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【NO.6】 おかえりなさい。ネズミ 【微腐】

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 瞼の裏にこびりついた背中に向かって小さな声で呟く。
 それでも、最後まで好きとは言ってくれなかった。
 拙い言葉で精一杯、きみが好きだと訴えたのに、彼は決して声に出して応えてくれる事は無かった。ただ、情熱的な口付けと、再会の約束をくれただけだった。
 それでも良かった。絶対に諦めたりはしない。そんなの、ネズミを好きでいる事に対しての、何かしらの障害にさえなりはしない。
 彼がどう思っているのかは知らないけれど、自分の想像よりもずっと、ぼくは弱くは無かったみたいだ。
 ネズミは、きっと戻って来てくれる。
 今は純粋に、そう信じる事が出来た。
 彼の言う事は所々に虚構を交えていて、どれが本当かを見極めるのはとても至難の業だったけれど、深く心地好い声音の中には千々になった真実の欠片が組み込まれている。
 後は自分に出来ることを精一杯やりながら待つしかないのだ。彼を信じて。もう一度会える事を信じて。都市の再建委員会の一員として、NO.6の二の舞にならないような偽りではない理想郷を作り上げる。旅の途中でふらりと立ち寄ったネズミが、思わず目を丸くして口笛を吹くような美しい都市に。
 きっとこの土地に君の理想を築いてみせるよ。
 そうして、再び相見えた時に、改めて問おう。
「こんどは、ぼくも、つれていって」
 吐息に交えた小さな囁きは、春の風に乗って、たった今この場所から消えていった背中を追い掛けるようにふわりと飛翔した。
 約束だ、ネズミ。
 会えない日々は、毎日君の事を思うよ。
 どうか息災に。 
 どうか覚えていて。
 君の帰ってくる場所は、此処だから。
 そういう意味なんだろう。だから君はぼくを置いて、外の世界を見に行ったんだろう。
 君の帰ってくる場所は、ぼくだから。
 だから、数年後、若しくは十数年後に、君が再び目の前に現れた時は、こう言うんだ。


 ――――おかえりなさい。ネズミ。