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tremolo

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「…そう、ですね…」
「七海だって、困惑してるはずだし、何よりも疲労を溜めてこっちに来ると思う」
「…ハルちゃん、大変です…」
「ああ、そうだ。大変だ。だから、少しでも俺達が助けないといけない。そうだろ、那月?」
「…そうですね…翔ちゃんのいいたい事、少しだけですが、分かります」

にこりとほほ笑む那月の表情を見て、翔は少し安堵した。
この機を逃すまいとたたみかける事にする。

「そうと決まれば、テーマ決めておこうぜ!」
「テーマ?」
「テーマを決めれば楽になるだろ?こう言う風にしたいーとかさ。
 俺達が勝手に決めるって訳じゃない、七海の為に、この課題をクリアーする為に。
 その為に”テーマ”を創っておいて。
 そこから”自分の歌いたい楽曲”を七海と創ればいいんだよ」

ぱあぁぁ、と光が表情にともる。
那月は思い切り翔の手を取った。
力強く、大きな手。
痛い、とても。
でも、あたたかい。
この手で、あの天才的な音楽を紡ぎ出すのだ。
そう思うと、翔の心は痛みと同時に、ハートに火が付くのを感じる。

「今回のは多分CDとかにならないだろうからさ、思い切り俺たちに”引き付ける”冒険しないか?」
「引き付ける…ですか?」

翔は頭に合った構想を口にする。

(こいつと一緒に曲を創るなら、歌うなら…)

こう言う歌が歌いたかった---、そんな思いがずっと前からあった。
コンクールで出逢った幼い頃。
トラウマになるような事を言われた幼い頃。
それでも、彼から発せられる音楽は心躍った。

二人を繋いだのは「弦楽器」だった。
クラシック、という普遍的にも思える音楽。
自分たちのやっている事は少し離れている気もするが、原点はここ。

「那月は、ヴァイオリンのレッスン初めは何だった?」
「え?初めてですか?…確か”ちょうちょ”だったと思います」
「へぇ、そうなんだ。俺は“きらきら星”だったぜ」
「お星様の曲は、その次でした。お星様の曲が最初なんて翔ちゃん羨ましすぎます!」
「羨ましいって…その次やったらかいいじゃないか」
「きらきらして可愛い曲じゃないですか。そう言うのは最初にやりたいです!」
「…あのな…ちょうちょ、だって小さいじゃん」
「あ、そうですね。ちょうちょさんも優雅で可愛らしいですよね」

段々話がずれてきた気がしてならない翔。
慌てて話を戻す。

「俺、ちょうちょ、の後は何故か”ユダス・マカベウス”でさ。
 曲名言われても分からないじゃん?
 だから先生が弾いてくれたんだよ、そしたら大爆笑」
「何でですか?」
「だってさ!賞状も貰ってないのに、行き成りそんな曲聞いてみろよ、可笑しいだろ?」
「あぁ、確かにそうですね!」
「笑いながら弾いてたら親に怒られてさ、”翔、もっと真面目に弾きなさい!”ってさ」
「それは、翔ちゃん大変でしたね」
「でも、面白かったからすぐ覚えて次の曲にいったよ。
 早めに覚えたからさ、学校にヴァイオリン持って行って、先生が何かを渡す時に弾いてた」
「いいなぁ、僕も翔ちゃんに弾いて貰いたいです」

不思議な感覚に翔は陥っていた。
幼い頃の話をしていたのと、にこりとほほ笑む那月を見て、何だか”弾きたく”なった、突然に。
あれ?翔ちゃん、と那月の声が背中に聞こえている。
部屋に戻って、急いでヴァイオリンを持ち、那月のいる所に戻る。

「翔、ちゃん?」

ヴァイオリンを持った姿を見た那月はキョトンとした表情を浮かべていた。

「弾いてやるよ」

弦の上に弓を置く。
一つ呼吸して、幼い頃のように、ヴィブラートを抑えて弾いた。

(懐かしい…)

小さい頃の記憶が脳裏に浮かぶ。
あの頃もそれなりに楽しかった。
だが一番楽しかったのは、音楽に触れていた時だった。
音が風に乗って、誰かに届いて、笑ったり涙してくれたり。
嬉しかった。
素直に、それだけが周囲に「女の子みたい」「金持ちの道楽」と嫌味を言われてもヴァイオリンを習い続けた理由だった。

弾き終わると、那月が優しく微笑んでいる。

「ありがとう、翔ちゃん…」

その声と表情を見た瞬間、翔の顔が真っ赤になる。

「あれ?翔ちゃん、どうしたの?具合でも悪い?」
「い、いや…な、何でもないから!」
「そう?なら…いいんだけど…」

心配そうな声と表情を振り切って、ヴァイオリンを部屋に戻しに早歩きをした。
扉を閉めて、肩で呼吸をしてしまう。
懐かしさとそして、あたたかさが心を支配したからだ。

そして心の中で強く思う。

(俺も、あいつも。俺達自身が幸せになる音楽を世界に広めなきゃ駄目だ…)

大切な音楽を奏でてくれる楽器を静かに優しくしまう。
大切な人と創る音楽ならば、尚更、尚更「幸せ」と「愛」があふれていないといけない。

昔を思い出すのは翔自身にとっても那月自身にとっても、あまり嬉しい事ではないが。
あの日があったから、今自分たちはここにいる。

(初心に帰ろう…そして、新しいスタートをあいつと…)

深呼吸して、翔はまた那月のいる場所に戻っていった。


作品名:tremolo 作家名:くぼくろ