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想い想えば

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「三成」

「…」

「無視しないでくれ!!」

「…」

二人の歩く速度が徐々に速くなっていく。
むしろ追いかけられている石田三成は走っている。

「三成!!!!」

しかし三成の逃走は、本気を出した相手には敵わなかった。
ガッチリと腕を捕まれ、不服そうに顔をしかめた。

「何の用だ。家康」

腕を掴んだ張本人・徳川家康は、三成と同じ、豊臣秀吉の配下だ。
特別、犬猿の仲という訳でもないが、あの日の出来事から三成は家康とはあまり接しようとはしなくなった。

「えっと……」

「…離せ」

力を込め、無理矢理手を振り払おうとしたが、家康の力は強く、離れなかった。

「聞いているのか」

「そ、そうだ。先程秀吉様から言付かったんだ」

「…」

秀吉の名を出した途端、三成の抗議が止んだ。
そのことに若干家康は落ち込んだ。
言付かったのは嘘ではないが、あらかさまに反応されるのは、三成が好きな家康にとって苦だ。

「どうした」

「いや…秀吉様が今日明日休暇をとるように。だとさ」

「む…休暇を…か」

家康の言葉に三成は渋い顔をした。

「休暇が嫌なのか?」

「…嫌という訳でもないが…秀吉様のお側にいれることで私の体は休まっているのだがな…」

「…」

家康は内心ため息を吐く。

あの日…いや、先週あたりか、立冬を迎えたばかりだというのに、その日はとても過ごしやすい日だった。
その陽気につられてか、家康は以前から恋心を寄せていた三成を見ながら、己の内に秘めていた思いをうっかり口に出してしまった。
しかも運悪く、その時は丁度軍議の最中で、三成は隣にいた。
幸い、辺りがなにか口論していたため、全体に響くことはなかったが、三成には聞こえてしまったらしい。
三成は、家康の台詞を聞き、顔をしかめて、反らした。

家康が言った一言は
「相変わらず可愛いなぁ…泣き顔、見てみたい」
だ。
どこをどうみても変態の言葉だ。
三成はそういうことで人を差別するような人間ではないが、台詞が台詞だ。
しかもその台詞を三成の顔を見ながらだったので、かなりひかれたのではないだろうか。
現に今、三成は家康と絡もうとしない。

「まぁいい…城下にでも出て刀を磨いでくるか…」

「あ!儂も行っていいか?」

「……………貴様は刀を使わないだろう」

「いや…まぁ…そうなんだが…駄目か?」

さながら子犬を連想させるような顔で家康は見つめてくる。
しかしそんな手は三成には効かなかった。

「駄目だ。ついてくるな。残滅するぞ」

そう告げると、三成は足早に去っていった。

「………駄目か」

しかし家康はそんなことで諦めるほど、細い神経の持ち主ではなかった。

「…よし」

気合いを入れるかのように拳を握りしめ、三成が去っていった方角へ足を進めた。



***************************



城下町はいつもの通り賑わっていた。
しかしその賑わいは、三成にとって雑音でしかない。

「…はぁ」

生来、あまり人とは関わるのが好きではない三成は、溜め息しか出ない。
人混みに揉まれながら嫌そうに進んでいる三成の少し後ろには、家康がこそこそとついてきていた。
普段の三成ならばそれに気づくだろうが、今は人混みの中。
家康一人の気配など、気づく訳がない。

「三成の奴…大丈夫か…?」

フラフラと人混みに流されている三成を見ているのは、心配で心配で仕方ない。
いっそのこと奇遇を装い話しかけようかとまで思い始めていた。
声を掛けようか悩んでいると、誰かが三成に話しかけた。

「誰だ…アイツは…?」

後ろ姿だけでは誰かが判断できないところを見ると、豊臣の武将ではない。
豊臣の武将は皆、自己主張が激しく、遠くから見ていても分かるぐらいの格好をしている。
しかし、豊臣の武将ではないとなるといったい誰なのだろうか。
兵の誰かだろうか。
いや、三成はあまり友好関係が広いというわけではない。
豊臣勢でも、いまだ口をきいたことのない人間もいるだろう。
そんな三成が城下にきてまで話す友人がいる訳がない。
はずだ…

悶々と考えていると、いつの間にか三成の姿がなくなっていた。

「あれ?どこいったんだ?」

ただでさえ三成の姿を確認するのが困難な状態だったのに、その姿を見失ってしまったら、再度三成を見つけるのは無理に等しい。

「はぁ…帰るか…」

尾行をあきらめた家康は、踵を返し人混みに逆らって帰路についた。



************************



数日後

「…」

本田忠勝は、鍛練所で鍛練していた家康をじっと見つめている。

「どうした?忠勝」

「…」

「ん?儂に元気がないと言いたいのか?」

ゆっくりと頷く忠勝に、家康は豪快に笑った。
家康と忠勝は幼い頃からの仲で、忠勝が何も喋らなくても、何を言いたいかを分かってしまうほど絆が深い。

「忠勝には分かってしまうのか」

「…」

「儂はな…無理に三成と恋仲になろうとは思わん。まぁあわよくば…とは思っておるがな」

「…」

淡々と己の内を吐き出した家康を忠勝はただジッと聞いている。

「しかしあれはどういうことだっ暇があったら毎日毎日城下に行きよってっ儂のことなど見向きもせんっ」

「…」

普段家康は愚痴を言わないのだが、三成が絡むと一変したように愚痴を溢す。

「……すまんな、忠勝」

「…」

「儂はどうすればいい……?」

「…」

互いに互いの目を見る。

「……そうか!当たって砕けろだな!!分かった!!」

「…」

忠勝は別にそんなことが言いたかった訳ではない。
しかし長年の絆も恋心には敵わなかった。
家康は鍛練所を飛び出していった。
そんな家康を忠勝はただ見守ることしか出来なかった。



****************



「みーつーなーりー?」

鍛練所を飛び出して早数刻。
三成の姿が見つからない。
広い城の中、散々走り回っていても家康は息切れをする気配がない。

「どこいったんだ?」

そこで、三成の副官を見つけた。
副官は大量の書物を両手いっぱいに抱えて歩いていた。

「お前三成の所の副官だよな?」

「これは家康殿。どうなさいましたか?」

副官軽く会釈をしながら、切羽詰まった様な顔をしている家康を見る。

「三成は何処に行ったんだ?」

「あぁ。石田様なら用があると城下に行かれましたよ」

またか。
さすがにここまでくれば逆に興味がわいてくる。
が、
そんなことはやはりあり得ない。
ただ不安と苛立ちが募るばかりだ。

「石田様は城下に行かれる前に、必ず大谷様の所に行かれます。まだそちらに居られるのでは?」

大谷吉継。
三成の唯一の友人と言える人間だ。
大谷は確か皮膚病であまり健康とはいえない身体だったはず。
部屋もなるべく静かな離れにある。
家康はパッと顔を上げ、太陽のような微笑みを見せた。

「ありがとう。では行ってみる」

走り出した家康の背を見ながら、副官は忠勝同様、見守っていた。

*****

「失礼っ!!」

「何事よ、騒々しいのう」
作品名:想い想えば 作家名:香仲