二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

toccata

INDEX|1ページ/22ページ|

次のページ
 

プロローグ


喧嘩するほど仲がいい、とは良く言うもので。
だが、それは限度がある、と少女は思う。

「貴様、いい加減にまじめにやれ」
「そうキリキリするなよ、締め切りはまだ先じゃないか」

春歌の目の前で、二人の男性が口喧嘩をしていた。
かれこれもう3時間ほどこんな状態が続いている。
お互い手を出さないのは、自分たちが「アイドル」であり、顔だけでなく身体も命、だと言う事を理解しているからかもしれない。

「そんな悠長な事を言っている場合か。他のレッスンだってあるんだぞ」
「お前は下手糞だから、練習を重ねないといけないからな。俺はそんなお前に合わせるつもりはない」
「なにっ!」

先程までは空気が違う事に気が付いた春歌は、あ…あの!、と大きな声を出して割りこんだ。
二人の男性が一気に振り向く。
瞳が怖い、纏っているオーラが黒い…と春歌は思った。

「七海、余計な事を言わないでくれないだろうか。今は二人で話をしている」
「レディ、邪魔しないでくれないか。今はこいつと話し合いをしている最中だ」
「は、話し合いって…」

明らかに「話し合い」には見えないその雰囲気に根負けしそうになる。
だが、この状況は学園生活の中で既に分かっていた事ではないか、と奮い立たせる。

向かって右側。
腕を組み不機嫌そうに立っている、泣きボクロのある礼儀正しそうな青年の名は、聖川真斗。
向かって左側。
長い髪の毛を掻き上げ、面倒くさそうに溜め息をつくモデル体型の青年の名は、神宮寺レン。
この二人は、有名な財閥の御曹司である。
それと同時に、芸能界に絶対的な権力と力を持つ、シャイニング早乙女が社長を務める
シャイニング事務所の所属のアイドル…見習いだ。
現状態を、準所属、と言う。
学園の卒業オーディションを勝ち進んだが、正所属までの道のりはまだまだ遠い。
本当の意味でのデビューはまだ先…なのである。


約一ヶ月前、突然社長直々に呼び出しを受けたのだ。
呼び出しを受けたのは、オーディションに合格した春歌達だけでなく、他の数名もだった。
真斗と同クラスの、一十木音也と四ノ宮那月。
レンと同クラスの、一ノ瀬トキヤと来栖翔。
そして、途中で入学してきた、愛島セシル。
音也と那月はワクワクすると喜び、トキヤは深く溜息、翔はやる気満々で、セシルはぼーっとしている。
そんな不思議な空間の中で、社長が天上より釣り下がって彼らの目の前に現れ、こう告げたのだ。

「正式デビュー前のワンランク上のレッスンを受ける為のマスターコースを受講する前に…テストをシマース」

ソロ楽曲を1曲ずつ。
デュエット楽曲を1曲ずつ。
そして、呼び出された全員での楽曲を1曲。
期限は、1カ月。
そんな無理難題を突き付けてきた。
その場にいた皆が心配したのは、合計12曲を書き上げなければならない、春歌だった。

「この位でヘコたれでは、芸能界でやってイケマシェーン」

シャイニング早乙女は突き放したような冷たい声で一蹴する。

「でも!」

音也が真っ先に反論した。

「でも!こんな一杯、無理だよ!少しは手加減してくれたっていいじゃないか!」
「そもそも…ここにいるのは偶数ではなく奇数です。誰かはダブる事になる」

トキヤは溜め息をつきながら、頭数を数え進言した。

「なら、私は、デュエットせずとも、問題、ありません」

すっとセシルは手をあげ、自分が身を引く事を提案した。
いいのか?、と皆に聞かれたが、セシルは構わないと頷く。
更にその場の全員の意見を、学園の先生でありアイドルの先輩である日向龍也が社長に嘆願した。

「おっさん、幾らなんでもフルは無理だろ。せめて1コーラス。後歌詞は歌い手に任せる…って言うのでもいいんじゃないか?」
「そうねそうね!行き成り無理して、体壊されちゃったらマスターコースもくそもないものね!」

龍也の隣にいた女装アイドル・月宮林檎も全力で頷いた。


そんなこんなで、春歌、真斗、レンの三人は今、ホテルにほぼ缶詰め状態なのである。
真斗とレンはレッスンがある為、その時間になればホテルの部屋から出るが、基本終わればすぐ部屋に直帰してくる。

提出楽曲は、先生方の嘆願のお陰で条件は以下のように変更されていた。
楽曲は1コーラス、歌詞は歌い手が行う。
メロディは完全に完成させる事、編曲は場合によっては別の人が担当させる形になっても良い。

最初の一週目でまず、音也・トキヤチームの製作。
中々作曲のテンポをつかめなかったが、三日目の時点でソロ楽曲はほぼ出来あがり、同時進行でデュエット楽曲へとなだれ込めた。
二週目で、那月・翔チームの製作。
既に二人が話し合いを進めていてくれていた為、コンセプトや内容を早い時期に決める事が出来、想像以上に早く終わった。
三週目で、セシルの製作。
二週目の勢いもあり、又早く終わった分余裕を持って対応、そして一週目の残りと、全員での楽曲は一週目からラフが出来ていた為完成にこぎつけていた。

現在は残りの週…四週目なのである。
二人のソロ楽曲以外出来あがっていない状態で、残り二日、なのである。

シャイニング早乙女が決めたデュエットの組み合わせを聴いた時から、少しだけ暗雲を感じていた。
決まった瞬間に、レンは大きく溜息をつき、真斗はレンを見ようとしない。

(こ、これは…かなり覚悟しないと)

春歌は、二人に悟られないように気合を入れ直していた。


二週目が終わった夜。
翔がお疲れ様とあたたかい紅茶をくれた。

「三週目はセシルか…、もう大体決まってる?」
「はい、セシルさんから手紙が届いて、こう言うのはどうですか?と言う内容を頂いているので」
「セシルは、て、手紙かよ…。でも、ま、まぁ、それならいいや」

くいっとティーカップを傾け、翔は少し安堵の表情を浮かべた。
だが頭上からの声で顔に影が浮かぶ。

「うーん…少し心配ですね…」

那月だった。

「心配…ですか?」

分からない、という表情を春歌がしていると、それを見た翔が難しそうな顔をする。

「…まぁな…あの犬猿の仲な二人だろ?ラストの週・四週目が、さ」
「はい」
「お二人とも実力はありますが、心のすれ違いが大きいので…」
「…それが心配だな…。お前、きちんと二人を纏められるのか?」
「…が、頑張ってみます…」

春歌は少し感じている不安を自身で払拭するかのように、二人に笑顔を見せた。
すると、隣にいた那月に突然抱きしめられる。

「!?」

頬が紅色に染まる。
顔が熱い…。

「無理はしないでくださいね。僕たちはこれから仕事に行くので、何もお手伝いできないのですが…。
 でも何かあったらメールして下さい。力になりたいです」

は、はい…とやっと声を絞り出して口から吐かれた声は息過ぎて聞こえない程だった。
二人の目の前では翔が、「いちゃいちゃすんな!」「那月、春歌から離れろ!」と騒いでいる。

「あぁ、ごめんごめん。翔ちゃん、仲間はずれだったね!」
「え?」

ぎゅうぅぅ、と強く翔が抱きしめられ奇声を上げていた。
騒がしい翔の声、那月の優しい体温。
抱えている不安が消えて行くのを春歌は感じていた。

(大丈夫、きっとできる…)
作品名:toccata 作家名:くぼくろ