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【中身見本】Innocent World

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「――つまりさ、分からないかな?あの世界にいると、みんなが見ている前で、ずっとダンスしているのといっしょだと言っているんだよ。慣れないステップで蹴躓いて失笑されて、面白くないのに笑顔を強要されて、曲が変わるたびにちがう相手とまた組まされて、ちっとも休めやしないじゃないか」
「スーパースターは辛いってわけだ」
ドラコはうすく笑って、相手の揚げ足を取った。

「ハッ!なんとでも言えよ。―――知っているか、マルフォイ?魔法界にいた頃の僕の帰宅してからの日課は、寝室に盗聴器が仕掛けられてないかという部屋のチェックから始まるんだ。前それをしなかったら、連れ込んだ女の子との大変なテープが闇に流れて大変だったんだからな。朝から晩までパパラッチに追いかけ回されて、運が悪けりゃ真夜中ですら気が抜けないんだ。根拠もないゴシップ記事が紙面を飾って、強く否定したら、またそれを面白おかしく書かれて悪循環の繰り返しだ。毎日使っていたマグカップがなくなったと思ったらマニア系のオークションに出されていたし、女の子とただお茶を飲んだだけで、翌日はもう新恋人になっているから、どんなにかわいい好みの子がいても、おちおち気軽なお誘いだってできやしない。プロなら後腐れないだろうと相手にしたら、嬉しそうに僕の下着のセンスや好きな癖、果てはナニの時間や体位まで嬉しそうに喋りまくって、ぬけぬけと暴露記事を垂れ流すし……、ああ、くそっ!」
そのことを思い出したのかハリーは舌打ちをする。

「―――ったく!魔法界のエピソードなんか、まったく思い出したくもない最低なことばかりだ……。誰も彼もが、僕を珍しそうに担ぎあげて、まるで檻の中にいるパンダみたいな気分だった!」
げんなりした顔で「あー、やだやだ」と首を左右にふった。

「ノーモア、パンダ!」
ハリーは両手を広げて天井を見上げると大げさに叫ぶ。
その仕草にハハッとドラコは声をあげる。
「僕の前にいるのは、実はでっかくて、大きいパンダなのかい?」
「そうだ。しかもかなり繊細でヒステリックなパンダだぞ」
ドラコは腹を抱えてひとしきり笑った。

「これは貴重な保護動物だ。とても大切にしないとな」
ご機嫌でニヤニヤと笑いながら、腕を伸ばしてハリーの首筋に手をかけると、ぐいと自分のほうへと引き寄せる。
弾みで近づいた顔に、少しスパイスがきついコロンが漂って、ハリーの鼻腔をくすぐった。
「あれ、香水変えたの?」
ハリーは意味深な顔で、相手の薄灰色の瞳をじっと覗き込む。
「ああ、今夜は少しアダルトに責めてみようかと思って」
ドラコはその視線を受けて、ペロリと舌を使って自分の上くちびるを舐めて湿らす。
「君はなかなか飽きっぽい性格だからな。いろいろ手を変え、品を変えないとね」

愛撫するように長い指先で、ハリーの首筋を何度も撫でた。
ハリーは少しくすぐったそうに笑いながらそれを受けて、気持ちよさそうに目を細める。
「それなら、安心していいよ。例え毎回君だけが満足してすぐ寝息を立てたとしても、僕からこの関係を降りるつもりは全くないから」
「思いやりたっぷりで、泣けてくるよ」
ドラコは肩をすくめた。

「僕はこう見えても結構、ジェントルマンなんだ」
「こういう場面で紳士的なのはいただけないな、ハリー。いまさら君と顔を突き合わせて、お茶でも飲もうなんて思わない。理性なんかさっさとゴミ箱に捨てろ」

ドラコは自分から顔を寄せると相手のあごをつかみ強引に口を開かせ、その中へ熱い舌を差し込む。
ゆっくりと探るようなしぐさで相手の舌をくすぐる。
見かけによらずハリーは、そういう緩やかな刺激にかなり弱かった。

舌を絡めてくる行為がたまらないのか、ハリーは慌てて相手からからだを離そうとするが、それを許すほどドラコだって甘くはない。
からかうようにハリーの舌の付け根部分に何度も自分の舌先を擦り付けて、柔らかくて敏感な部分をつつくようにして舐める。
そのザラザラと触れてくる感触にハリーの背筋が小刻みに震えて、我慢できずに色気も何もないような仕草で、グイグイとドラコのひたいを両手で押し戻した。

深く濃厚なキスがやっと外れると、ハリーは真っ赤な顔で、ゼーゼーと荒い息をつく。
「ちょ……、ちょっと、まてよ。それは苦手だと、ずっと前から言っていただろ!」
「苦手は克服したほうがいいという、僕のやさしい思いやりだ」
「そんなことされて克服して、君にいろいろ開発されたらたまったもんじゃない」
「またまた…。結構探究心が旺盛で、ノリがよくて、こういうことが大好きなくせに」
人の悪い顔のまま相手をからかう。

ドラコの指先が移動して、久しぶりの相手を確かめるように、ほほを何度も撫でる。
朝出かける前に剃刀をきれいにあてていても、もう夜には少しひげも伸びてきているから、その指にちくちくとひっかかる感触をドラコは愉しんでいるようだ。
薄灰色の瞳が濡れたように、欲望でキラキラしている。
その一連の仕草はハリーを困らせつつも、どこか魅了するものがあった。

「魔法界での自分の家柄のよさと権力の強さに、これほど感謝したことはない。君を僕ひとりが独占できたから、いい買い物をしたと思っている」
「実際、マルフォイ家のバックボーンがなけりゃあ、あのクソったれの魔法界からおさらば出来なかったからね。もうあんな恩知らずでいい加減なくせに、好奇心だけは人一倍の魔法界のヤツラの前で、タップダンスなんか踊ってやるものか!」
はき捨てるようにハリーはつぶやく。

「でも僕の前では踊ってくれるかい、ハリー?」
「ああ、どうせダンスで恥をかくなら、大勢の前じゃなくて、たった一人の前のほうが断然いいじゃないか……」
笑ってその白いやわらかそうなドラコの首筋にキスをして、舐め上げる。

「でもドラコとはからだの相性も結構いいからなー…。そこが僕の中にある、由緒正しき良心が咎めるんだけどね」
ドラコは少し驚いた顔で目を見開いた。
「相性がよくても君は不満なのか?ものすごくわがままな性格だな」
「ああ、だってさ。いろいろ援助してもらったり、世話してもらっている上に、いっしょに寝て僕まで気持ちよかったらさ、逆に悪いじゃん。エンコーにならない」
「援交って……。いったい全体、このでかいパンダが何ぬかしてやがるんだ」
クククとドラコは喉の奥で笑う。

「―――じゃあ、その自分の首に垂らしたネクタイで、僕の手首を縛り上げて僕をデスクに押し付けろ。後ろから犯せよ。さっさとプレイを始めてくれ。じりじりして漏れそうだ。早くご主人さまを気持ちよくさせてみろよ」
ドラコは挑発的な言葉で相手を煽る。

銀の髪に淡い瞳。
酷薄そうなくちびるが、冷たい冷笑に歪む。
まったく取り澄ました、むかつきたくなるほどの貴族然とした横顔だ。一部の隙もない。
だからこそ、その相手のからだの奥にある熱さやだらしなさ、甘やかさや毒が、たまらないほどいい。
ギャップは大きければ大きいほど、信じられないくらいの快楽を生み出す。

前へと差し出された両手を笑ってハリーは握ると、逆にぎりっと相手の背中に回して、自分のネクタイをスルリと抜き、きつく縛り上げた。
ドサリと大きなデスクに、容赦なく相手を押し倒す。
作品名:【中身見本】Innocent World 作家名:sabure