お嬢さんを私に
その夜。
「ベルゼブブ、ぜんぜん飲んでないんじゃないか〜?」
佐隈家では酒宴が開かれていた。
今、ベルゼブブにからんでいるのは佐隈の父である。
酒が入るまえとは、まるで別人だ。
「いえいえ、充分、飲んでますよ」
やっぱり親子だなと思いながら、ベルゼブブは少し身を退いた。
だが。
「なんだ、義理の父の酒が飲めないっていうのか〜?」
赤ら顔の佐隈の父はタチ悪く、たっぷりと酒の入ったコップを差しだしてくる。
アルコール度数の高そうな酒だ……。
しかし。
「そんなことはありません」
立場上、ベルゼブブはコップを受け取るしかなかった。
それから、酒を飲み干した。
「おおー、なかなか、いい飲みっぷりだ!」
佐隈の父はニコニコして手を叩き、ベルゼブブを褒め称えた。
これで気が済んだだろうか。
そう思ったベルゼブブの横に、だれかが座った。
「じゃあ、義理の母の酒も飲んでもらわないとね〜」
佐隈の母である。
やはり赤ら顔だ。
すっかり酔っぱらっているらしい。
その手には酒の入ったコップがある。
ベルゼブブは周囲に視線を走らせた。
そして、未来の妻を見た。
未来の妻も、やっぱり酒を飲んでいた。その顔は赤く、どこからどう見ても、酔っぱらいである。
助けてくれそうにない……。
ベルゼブブは佐隈の母からコップを受け取った。
こうして、初めて悪魔を泊めた佐隈家の夜は楽しく更けていった。