お嬢さんを私に
「……ベルゼブブさん」
「はい」
「うちの娘とおつき合いされているそうですね」
佐隈の父がいきなり話を変えた。
その内容は今日の本題と言っていいものである。
ベルゼブブは心臓を突然ぎゅっと強くつかまれたような気がした。
「は、はい……っ」
「うち娘のどこがいいんですか?」
「えっ……」
なぜそんなことを聞くのだろうか。
自分の娘のどこがいいのか、なんて。
ベルゼブブは戸惑った。
一方。
「外国の方には、うち娘のような日本人らしい容姿の者がエキゾチックで良く見えるんですか?」
佐隈の父が冷静に聞いてきた。
たしかに、佐隈は黒髪で顔の彫りは深くなく、日本人らしいと言える容姿であるかもしれない。
けれども。
「そういうわけではありません」
ベルゼブブはきっぱりと否定する。
「外見は関係ありません」
「では、日本人女性は大和撫子だと憧れて? あいにくですが、うちの娘については、それは幻想ですよ」
「いえ、私はお嬢さんに対して、そんな幻想は抱いていません。そんなふうでないことは、よく知って……」
これでは佐隈をけなしているようだ。
ハッとして、ベルゼブブは最後まで言わずに口を閉じた。
父親に向かって、その娘のことをけなすのは良くないだろう。それに、佐隈をけなしたくはない。
「ベルゼブブさん」
「はい」
「私は、あなたとうちの娘では釣り合わないと思います」
「え」
「うちの娘は勉強は平均以上にできるほうですが、それ以外は特に他人よりも秀でているところはありません。生まれ育ちも、見てのとおり、普通の家です」
佐隈の父は淡々と話す。
「貴族で実家は城のあなたとでは、住む世界が違います」
決して厳しい口調ではないのに、その言葉はベルゼブブの胸に重く響いた。
住む世界が違う。
本当に、そうなのだ。
日本と海外どころではなく、人間界と魔界なのだ。
人間と悪魔なのだ。