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普通車は四輪、軽だって四輪!

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どぉぉぉん、と爆発音が響いた。
車体は黒煙と炎に包まれ、近づくこともできない。
燃え上がる車に向かって、沖田のバズーカが火を吹いた。
辺りに二度目の爆音が響く。
同時に近藤の叫びも響いた。
「総悟ォォォォ!何やってんのォォォォ!!」
「俺ァ桂にトドメを刺そうと思っただけですぜ」
「お前今、明らかにパトカー狙ったよね!?ダメだから!あれ、まだトシが乗ってるからァ!!」
「成仏してくだせェ、土方さん」
なーむーと手を合わせる沖田に、近藤は激しく首を振った。
「まだだから!まだ死んでないからァ!!」
その言葉に応えるように、炎の中で人影が揺れた。
「おお、トシ!やっぱり無事だったか!」
「ちっ。まァだ生きてんのかィ。しぶてェ野郎だ」
ざ、とバズーカを構え直す沖田の前に、近藤は慌てて立ち塞がった。
「だァから、ダメだって!あれ、トシだって!!トドメ、ダメ、絶対ィ!!」
「ちっ」
再び舌打ちして沖田はバズーカを下ろした。
その舌打ちは、桂を逃したことなのか土方にトドメを刺しそびれたことなのか、どちらなのかは分からない。
いや、両方なのは何となく分かっている。
だが近藤としては、嘘でも良いから前者であってほしかった。
炎が燃えさかる車の中から、土方が這い出てきた。
ところどころ焦げてはいるが、ちゃんと生きている。
爆発の衝撃か、足下をふらつかせながら、それでも余裕のある振りで懐から煙草を取り出し、一本くわえた。
かち、とライターの火を点けた瞬間、エンジンに火が回ったパトカーは、三度目の爆発を起こし、大破した。


「というわけで、トシ。新しい車が来るまで、これに乗っててくれ」
渡されたキーと車とを見比べ、土方は近藤を見た。
「近藤さん、これ、軽じゃねェか…ミニパト…?」
「だから、次の車が来るまでの辛抱だって」
土方は憮然として目の前に停まるミニパトを見た。
そして駐車場を見回す。
まだ何台も普通のパトカーが停まっている。
他の隊長や平隊士までも普通車に乗っているというのに、なぜ副長である自分が軽自動車なのか。
何だか納得が行かない。
「おい、原田ァ、くる――」
「ではこれより市中巡回に言って参ります!」
土方が言い終えるより早く、原田他隊士たちは一斉に各々の車に乗り込み、警邏へと出発してしまった。
瞬く間に駐車場は空になる。
残っているのは近藤、土方、沖田と、ちょこん、と佇むミニパトだけだった。
「土方さァん、みんなもう行っちまいやしたぜ。俺たち出遅れでさァ。早く行きやしょうや、この『ミニパト』で」
ことさらにミニパトを強調した言い方で、沖田が乗車を促す。
口を歪めて言うその言葉には、明らかに悪意が籠もっていた。
土方はそれを感じ取ると、くわえていた煙草のフィルターをぎり、と噛み潰した。
「誰のせいで俺の車が大破したと思ってんだ、この野郎…」
「桂でしょ?奴の爆弾を投げ込まれたからでぃ」
「一に桂で二にお前だよ!知ってんだぞ、てめーがバズーカ撃ち込んだのォ!」
「桂を仕留めるためでさァ」
「桂仕留める前に、俺を仕留めようとしたよなァ!?俺のが先だったよなァ!?もっかい言うけどなァ、俺ァ知ってんだぞ! 近藤さんが止めなかったら、三、四もテメーだったろうがァ!!」
「もしそれが俺だったとしたら、三で仕留めまさァ。四まで手間掛けるわけねェでしょう」
「あァ、そう!そりゃ良かったよ。危うく俺ァ後一手で仕留められるとこだったよ!ホント、近藤さんに感謝するよ!」
「だそうです。良かったですね、近藤さん」
「はっはっは。いやァ、どういたしまして、トシ」
「近藤さんを称える前に、テメーの悪行を悔い改めろ!」
「土方さんこそ普段の不摂生を悔い改めたらどうなんすか。マヨと煙草の遣りすぎですぜ」
「関係ねェだろ。俺がマヨと煙草遣りすぎたからって、誰かに迷惑かけたか」
「掛けてますぜ。バリバリでさァ。自覚がねェたァすげェや。さすが土方さんだ。 あんたが狭い車内で好き放題マヨと煙草やるもんだから、臭いが染み込んで次に車使う奴が耐えられねェんでさ。 だからみんな土方さんの使った後は使いたがらなくて、結局副長専用車なんてことになっちまって、 みんなで使う車が一台減っちまった。今回みたいにそれがぶっ壊れたら、もう乗る車なんてありゃしねェ。 結局のところ、土方さんのそのマヨと煙草は、真選組の効率的な活動と土方さん自身の行動の柔軟性を著しく 損なってるってことでさァ。さァわかったらこれ以上ここでぐだぐだ言ってねェで、 そのミニパト乗って市中見回りに行きやがれ」
「GO!トシ!」
「わかったよ、行けば良いんだろ、行けば!――で、何で二人ともその車に乗り込んでるわけ?三人? このちっこいミニパトに、大の大人が三人?走るわけねェだろ。降りろ、二人とも。見回りには俺一人で行く」
煙草をもみ消し、土方は運転席に乗り込んだ。
シートベルトを締めたり、ミラーの位置を合わせたり、ごそごそやってさあ出発しようか、という頃になっても、 近藤は助手席に沖田は後部座席に、それぞれ座ったままだった。
「――だから、走らねェって。馬力小せェんだから。降りろ!」
「いやいや土方さん、危険任務の真選組は二人一組で行動するのが基本ですぜ。もし土方さんを一人で行動させて、 うっかりどこかの攘夷浪士にでも仕留められたら俺ァ一生後悔するんで。今日のバディは俺でさァ。降りるわけにはいきやせん」
「いやいやトシ、今日は月に一度の局長の市中見回りデーだからな。俺が行かんと他の連中に示しがつかん。 降りるわけにはいかんのだ」
「だったら何でそんな日に軽自動車用意するんだよ!?他の奴の車に乗れば良いだろ!? それに二人一組って、テメーと組んだ方がよっぽど身の危険を感じるっつーの! 常に背後からロックオンされてる気分だっつーのォ!!だから、降りろォォォ!!」
ばんばん、とハンドルに激情をぶつけ、土方は二人に降りるように再度促した。
「降りてどうするんですかィ。もう他の連中はどっか遠くに行っちまいましたぜ」
「呼び戻せば良いじゃねェか。局長と隊長拾いに来いって言えば、誰か来るだろう」
「どうやって?」
「無線があるだろ!?無線でぴぃって呼べばいいだろ!ほら、無線――あれ?無い」
「この車、代車だから無線までは着けてねェって納車の時に言ってましたぜ」
「GO!トシ!」
「………」
「GO!トシ!」
「てめーまでトシとか言ってんじゃねぇよ!むかつくんだよ!あーもう分かった。行くよ。 行けばいいんだろ。どうせこの車じゃ赤坂五丁目の坂は登れねェ。どっかそこら辺、適当に流してやる」
他の隊員たちの出発から遅れること数十分。
ぶぉん、とアクセルを踏み込み、土方の運転する車はようやく動き出した。


ぼるぼるぼる、と排気ガスをまき散らしながら、三人を乗せたミニパトが走っている。
「なぁ、トシ」
ゆっくり流れる窓の外を眺めながら、近藤は陽気な口調で言った。
「もうちょっとスピードは出ないのか」
「あ。自転車に抜かれた」
一生懸命自転車を漕ぐ少年の姿が、ゆっくりと車を追い越して行く。
「何か後ろの方もずらっと並んでんだけど。かなり渋滞引き起こしてるんだけど」