかりだ……」
ハリーの指先が動いて、シャツに顔を埋めていた僕のあごを持ち上げる。

「僕はただ、君から勉強を教えてもらおうという約束が欲しかっただけだったのになー……」
小さく苦笑した。
「言い方があるだろ。何もあんないじわるして、僕をおどすことはないじゃないか……」
緑の瞳が泣いている僕を見つめて、ひどく嬉しそうに細められる。
「―――君を泣かしちゃったね……」
ハリーの癖なのか下から覗き込んでくるような視線のまま、僕のほほをそっと撫でた。

「口が悪くて根性なしで、プライドばかりが高くて、最高の意地っ張り」
指先がのびて、僕のひたいにふれてくる。
「この眉間にいつもシワを寄せてにらみつけて、とんでもない悪戯ばかりしかけてきたのに。――ドラコなんか今まで大嫌いだったのに――」
「ううーっ……」
また涙がこぼれ落ちた。
(傷口に塩を塗りたくりやがって、このバカ野郎…!)
肩が激しく揺れて相手の胸をたたいた。
その手を握りこんで暴れている僕を抱きしめてくる。

「泣いている君がこんなにかわいいなんて、本当、反則だよ。まったく……」
ハリーは微笑んで唇を重ねてきた。
ほほに吐息がかかり、そっと触れてくる。
柔らかな感触に眩暈がしそうだ。
信じられず首を振った。
するとクチュと小さな音を立ててハリーは唇を離す。
「嫌ならいいよ。別に僕に噛み付いても……」
苦笑しながらそうささやいて、また重ねてくる唇が嫌だなんて思わなかった。

ハリーのキスは暖かくて抱きしめられた腕は優しくて、また別の感情が溢れて涙をとめようとしてもとまらない。
「ドラコの泣き虫……」
笑って湿った舌先が濡れたほほを何度も舐めた。
「しょっぱいなー……」
ハリーがいたずらっぽく僕をからかう。

その意地悪な緑の瞳がたまらなくて背筋をぞくぞくさせながら、自分から顔を寄せた。
「黙れ、ハリー……」
跳ねた黒髪を掴み、自分のほうへともっと深く引き寄せる。
相手の少し荒れた唇のざらつきがよかった。

背中に腕を回し更にぴったりとからだを合わせてキスをする。
誘うように唇と開くと、そっと舌が滑り込んできた。
ハリーの指が僕の首筋を柔らかく揉んで、そのすべすべとした手触りを愉しんでいるようだ。やがてクイと指先に力を込めて、もっと僕が近寄ってくるように引き寄せてくる。
何度もくちびるを離し互いの瞳を見つめ確認して、またくちびるを重ねた。

深くなる口付け。
混ざり合う吐息。
からだの奥深い部分がぞくりと熱くなってくる。

(困ったな……)
そう思いながら自分の中の湧き上がりつつある衝動を、別にはしたないとは思わなかった。
重なっている相手の体温も幾分、高くなっているのが分かる。
その先を望むように、互いのからだが震えた。

相手の指が僕のきっちりと上までとめられた襟元を緩めようとやっきになっている。
しかし焦って逆に首が絞まり、僕はゴホゴホと咳き込みやっと夢から覚めたように瞬きをした。

「あ……、そうか……」
ここで「僕のこと好きなのか?」と聞いたら、きっと「ああ好きだよ。だから早く――」とおざなりな返事をして、ハリーは続きをせっつくように始めようとするだろう。
相手は今とても興奮していた。

自分の中の熱を押さえつけて、相手の肩をゆっくりと押し戻す。
突然身を引く僕にハリーはお菓子を取り上げられた子どものように、不満そうに鼻を鳴らし抗議した。
熱を孕みうるんだ瞳で見つめてくる。
「……ドラコ―――」
途中で止められて焦れて浅くなった呼吸で、あえぐようにハリーは僕に擦り寄ってきた。

相手をどう挑発したら興奮するかとか、同じ同性なんだし手に取るように分かる。
このまま、なし崩し的にからだの関係を持つことなんか簡単だった。
あれは本能で単純な欲望にすぎない。
だけど、僕が欲しいのはそんなものじゃなかった。

自分の胸に強引に引き寄せようとするハリーの手を振り払い、僕は素っ気なく立ち上がる。
「明日の放課後、午後四時に図書館で待っているから……」
それだけ言うと、存在を忘れられたまま床に投げ出されている懐中時計を拾った。
からだに付いた埃をパンパンと払っていると、午後の始業を知らせる鐘が響いてくる。

そうして僕はハリーをその場に残して歩き去ったのだった。


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全39話です。これからあとも紆余曲折、前途多難な二人です。
続きは同人誌にて。


作品名:【中身見本】Halloween 作家名:sabure