Shadow of HERO 5
「なーそう拗ねるなって。」
「拗ねてません、人を子供みたいに言うのは止めて下さい。」
ここ最近で何度同じようなやり取りをしたことか。毎回宥め役は虎徹だが、バーナビーは自分は悪くないと思っている。理由は違えどいつも原因は彼女の方なのだから。
「ほらバニーちゃん、コラボコラボ!」
「何がコラボですか、オバサンがそんなことしたって可愛らしくも何ともありませんよ。それと僕の名前はバーナビーです。」
虎徹が差し出してきた兎のヌイグルミを押し退けてそっぽを向く。
(どうして僕がこんなとこ…。)
バーナビー達が今いるのはデパートのおもちゃ売り場だ。彼女には10歳になる娘がいるらしく、誕生日が近いのでプレゼントを買いたいらしい。今日は寄り道するから護衛はいいという言葉を撥ねつけて付いてきたが、こんな所なら来なければよかったと思う。しかしそういう油断の隙を犯罪者というのは突いてくるわけであって、それを考えるとどんな場所でも付き添うしかない。
無心になれと己に言い聞かせて、顔が見えぬよう帽子のつばを前に傾ける。こんなところで誰かに顔を見られ騒がれたら、妙なゴシップにされかねない。
「なぁ、これどう思う?」
「いいんじゃないですか?」
「じゃあこれは?」
「いいと思いますよ。」
「…これは?」
「いいと思います。」
「バニーちゃん真剣に考えてないだろ。」
当たり前だ、なぜ自分が他人の娘の誕生日プレゼントを真剣に考えなければならないのだ。
「そんなの旦那さんとなり、娘さんとなり考えて下さい。」
「旦那は5年前に他界した。娘は単身赴任だから一緒に住んでないんだよ。この状況じゃ会いに行くのも難しいだろ。」
「……すみません、失言でした。」
「気にしてねぇよ。」
左手の薬指にはとっくに気付いていた。一度も外しているところを見たことがないので勝手に幸せ夫婦だと思っていたのだが、まさかすでに他界しているとは。娘だって彼女の様子から溺愛しているのは間違いないのに、一緒に住んでいないとは思わなかった。サラッと流されてしまったが、今のは言うべきじゃなかったなと後悔が胸に浮かぶ。
「楓って何が好きなんだ?……バーナビー…?」
腕を組んで考え込みながらでないと出てこないのは、単身赴任ゆえいつも接していないせいか。
「ファン、なんですか?」
「確か前に電話した時めっちゃ話を聞かされた。」
「…だったらサインでも書きましょうか?」
「へ?いいの!?」
驚く虎徹に頷いた。あんな失礼を言った後では、さすがに何もしないで立っている気にはなれない。
「じゃあ文房具売り場に色紙買いに行こ!…って、あれ?」
文具売り場は上の階なのでエスカレーターへ向かったのだが、そこで2人の足は止まった。なぜかシャッターが下りてきている。階段へ続く通路も同じで、エレベーターはランプが消え止まっていた。
「な、なんだ?」
「店員は…」
どういうことか尋ねようと店員を捜すが見当たらない。ものすごく嫌な予感がする。
その予感は当たってしまった。
「全員手を上げて中央に固まれ!妙なことをしたらこの辺り一帯に仕掛けた爆弾を爆発させる!!」
突然スタフッルームから出てきたスイッチを持った男達がバーナビー達を取り囲んだ。
「マジかよ…」
「あなた2度目ですよね、何か憑いてるんじゃないですか?」
「んなわけないだろ…多分。」
そう否定した虎徹の顔は引き攣っていて、あからさまにため息を吐いたのだった。
Shadow of HERO 5
フロアにいた客は全員ロープで高速され、フロアの中央に集められた。他の階へ続く道は全て閉ざされ完全に閉鎖状態だ。バーナビーはこっそりと犯人達を盗み見た。
(銃を持ってる奴はいないな。今ならいけるか…?)
犯人は比較的軽装で、武器を隠し持ってる風ではない。幸いバーナビーのことには気付いていないようなので、これなら不意を突けば突破できるかもしれない。
タイミングを窺いつつ体に力を入れる。しかしそれは「バニーちゃん、待て」という彼女の制止によって阻まれた。
「なんですか、オバサン。」
「この事件、ただの立て篭もりじゃねぇかも。なんか犯人、メディアにはデパートのあちこちに爆弾仕掛けたって言ってるみたいだ。」
「…なんでそんなことが分かるんです。」
「これだよ。」
虎徹が髪をかき上げて何かをはめた耳を見せてきた。確かこれは、少し前に発売された超小型の音楽プレーヤーだ。このサイズにも関わらずラジオも備わっているということで、最小のマルチメディア機器として話題になったのを覚えている。
「とっさに耳にはめといたんだ。いやー会社でこっそりヒーローTV聞くために買ったのが、こんな所で役に立つとは。」
「いい大人が何してるんですか。まぁいいです、それで外はどうなってるんですか。」
「ん、どうやら爆弾はデパートの至る所に仕掛けられてるみたいだ。なぜか仕掛けた場所を公表してて、今ヒーロー達が解除してってる。ただ、それにこの場所は含まれてない。」
「ここに爆弾がある、というのはフェイク…?それかここだけ隠しているか…。でもなぜ…」
「これは俺の考えだけど…ここの爆弾は虚言で、ここにいるのは殺傷能力の高いNEXTなんじゃないか。」
「根拠は?」
「人質を見てみろ、店員がいねぇだろ。」
虎徹に言われて人質をそっと見てみる。彼女の言うとおり、レジなり商品の整理なりで10人はいてもおかしくないスタッフが、1人もいない。店員のみ別の場所に集められたのだろうか。
「先にシャターが下りてきたところから見るに、犯人は2手に分かれてると思う。それで今はスタッフルームとか監視カメラの映像が見れる場所に店員といて、人質が変なことしねぇよう見張ってるんじゃないか。何かを要求する気も焦ってる様子もないから、最初から人質を生かしとく気はなくてヒーローを躍らせた後に人質を無残に殺すのが目的…そんなとこじゃないかと俺は思う。爆弾でも殺せるけど、巻き添え喰らう可能性が高いだろ。ただ…そんな回りくどいことまでして人を殺す理由が分かんねぇけど。」
認めるのは癪だが、この推測は当たりではないかとバーナビーは思った。店員がいないのにも頷けるし、わざわざフロアの中央に集められた理由も説明がつく。手首を縛られたのも関わらず足を縛られなかったのは出入り口を塞いでいるからだと思ったが、逃げ出しても殺せばいいと考えているのならば納得できる。それにこんな周りくどいことをする理由も心当たりがあった。
目的は、世間にヒーローバッシングを起こすこと。人質を殺すことでヒーローは役に立たないという印象を植え付けたいのだろう。
世の中にヒーローが嫌いな人間は沢山いる。中には国の奴隷だと言って嫌う人もいて、その考えを持つのは差別に遭ったことのあるNEXTに多いそうだ。犯人がNEXTならば、この犯行を成功させることでNEXTは一般人の奴隷じゃないと訴えたいのではないか。こんなことをしたってNEXT差別を悪化させるだけなのに。
「その考え、信じてもいいですよ。そこまで考えてるなら、打開策も何かあるんですよね。」
作品名:Shadow of HERO 5 作家名:クラウン