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【腐】快新短編 詰合せ4本

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ontology


「快斗は、全部終わったらどうする?」
 読み耽っていた本から視線を上げ、新一は何となく尋いてみた。
「全部って?」
「全部ったら全部だよ」
 口に出してみたものの、何が「全部」なのかは新一自身も曖昧だった。取り敢えず、共闘して黒の組織を破滅させ、快斗はパンドラを探し出して粉々に砕き、父の仇を討つ。自分は完全に工藤新一の姿へと戻って、互いに高校生として以前と同じ生活を取り戻す。そんな所だろうか。
 トランプ銃をメンテしていた快斗は、ドライバーを手に持ったままうーん、と考え込んでいた。
「そうだな。中森のオッサンには随分迷惑掛けてっから、一度ぐれーは捕まってやんないとな」
「え……?」
 想定外の返答に瞠目して固まった新一を、快斗はニヤリと見返す。手中のドライバーをポン、と消し去り、代わりに新一の掌にキッドのモノクルを出現させた。
「その後、怪盗キッドは奇跡の大脱走! んで、世紀末の魔術師と謳われた彼は永遠に姿を消す。そんなとこか」
「……ああ、そーゆうことか」
 よかった。
 咄嗟に安堵の気持ちを浮かべた事に、新一はチクリと罪悪感を覚えた。
 快斗が逮捕されて終わる。そういう結末を無意識の内に除外し、可能性の一つにも入れようとしなかった自身の思考に驚愕する。
 父親の仇を炙り出す。
 組織が狙うパンドラを先に見つけ出して破壊する。
 盗品等を扱う違法ブローカー達から宝石や美術品を守り、正規の場所や人物へ返還する。
 この3つの目的のために、快斗は派手な演出で捻じ曲げられた現実から目を晦ませて、怪盗業を続けている。
 悪役の名を一身に背負い、犯罪者と罵られても言い訳をせず、磊落な仮面で本心を隠している。
(おめーのそういう所が嫌いなんだよ)
 しかし様々な理由があるとは言え、彼のやっている事は法律的には決して許されない重罪だ。罪は裁かれなくてはいけない。
 罪人を監獄に送るのが自分の使命なのに。
(離れたくない)
 そんな我侭を言うなんて探偵失格だとは重々承知しているけれど、もはや新一にとって快斗のいない日常など、とっくに考えられなくなっていた。
「捕まらねぇよ」
 唇を噛み締めて視線を伏せてしまった新一の頭を、快斗は苦笑しながらぽんぽんと撫でてやる。
「オレが牢屋に入ったら、寂しがる奴がいるからさ」
「……」
 そういう言い方をされると釈然としないが、悔しいけれど事実だったので新一は何も言い返せない。
「その代わり、贖罪は背負うよ」
「贖罪?」
「ああ。キッドを止めるときは、一緒にマジックも封印する」
「おま、それって……」
 驚いたように見開いた新一の瞳に、すっと目を細めて天を仰ぎ見るように面持ちを上げた快斗の姿が映った。窓から漏れる穏やかな日差しが黒髪を透かし、崇高な表情を醸し出している。その決意は固く心に誓ったものなのだと、風貌から容易に推察することが出来た。
「お前、世界的なマジシャンになるのがガキの頃からの夢だったんだろ?」
「もうとっくに世界的なマジシャンになってますから」
 ニヤリ、とキッド特有の不敵な笑みを浮かべて、恭しい仕草で優雅に一礼する。空いていた新一の左手を取った快斗は、わざとらしく手の甲にキスをした。
「でも、」
「いいんだ。それでも贖罪には程遠いだろ」
「……そんなの」
 マジックを奪われたら、快斗は一体どうなってしまうのだろう。
 父親との思い出であり、彼自身の夢であり、希望だった存在理由を捨てる覚悟を決めている。
 決心が崩れないように硬く固めて、新一でさえ触れさせて貰えない程に強い意志。
 それは、怪盗業という行為で周囲の大切な人たちの信頼を裏切り続けている快斗が出来る、精一杯の誠意なのかも知れないけれど。
(罪は全て「怪盗キッド」と共に、永久に封印する……?)
 キッドとしての苦悩も、今まで磨いてきたマジックのスキルも、子供の頃の夢も、父親の形見さえ捨てて。それで全ての罪を購おうとしている。
 第三者から見れば軽すぎる罰だと言う者も居るかも知れない。しかし快斗の事情を知っている者から見れば、それが彼にとってどれほど辛い出来事なのかを容易に想像することが出来た。だからこその贖罪なのかも知れないけれど。
(それでも納得いかねーよ!)
 取られたままの左手を強引に振り解き、新一はモノクルを両手でぎゅっと握り締めた。自分の腕を擦り抜けて、遠くへ消えようとしている白い面影を、少しでも引き止めたくて必死だった。だが快斗は強い力で握り締めてきた新一の手を見下ろして、困ったように微苦笑する。
「そんな顔しないで下さい。幸い、私は何事にも優れた能力を持っていますので」
「ふざけんな、オレはな!」
「オレには、まだ新一がいる」
 新一がいる。
「…………」
 言葉の真意を探れず、訝しそうに首を傾げた新一を、片膝を付いた低い姿勢から見上げて、快斗は満面で笑った。
 新一がいる。
 その事実だけで、快斗にとっては残りの人生を全うするには十分だった。
 確かに、新一の言うとおり自分からマジックを取ったら、すかすかになって何も残らないかも知れない。喪失感で腑抜けになって、暫くは切なくて苦しい日々を送るだろうとも思う。
 だけど、新一が傍に居てくれたら。
 名探偵の彼の事だから、これから先も危険な事件や捜査に次々と首を突っ込むだろうし、その所為で窮地に陥る事も多いだろう。コナンだった頃よりも、きっと危ない目に遭う機会も多くなると思う。
 だから、その時に少しでも役立ちたい。
 今の自分にはそれが出来ると、自信を持って自惚れている。
「命を掛けて、貴方を守ります」
 この愛しい人を、自分の手で護る。
 護ってみせる。
 それがきっと、オレの新しい存在理由になるから。