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七瀬りおん
七瀬りおん
novelistID. 11757
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【新刊サンプル】キャンディボックス

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【初恋ロリポップ】


 出会いは電車の中で一人、異彩を放つ色。その圧倒的な存在感に目を奪われ、そちらを見ていたら視線があった。そのとき心を奪われた。赤い、燃える炎のような赤い瞳。奪われたなんてもんじゃない、燃やしつくされた。
 話したきっかけは自分が定期を落としたことだ。この話をすると必ずからかわれる。それでも、これが最初のきっかけだったのだから仕方ない。
 その日、いつも通りの駅で降りて、改札へ向かい歩く。改札の前まで来てポケットの中にICカードが入っていないことに気がつく。なくすのはとてもまずい。あれは半年分の定期なのだ。いつも更新日を忘れてしまうので一カ月分や三カ月分だと面倒だったので思い切って半年分買ったのだ。だから、あれがないとものすごい損失だ。
 たしかにポケットに入れたのだ。そうでなければこうして駅構内にいるはずがないのだから。
 おろおろと探していると控えめに肩をたたかれる。
「あの、これ落としましたよ」
 そう言って定期入れを差し出していたのはずっと気になっていた彼。
「あれ?違いますか?」
「あ、いや…俺のだ。ありがとう」
「いや、落としたみたいだったし、なかったら困るだろうから…」
 少し背伸びをしたような、あまり慣れていないたどたどしい敬語。
 ああ、本当に学生なんだな、なんて思う。自分がもう袖を通さなくなった学生服がなんだか眩しく見えるのは年をとったからなのだろうか。
「あ、これからヒマかな?」
「へ?」
 定期を渡したことでやることは終わった、というようにまたホームへと戻ろうとする青年を足止めするように呼びとめる。
「ヒマだったら、このお礼をしたいんだけど」
 まるでナンパだ、と一瞬思ったが、いいじゃないか、ナンパだって。立派な出会い方だ。
「あ…すみません、弟迎えに行かないと行けないんで…」
 だから無理です、と断られぽかんと口を開く。失敗したか、と不安に思いつつ、ビジネスバッグから名詞を取り出し、手渡す。
「それなら、都合が良いときでいいからここに連絡してくれないか、お礼がしたいんだ」
「いや、いや…だって拾っただけだし…」
「だけってことはない、これがないと明日困るし、こうやってわざわざ電車を降りてまで届けてくれたことに対してお礼をしたいんだ」
「あ…そんなら、携帯出してもらえます?」
「ん?」
「赤外線で俺のアドレス送るんで…メールします。」
 ブレザーのポケットから携帯電話を出した彼、慌てて自分も携帯を取り出す。そして赤外線受信の画面にする。
 マナーモードにしてある携帯がぶるるっと震え、データを受信する。それはただのデータではない。これが第一歩になる、してみせる。
「ギルベルト・バイルシュミットで登録されてると思います」
「俺の名前は、」
「知ってます、名詞もらったんで。カークランドさんでしょ?」
「お、おお…」
「?」
 名前を呼ばれただけでときめきが止まらないなんて、まるでガキの恋愛のようだ、と自嘲する。そんな気持ちに気づかない青年―ギルベルト―はきょとんとしている。
「じゃ、今度都合のいい時に連絡して」
「え?」
「君、忙しそうだから。バイルシュミットくんの都合のいい時でいいよ」
 こういうところで大人である、ということを見せておく。本当はこちらで予定を決めてしまいたいけど、急いでいる彼をこれ以上ここに引き留めるわけにもいかない。
「あ、ありがとうございます。それじゃ…」
 それに予定を聞ければいろいろと計画もできる、というものだ。すでに脳内で計画を立てるアーサー。
「ああ、じゃあ…連絡待ってるぞ」
「は、はい」