金色の双璧 【単発モノ その1】
Scene 04.誕生日
1.
『へんなの、おまえ。一度も誕生日祝ってもらえなかったなんて。ああ、そうか。おまえ、きっといらない子だったんだよ。可哀想になぁ』
「う、嘘だ!俺はそんなこと言った覚えはないぞ!?」
「―――無邪気に笑いながら、君は……そういったのだよ」
ようやく、永久凍土から這い上がりかけたアイオリアをもう一度、凍りつかせるように無機質な声が容赦なくアイオリアの胸を抉った。
「大概、言った本人は悪意があろうとなかろうと忘れるものだ、アイオリア。私が少なからず傷ついていたことなど君は知る由もなかっただろうな」
冷え冷えとしたシャカの言葉に、返す言葉が思い浮かばずアイオリアは黙り込んだ。
―――もうすぐシャカの誕生日。
今年こそは何かを贈るか、何かシャカが気に入るようなことをしたかった。今まできちんとシャカの誕生日を祝う機会などなかったから。ある意味、自分にとっても特別な意味のあることだとアイオリアは意気込んでいた。
しかし、なかなかに好みが難しいシャカであるため、幾日も考え込んだ末、あちこちリサーチしては見たものの、あまりにもその答えがバラバラで、何が良いのか判らなくなってしまったのだ。それで結局、本人に潔く聞いたのだが。
少しは喜んでくれると思っていたアイオリアの意に反して、シャカはコキュートス並みに冷たい表情を浮かべながら、冒頭の言葉を口にした。そして見事、一瞬にしてアイオリアは凍りついたのである。
アイオリア自身にはそんなことを言った覚えはまったくなかった。子供時代、それもシャカが来て間もない頃の話だそうで、まったく記憶の隅にすら残っていない。
だが、シャカはそうではなかったらしい。どこかで燻り続けていた記憶がアイオリアの迂闊な行動によって、当時の苦い想いが鮮明に描き出されたのだろう。
「さて、今まで斯様な祝い事などしたことはなかったゆえ、それに私は“いらぬもの”であろう?ならば退散するとしよう」
すっくと立ち上がったシャカ。慌ててアイオリアが飛びつこうとしたが、あっさりと跳ね返され、彼は姿を消した。久々に獅子宮を訪れたシャカがあっという間にインドに帰ってしまった。
ショックのあまり、アイオリアはしばし呆然とその場で立ち尽くしながら、ようやくボソリと嘆いた。
「まずい……最悪だ」
完全に怒らせた。
非常にまずいことになったとアイオリアは頭を抱え込んだ。
作品名:金色の双璧 【単発モノ その1】 作家名:千珠