想い想えば
襖を勢い良く開けると、そこには床に伏している大谷がいた。が、三成の姿は見えない。
「大谷殿、三成がここに来なかったか?」
「三成はほんの数刻前に出ていきよったわ」
「そうか…すまなかったな」
「待たれ」
そのまま出て行こうとする家康を、大谷が引き留めた。
家康としては早く三成の後を追いたいのだが、無視するわけにはいかず、体勢を大谷に向けなおした。
「何かあったか。大谷殿」
「そう急くな。こう引きこもっておると人恋しくなるものよ。」
「はあ…」
これは暗に話し相手になれと言っているのだろうか。
何も返事を返せずにいると、大谷は楽しそうに肩を震わせた。
「ぬしは素直なやつよのう」
「?」
言っている意味が理解できない。
もとから大谷は言葉を濁し、心中を探らせないよう会話をしている。
頭がきれる者だとある程度意図に気付くだろうが、何せ今話しているのは家康だ。
お世辞にも頭がきれるとは言えない。
「ヒヒ。まぁ座れ」
言いながら、大谷は身体を起こす。
大谷は皮膚病を患っているため、肌が見えないほど包帯を全身に巻いている。
「三成以外に我を訪ねてくるとは思ってなんだが」
家康はその姿を奇妙とは思わないが、他の者は違うらしく、人はあまり寄り付かないらしい。
「まぁぬしは三成に用があるだけよ。そう長くは引き留めん」
「すまない」
「素直素直」
ヒヒヒと笑われ、家康は誉められているのかけなされているのか少し不安になった。
「ところでぬしは何故三成を探す」
「あー…少し頼みたいことがあってな」
素直に、告白したいから探している。とは言えず、ごまかした。
が、その態度が不自然だったため、大谷は悟った。
「さようか。うまくいくとよいな」
「ああ」
大谷の言葉の意味を深く考えずに家康は頷き、腰をあげた。
「では大谷殿。今度は手土産を持参して参ろうと思う」
「手土産…か…ならば城下の外れにある薬屋で華蛇という薬を買ってきてはくれぬか」
大谷は少し思案したあと、小さな紙に地図を書き、金と一緒に渡した。
「おやすいごようだ。今日中でいいか?」
「良い良い。三成に頼み忘れてしまっての」
「!」
大谷の台詞に、家康は嬉しそうに笑った。
大谷は暗に三成の居場所を教えてくれたのだ。
「ありがとう。必ず持ってくる」
「戸は閉めてゆけ」
急ぎ足で去った家康を見守りつつ、三成の反応を想像し、愉快な気持ちが押さえられなかった大谷であった。
続く