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アストロズ寮食堂にて(矢太+いっぱい)

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さて、突然ですが。
 アストロズ寮食堂にて、苺がおやつに出されました。
 …どんな球団ですか、なんて突っ込みは無しですよ?
 いちごはきっとファンからの差し入れです。下北沢の田舎の農園からお中元とかでもいいです。きっと一族で天然です。
 まぁ、それはそれとして。


 食べ方にも色々あります。
 そのままかぶりつきとか、練乳かけてとか、砂糖と牛乳入れて潰してとか。
 個性丸出しですね。
 しかしこの貧乏球団に、そうそう練乳だとか牛乳だとか、個人の所有物でもない限り、常備されている筈も無く。



 果物は、体にいいと。まぁ、通説である。
 第一、食物には大抵何かしらの栄養素が含まれているのだから、間違ってはいないだろう。
 つまりは、そういう事で。

「…矢島さん、いちご、食べないの?」
「ああ、俺は少し食べたから、もういいんだ」
 だから俺の分も食べていいぞ、と苺の入った皿を目の前に置かれた。
「……ん~……」
「?どうした?太一」
 難しい顔をして唸る太一に、疑問符を浮かべる矢島。
 自分の分は普通に食べていたから、別に嫌いという訳ではない筈だが…と考えていた矢島の耳に、困った様な太一の声が届く。
「……矢島さんはいちご、きらい?」
「……?」
 眉根を寄せ、眉尻は下がり、八の字に。
 何故困った様にそんな質問をされるのか解らなかったが、取り敢えず答えてみた。
「いや、別に嫌いではないが……」
「そっか!!じゃ、食べよ!!」
「ん?」
 矢島の答えにいきなり元気になって、笑みを見せる太一に首を傾げる。発した台詞の内容もよく解らない。
 と、そんな矢島を置いて。向かい合って座っていた太一が、椅子に立って身を乗り出した。
「太一?」
「えいよーあるんだって!!だから、食べよー?」
 はいっ!!と元気に差し出したのは、いつの間にやらご丁寧にヘタを取ったいちご。
「……太一?」
「あーん!!」
「……………」
 他意は無いのだろう。というか、あってたまるものか。
 無邪気ににこにこしながら、手ずから苺を食べさせようとしているこのお子様に。
 先程の言葉から考えるに、栄養をとってもらいたいらしい。手術の時には大分心配をかけてしまった様だから、太一にとっては当然の行動なのだろう、と矢島は冷静に結論づけた。
「…じゃあ、もらおう」
「ん!!」
 ところで、ここは食堂である。人の目は普通にあるし、こちらを見る連中の心情も様々だろう。…解り易く殺気が多いが。
 今のやり取りのせいか、更に強まった殺気がびしばし飛んでくるのを感じながらも大して気にせず、矢島はそれに噛り付いた。


 そこより少し離れたテーブルで。
「……お前、アレやってもらったことあるか?」
「………何が聞きたいんですか和久井さん」
「やってもらいたいか?」
「聞くなぁぁっ!!」
 和久井にモロに聞かれて爆発泰二。しかし太一達には聞こえない程度の音量で。無駄に器用である。
「……少しは堪えろよ、泰二……」
 呆れた様に平田が言う。ま、無理だろーけどなー、と続けるあたり、本気で太一以外には容赦無い。
「で、でも、やってもらいたい……よね?」
 それは明らかに自分の事だろうが、何気にきっちり会話に参加しているのは浅見だ。なんだかんだと自己主張はする様になっている。
「……おれはやりたいです」
 ぼそりと呟くのは下北沢だ。
 あーん、をやってあげたい方らしい。
 一同、下北沢の方を向き、この野郎…などと思いつつ。
(……この真顔で黙々と太一に餌やりかよ……)
(……これはあれか、喧嘩売られてんのか)
(フツーほのぼのシチュなんだけどなぁ、そーゆーの……)
(……それならぼくがやった方がいくらか……)
 ………なんか皆してコワイ想像になった。どさくさに浅見が調子こいた事を考えてたり。
「まぁ、おれはやった事あるけどな」
「ぶうっ!?」
「……平田……てめぇ……」
 あっさり言った平田に吹き出す泰二と切れかけ和久井。
「別になんでもないだろ。お裾分けに卵焼き一切れ食わせただけだよ」
 保護者ポジション平田さん。やはりこの面子の中でも一歩抜きん出ている。
「……いーなぁ……」
「……むぅ」
 浅見は羨ましげに、下北沢は眉根を寄せて唸りつつ。
 ふと、太一達へと視線を戻した目には、新たな展開が映し出されていた。


 もう何個目か。最初の一個からずっと、手から直接食べさせてもらっている訳だが。
 こちらが中途半端な噛り方をしたせいか、太一の手が苺の汁で濡れているのに気付く。
「……すまない、汚れたな」
「え?…あ、ううんっ、へーきっ!!あとで洗うしっ!!」
「……そうか。しかし、もったいないな」
「えっ?…ひゃっ!?」
 手を取られたと思ったら、指をぺろりと舐められ。
「………え、あ、え?や、やじま、さんっ?」
「ん?」
 こちらに視線を寄越すものの、指に口付ける様にちゅ、と吸い上げられ、硬直する。
 顔が勝手に赤くなってくるが、どうしてかは解らない。
「え、あ、んと、フォーク、つかったほーが、よかった?」
「ん、いや…たいちの方がいいな」
「え、えっと……」
 言葉を交わす間にも、その動きは止まらない。
「ん、ぅ……あ、や、やじまさんっ?いちご、のこって、る、よ?……んっ」
「ああ、あとでもらおう」
 やめる気は無い様だ。
「え、えぅ……」
 困りきった声が太一の口から漏れるが、矢島の行為を止める力は無かった様で。
 ちゅく、と音を立ててしゃぶられ、舌で撫でられる。
(……な、なんかむずむずする…?)
 体のどこかが疼く気がするが、よく解らない。
(……これは……まずいか?)
 一方矢島もやめるタイミングが掴めなくて少々困っていた。
 いや、やめる気はあるしタイミングもあった筈なのだが。…何故やめられないのか、薄々気付きつつもあまり考えない様に。
「………」
「んぅ……」
 …すればする程、舌が勝手に動く。
(……なんというか、体は正直だな)
 自分に対してそう思い、少し呆れ。
 だから、その声に反応が遅れた。
「いちごより、たいちのほーがうまいの?」
 ……いつの間にか、石田がテーブルに顎をのっけて二人を見ていた。
「いっ、いしだーーー!!」
 慌てた太一の動きに、指が離れた。…矢島さん、ちょっぴり残念。
「たいちうまいのー?じゃあ、おいらも食べていー?」
「にゃわっ!?」
 何故か耳に噛り付いた。甘噛みっぽく。
 ぴく、と矢島のこめかみ辺りが動いた。
「いっ…いしだーーーっ!!!」
「はははーっ」
 と、矢島がひょいっ、と太一を持ち上げ、奪還。
「……たいちは食べ物じゃないな」
「えー。だって、矢島さん、たいちのこと食べてたー」
「……舐めていただけだ」
「え、えええとっ、お、おれっ、まだおふろ入ってないからっ、これから入りにっ」
「じゃあおいらも一緒にふろ入るー!!」
「…俺も行こう」
「えっ、あ、でも……」
「おれも行きますっ!!」
「し、下北沢っ!?」
 下北沢乱入。参戦と言うべきか。
「背中、ながしますねっ!!」
「洗いっこしよーなー、たいちーっ」
「……賑やかになるな」
「え、えと……?」
 あれよあれよと。