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お嬢さんを私に

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八畳の和室、中央には木目が波のように入った重厚な机がある。
その机をまえにして、ベルゼブブ優一は長い脚を折り曲げて正座していた。
たいていの者が美形と認める顔に浮かんだ表情は硬い。
ひどく緊張しているのだ。
机を挟んで向かいには人間の男性がいる。
特に強そうには見えない。
中肉中背で、メガネをかけていて、おとなしそうな風貌である。
だが、最強の悪魔だと自負しているベルゼブブは臆病になってさえいた。
相手が佐隈りん子の父親だからだ。
気まずい。
たいへん気まずい。
しかし、いつまでも、こうして黙っているわけにはいかない。
佐隈の実家を訪ねたのには理由がある。目的がある。
ベルゼブブは膝の上に乗せている手を拳に強く握り、心を決め、話し始めようとした。
けれども。
「ベルゼブブ優一さんと仰いましたか」
佐隈の父が先に言った。
だから、ベルゼブブは自分が話すつもりでいたのを延期して、返事をする。
「は、はい」
「ハーフなんですか?」
金髪碧眼のベルゼブブの容姿と、名前が日本名なので、そう思ったのだろう。
「………母方の祖母が日本人です」
この家に来るまえに佐隈と話して決めていた設定を、ベルゼブブは口にした。
心苦しい。
嘘だから、申し訳ない。
しかし、実は悪魔なんです、とは言えない。
「そうですか」
佐隈の父親はベルゼブブの言ったことを信じたようだ。
「じゃあ、日本で生まれ育ったんですか?」
「いいえ、魔か、じゃない、あちらで生まれ育ち、日本で生活するようになったのは三年ほどまえからです」
佐隈と出会ってから、ほぼ三年経った。
「そうですか。いや、流暢に日本語を話されるので、てっきり日本で生まれ育ったのかと思いました」
流暢に日本語を話す。
褒め言葉であるようだが、ベルゼブブはなにも言わず、少し強張った笑みを佐隈の父に返した。
「では、実家は海外に?」
「はい」
本当は海外ではなく、魔界だ。
「実家はどのような家なんですか?」
「私の家ですか?」
木霊のように言ったあと、ベルゼブブはあっさりと答える。
「城です」
これは本当のことなので、後ろめたさはない。
だが、ベルゼブブの発言の直後、佐隈の父は固まった。
ほんの少し経ってから、その口が開かれる。
「城ですか……」
「はい」
なんだろうこの反応は。
内心、首をかしげつつ、ベルゼブブは話す。
「我がベルゼブブ家は由緒正しい家柄なのです」
「もしかして貴族ですか?」
「はい、そうです」
ベルゼブブは胸を張った。
自分が名門の生まれであるのは事実であり、それを誇らしく思っている。
けれども、佐隈の父は無表情だ。
反応が無い、というよりも、反応が悪い気がする。
作品名:お嬢さんを私に 作家名:hujio