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金色の双璧 【単発モノ その1】

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3.

「ほら、シャカ」
 ボトボトと滴を垂らしながら、川縁まで近づき、絞った布をシャカに手渡そうと手を伸ばした次の瞬間。
「あっ……」
「えぇ!?う……わっ!?」
 バッッシャーーン!と盛大に水飛沫が上がった。
 シャカもアイオリアから布を受け取ろうと手を伸ばしたが、足下が悪かったのだろう。シャカはバランスを崩し、そのままアイオリアの方へと倒れた。アイオリアも足場の悪い状態だったものだから、そのまま一緒になってひっくり返る羽目になったのだ。尻餅をついたままのアイオリアの上に馬乗り状態でシャカは呆然としていた。飄々としたシャカからはあまりにかけ離れた、あどけない表情をして。
 アイオリアは間近にあるシャカの顔から目が離せないままでいた。シャカは上に乗っていたけれども相変わらず細くて体重をまったく感じさせないとか、瞑ったままの瞼から伸びる睫毛が本当に長いなとか、首筋が白くて柔らかそうだなとか本当に色んなことが頭の中に駆け巡っていた。
「フ……フフフ……結局、この様ではまったく私の過ごした時間は無駄に終わってしまったな」
 立ち上がったシャカはアイオリアにも手を伸ばし、起き上がる手伝いをしながら笑った。
「ごめん。結局、おまえまでびしょ濡れだな」
「いや、君が謝る必要はない。くだらぬことで悩んでいた私が悪いのだよ。これからは悩むことはしないようにする。巻き添えをくわせてしまったな、君には」
「え?あぁ、構わないさ。俺は好きでやったことだし―――」
 アイオリアがシャツの裾を絞り、水気を切っているとシャカもまた長い髪をギュッギュと絞ったあと、今度は足下の裾をたくし上げて同じ動作を繰り返したが、布量が多過ぎるのだろう。上手くはいかない様子で不満げに眉根を寄せたと思ったら、アイオリアが口を挟む前にイソイソとシャカは袈裟のような布を取り去った。
「なんだ……ちゃんとアンダー着てたんだ……慌てて損した」
 シャカは袈裟布の下はスッポンポンというわけではなくて、ちゃんとアンダーシャツとズボン(といってもスパッツみたいなやつ)を着ていたのだ。アイオリアは安堵するとシャカは怪訝そうに口を曲げた。
「君が何故慌てるのかも損するのかもわからないが」
「気にするな、言葉のあやってヤツだ。にしてもおまえ、ちゃんと喰ってるのか?細すぎだろ」
「うるさい。私のことは放っておきたまえ」
 ヒョロっと背だけ伸びて、ひどく薄っぺらいのだ。それなりに体格良く見えていたのはほとんど布で覆われていたからで、黄金聖衣着用時も同じように体格を上手く誤摩かすのに役立っていたのだろう。
 シャカも自覚しているのか、ムッと機嫌を損ねたらしく、丸めた布を小脇に抱えながら、川縁から道へと向かい始めた。
「ちょい、俺も帰るよ。待てって!怒んなよ〜、だってさ、おまえ本当に薄っぺら過ぎるって。何だったらさ、上手くはないけど俺がメシ作ってやろうか?」
「ああもう、君はうるさい。うるさい。うるさい。うるさい」
 どんどん先に歩いて行くシャカ。慌ててアイオリアが追いかけた。
 どうでもいいことだが、まるで目印のようにシャカの髪にはまたもや数匹のホタルがへばりついていた。「根性あるなー」とアイオリアは呟きながら微笑み、小さな光を振りまいて足早に歩くシャカの後を追ったのだった。


Fin.