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【腐】快新短編 詰合せ4本

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Mischief mail


「やっぱりダメね。この件は諦めましょう」
 とある事件がきっかけで入手した組織のメールアドレスから、携帯電話の持ち主を割り出そうと哀に協力を頼んだが、結局は成果を上げられず、作業は頓挫した。
「くっそー、あともう少しで届くのに……」
 漸く手に入れた組織に繋がる手掛かりだと言うのに、何も出来ない歯痒さでコナンは地団駄を踏む。
 何か別の手は無いかと一心不乱にパソコンを睨み付けているコナンの横で、ふと哀は室内の僅かな異変に気付いた。
 阿笠邸の大黒柱である博士が在宅なら、恐らく哀も気付かなかっただろう小さな変化だ。だが、現在博士は買出しに出ていて、この家の臨時家長は哀だった。
 黒の組織メンバーに感じるような禍々しさとは別の、鋭いながらも穏やかな視線。心当たりは、有る。
「工藤くん、お迎えが来たみたいよ」
「迎え?」
 蘭か、と思って振り返ると、其処には予想外の黒い人影が在った。
「へー。これが組織のメアドね」
「ってめぇ!」
 気配を殺して出現した人物は、学ランを纏った高校生だった。17歳の工藤新一とそっくりの顔立ちをしている。髪型こそ違っているものの、他のパーツは全く同じで、いっそ気色悪い。
 恐ろしい事に、その姿形は変装では無いらしい。中森警部に思い切り頬を引っ張られても剥がれなかった化けの皮は、逆にコナンに戦慄を与えた。
「よ、名探偵」
「何しに来やがった」
 怪盗キッド、と心の中で吐き捨てた。
 哀も薄々正体を察してるらしく、そっとデスクに備え付けの電話へ手を伸ばしている。
 敵対心剥き出しの子供二人に構う事無く、当のキッドは余裕を崩さなかった。
「こんばんわ、お嬢さん。夜分にお邪魔します」
「家宅侵入ね。訴えるわよ、泥棒さん」
「お手柔らかに」
 手厳しい歓迎に苦笑しながら、キッドはコナンの横に並んだ。
「そのメアド、オレにもちょーだい」
「おい!」
 ひょい、とコナンの手中から携帯電話を取り上げて、勝手に操作を開始する。取り替えそうにもリーチが違いすぎる為、軽くあしらわれて遊ばれてしまう。
 見兼ねた哀が口を挟んだ。
「やめなさい。死ぬわよ」
「もう身内が殺されてるんで。骨身に沁みてるよ」
「……」
 返答に詰まった哀を見て、コナンは小さく舌打ちした。
(こいつ、灰原の身辺まで調査済みか)
 気難しい哀の性格を考慮し、同じ立場を強調して相手に共感を持たせる事で対抗意識を下げさせる。相変わらずの策略家ぶりに、コナンは辟易した。
「オレも独自で追ってみるけど、ご忠告通り深追いはしねーよ。まだ死にたくねぇし」
 自分の携帯電話にアドレスを複写してコナンに投げ返し、キッドは不敵に笑った。
「それまで勝負は預けるぜ、探偵君」
「……ああ、受けて立つぜ」
 強い視線に負けないよう、コナンも眉間に力を込めて見返した。
 月下の袂で出会う気障なキッドとは、口調も態度も異なるけれど、紛れも無く本物だという確信がコナンにはあった。相対すると背筋がぞくぞくする感覚がその証だ。
(よりにもよって、江古田かよ)
 学ランの校章を盗み見て心底うんざりする。予想以上に近くに居た訳だ、FBIだのCAIだのインターポールだのも追い掛けている、確保不能の大怪盗とやらは。
「……」
 暫く膠着状態が続いていたが、がちゃり、と扉を開ける音が響き、緊張が途切れた。
「ただいま帰ったぞー。……おや、お客さんかね?」
 スーパーのビニール袋を提げた阿笠博士が、いつもの人好きする笑顔で現れた。珍しい客の存在に目を丸くしたものの、コナンと哀が騒ぎ立てていない所を見て、事態は窮に瀕していないと察したのだろう。慌てず、テーブルに荷物を向いて、キッドに向かい合う。
「はて、鍵を掛けて出掛けたつもりなんじゃが。……いったい何方かのぅ?」
 学ラン姿の青年は、にこりと微笑んで一礼した。
「初めまして、阿笠博士。勝手に上がって申し訳ありません。僕はもう失礼しますので」
「えっ、ああ、どうも、何のお構いもなく」
「とんでもない。では、お邪魔しました」
 まるで暮らし慣れた我が家のように室内を闊歩する姿を、博士は呆然と見送った。
「あの青年、もしかして……?」
 学ランの背中とコナンの顔を、あたふたと指差して比べる博士に、コナンは厭々返答した。
「そうだよ。怪盗キッド」
「な、何だと?! 捕まえなくて良いのか?」
「いーよ。そのうちとっ捕まえるから」
「しかしのぅ……」
「アイツだってこっちの事情知ってんのに、オレが出し抜いたらフェアじゃねーだろ」
 肩肘を付き、不貞腐れた子供のように頬を膨らませているコナンの横顔を見て、哀はクスリと笑った。
「これだから男の子って馬鹿ね」
 こっそり囁かれた哀の声は、聞こえなかった振りをした。
「にしても、よっぽど新一の顔が気に入ったんじゃなぁ」
「ちげーよ。自前みたいだぜ、あの顔。オレに化けるなら学ランなんか着てこねーだろうし」
「そうなのか? ……ってことは、キッドの正体は新一そっくりの高校生?」
「ええ、そうみたい。工藤くん、生き別れの兄なんじゃないの?」
「なんでオレが弟なんだよ」
 そうやってすぐムキになる所よ、と最もな指摘をされてぐうの音も出ないコナンを不憫そうに見遣りながら、博士は一人寂しく呟いた。
「引っ掛かるのは其処じゃないと思うんじゃがのぅ……」
 始終、キッドに神経を乱され、哀にからかわれたコナンはすっかり不機嫌になった。博士が宥めるようにお茶のペットボトルを渡す。
「災難だったの、新一」
「結局何がしたかったんだ、あのヤロー」
「貴方達、本当に馬鹿ね」
「……何でオレも入ってんだよ」
 ミルクティーのペットボトルを空けながら、哀は訥々と語った。
「泥棒さんは、貴方が今にも組織に乗り込まんとばかりに調べてたからやって来たのよ。やめさせる為にね」
「……は?」
「彼の方が組織の怖さを知ってる、ってとこかしら」
 身内を殺された、と言っていた。哀を言い包めるための詭弁かと思われたが、一瞬見せた憂いの表情から察するに、真実かも知れない。
「……お節介ヤローが」
「もう誰も死なせたくないのよ」
 彼も、私もね。
 キッドの真意に触れた哀は、気を許すとまでは行かなくても、何か共振するものを感じたようだ。若干裏切られたような遣り難さを覚えたが、仮にも心配してくれている友人を無碍には出来ず、コナンは無言でお茶を嚥下した。
「それと、そろそろ届くんじゃない」
「何が」
「ラブコールよ」
 狙ったかのようなタイミングで着信を知らせる電子音が鳴った。ぐっ、と飲み掛けのお茶を気管に詰まらせて、コナンはズボンのポケットにねじ込んでおいた携帯電話を引っ張り出す。
 しまった、と思った。先刻のメアドと一緒に、新一名義の携帯電話のアドレスも盗まれてしまったのだ。
 ディスプレイを確認すると、案の定未登録のアドレスからの受信だった。
(くっそー、やられた!)
 探偵と怪盗がメール交換するなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
 かと言って中身を読まずに消去するのも、後々に後悔しそうなので、コナンはニヤニヤと悪い顔で笑んでいる哀から隠すように携帯電話を開けた。