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愛と友、その関係式 最終話

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 部屋の扉の前へ立つとポッケに入れた鍵を取りだす。鍵を開けて、中へ入ると玄関に見覚えのある靴を見つけた。合鍵を渡した相手はもちろん一人だ。
 思わず笑みが零れる。美奈子は玄関の鍵をしめて、部屋へあがった。
 部屋のソファーには少しだけ成長した鈴鹿の姿。
「――よぉ」
 鈴鹿はどこか緊張した面持ちで手をあげた。
「来てたんだ」
「……おう。お前に会いたくてよ、走ってきたんだ。あと、ちっと休みももらった。少しだけど」
「うん」
 美奈子はバスケットをおろすと、鈴鹿の隣へ腰をおろした。
 鈴鹿が美奈子の部屋へ来たときは、いつもバスケの話をする。キラキラと目を輝かせてバスケの話をする鈴鹿を見るのが美奈子は大好きだった。
 だが、鈴鹿は片頬を人差し指でかいたまま話を一向にしようとしない。
「――どうしたの?」
 痺れをきらして美奈子が尋ねると、鈴鹿は顔を真っ赤にした。それから、唾をゴクリと飲んで美奈子の両肩を掴んむ。
「あ、あのよ! お前に渡したいものがあんだ!」
 声が裏返っている。鈴鹿はぎこちない動きでポッケに手をつっこむと小さな箱を取りだした。
 ドラマなどでよく見るそれは何が入っているかが一目瞭然で、美奈子は目を点にしてそれを見つめた。
「こっ、これっ……」
 今にも爆発しそうに真っ赤な顔で鈴鹿は美奈子へ箱を押し付けた。
「えっ。えっと」
 押しつけられるまま受け取って、美奈子は鈴鹿を見上げる。
 鈴鹿はぷいと視線をそらした。
「開けて」
「う、うん」
 言われるまま美奈子は小さな箱をそっと開けた。
 出てきたのはダイヤの指輪。
 美奈子は言葉を失って、指輪を見続けた。
 鈴鹿のプレゼントはいつだって裏がない。サプライズがないかわりに、いつだって直球だ。だから、つまり――これの意味は。
 横目で見ていた鈴鹿はがりがりと側頭部をかいた。
「い、いつまでも見てんなよ。指輪はつけるもんだろ?」
 やぱり顔は真っ赤なままで美奈子の左手をとると、箱から指輪を取りだして薬指につける。サイズはぴったりだ。 鈴鹿にしては珍しい。多分、美奈子が寝ている間やアクセサリーショップで必死に頑張ったんだろう。もちろん、顔を真っ赤にして。
 その姿を想像して、美奈子は小さくふきだした。
 むっとしたのは鈴鹿だ。
「な、なんで笑うんだよ」
「違う。……嬉しい」
 くすくす笑いをやめて美奈子はほぅと息をつくと、左手に光る指輪を見つめた。
「綺麗」
 何かを色々と言いかけて、結局鈴鹿は言葉を引っ込めた。それから、咳払いする。
「これからも俺の隣で……ずっと俺の事、見ていて欲しい。死ぬまで一緒にいてくれねぇか?」
「言われなくても」
 美奈子は鈴鹿を見上げた。
「あのときから、ずっとそのつもりだよ」
 微笑む。鈴鹿は言葉を失って俯いた。
 美奈子は鈴鹿の腰へ腕を回すと、胸板にそっと耳をあてた。
 いつもより少しだけ早い心臓の音。
「これからもよろしくね」
 しばらくの沈黙のあと、鈴鹿の心臓はちょっとだけまた早くなって言葉の代わりに大きな手が美奈子の頭におりてきた。
 優しいその手は髪をすくうように撫でる。
「……おう」
 鈴鹿の幸せそうな呟きが、美奈子の頭上にまいおりた。

<END>