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【腐】貴方と君と、ときどきうさぎ その7【臨帝】

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動き出した非日常






新宿 折原臨也マンション



「帝人君」
俺は自分のデスクに向かったままやや数メートル先の廊下を
歩いていた彼に声を掛けた。今日は休日。帝人君はいつもの
見慣れた首周りから袖までと続く緑のラインが入った私服を着ていた。
「駄目ですよ。仕事を片付けてからです。僕も手伝いますから」
「えー!」
「ほらほら口じゃなくて手を動かす」
「だって波江さんてば急に休暇取るんだもん」
俺は手に持っていた黒い携帯をデスクの上に放り投げ
席を離れて帝人君の背に両手を伸ばし後ろから細い腰に抱き付いた。
「何をしているんですか貴方は」
「帝人君充電中」
俺の手を帝人君の掌が包み込んでくる。温かい。
ぎゅうぎゅうと抱しめて動かない俺に帝人君の口から
小さく息が漏れてくるりと振り向いて目が合う。
にっこりと微笑まれるとちゅ、とキスを唇に落とされてしまい
ぼわんと真っ白な煙と共にばらばらと服が床に落ちて
ぼとりとうさぎ帝人君が服の上に落ちた。
「はい、さっさと仕事する」
しかも命令口調。
「ふーん、そうくるか」
「なんですか?」
実はこれは初めてではない。一線を越えてからというもの
抱きついたり、営みまでに行おうとする日には今のように
すぐにうさぎの姿になってしまうのだ。最初は照れ隠しの
つもりかと思っていたがどうも他にも理由がありそうで
問いただしたら適当にはぐらかされた。けれど何度もこの手を
使われると流石に腹が立つ。仕返しとばかりに夜のお仕置きをしたけど
一週間まともに口を聞いてもらえないし電話もメールも無視。
チャットではあからさまに避けられて周りのメンバーに
「喧嘩でもしたのか?」「けんか は よくないです」と言われる始末。
これが思っていたよりも俺の中でダメージを残した。
…この俺の心をこうも簡単に振り回してしまう恋愛という感情は奥深い。

…ま、帝人君の考えている事何てお見通しなんだけど。

何かを感じ取った帝人君は後ずさりしていく。俺はそんなうさぎを
じりじりと追い詰めていく。ガラス張りの窓の傍まで追いつめるとその
小さな背中を窓にぶつけて頭を左右にきょろきょろと振ったが俺は帝人君を
捕まえようと両手を伸ばした。逃げようとしても無駄。運動神経が悪い
帝人君を捕まえるなんて容易い。
「な、何をするつもりですか!放して下さい!」
「人間相手の退屈凌ぎでうさぎと遊ぼうかと思って」
「趣味悪いです!」
「やだな、知ってるくせに」
うさぎになってもわかりやすい帝人君は嫌悪感たっぷりの顔で睨みつけてくる。
「ああそうだ脱ぎっぱなしの帝人君の衣類どうしようか。下着も含めて」
帝人君を抱きかかえたままちらりと散らばった衣類に目線を送れば
ピーンと長い耳が真直ぐに立った。
「さ、最低です!最低です!!」
「何が?俺は別に何も言っていないけど?まだ生温かい君の服や下着を
手にとって匂いかいだり変態な事でもすると思ったの?」
俺は帝人君に頬を摺り寄せた。
「冗談だよ。相変わらず良い毛並み。ふわっふわ、女の子受けいいよね帝人君連れていたら」
「……僕を女性との親睦を深める出しに使わないで下さい。それに…それに…」
最後の方は聞きとれないほど小さな声で口元がもごもごしている。
「もっとはっきり言いなよ」
「臨也さんは臨也さんですし、女性とセックスしたくなる時あると思いますし
そういう性的欲求は人間として仕方がない事だとわかっていますけど、浮気は…駄目、です」
耳が垂れて、寂しそうに潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
「どうせなら普段の君に言ってもらいたかったな。その方が可愛いし気分が良い」
「嫌です。身の危険を感じます」
「へえ」
俺は顔を覗き込むように近づけてじいと至近距離で見つめると
小さな体はぶるりと身震いをした。と同時にピンポーンと
チャイムの音が部屋中に鳴り響いたじゃないか。
「い、臨也さん、誰か来た、みたいですよ」
「そのうち帰るよ」
さあどうしてやろうか。にやりと笑ったら胸の中で暴れ出した。
「ほ、ほら仕事して下さい!そ、それに情報屋は信用が第一じゃないですか!」
「嫌だ。帝人君俺の相手して」
ピンポーン、ピンポーンピンポンピンポンピンポン
「ほら、どうするんです?臨也さんの大切なお客様だったら」
「……………」
「……………」
鳴りやまずに鳴り続けているインターフォン。
舌打ちを零した俺に安堵の顔を見せた帝人君の表情を見逃さなかった。


来訪者は妹達だった。やっぱり無視すればよかったじゃないか。
わざと嫌な顔をしてリビングに通してやったが気にもせずに二人は
ソファーにボスンと座り込んだ。
「あ!あの時のうさちゃん!本当に今のいままで
イザ兄が飼っていたなんて!!しかもこんな可愛い小動物を似合わなさすぎる!」
腹を抱えて爆笑している舞流をうさぎの姿になって今
は大人しく俺の膝の上にいる帝人君は青い瞳で見つめていた。
「…驚(びっくり)」
「うるさいよお前ら」
帝人君、笑いたいんだろうな。口元がひくひく動いている。
「で、何。俺忙しいんだけど」
腹の底から声を低く冷たく言い放つ。
「前にその子の飼い主探さなくていいって言ってたよね?」
「ああ」
「欲しいって人が出てきたんだ」
「適当に断っておけよ、売る気はない」


「二億で欲しいってその子」


しん、と静まり返る室内。さすがの帝人君も驚いたようで
長い耳をぴーんと立てた。帝人君はぎこちなく首を動かして俺を見上げた。
「…二億、か」
帝人君は何か言いたそうにしている。青く丸い瞳は不安げに揺れていた。
「二億だよに、お、く」
舞流の隣で九瑠璃はこくこくと黙って頷いている。
妹達の視線は俺の腕の中に居る帝人君に注がれる。
「駄目。この子は俺の」
放してやるものかと腕の中でぎゅうと抱しめると
嬉しかったのだろう、帝人君は俺の胸に顔を擦り付けて
すりすりと甘えてきた。顔を近づけるとちゅ、と
唇にキスをしてきたじゃないか。
「わお!」
「…!!」
妹達も驚いている。うわ、あの、帝人君、どうせなら人間の
時もこんな風に甘えてくれると嬉しいんだけど。
「…信じられない…可哀相に!こんなろくでもない男を
好きになっちゃって!」
「おい」
「どうせすぐ飽きちゃうんだから売っちゃおうよ!」
「……同意………」
「あのな、かわいそうって思わないわけ?大体俺の所にこの子連れて来たのお前らだろ!」
「大丈夫だよ!絶対に幸せにするって約束してくれたもん!
変なガスマスク被って白衣着た怪しいおじさんだったけど」
ちょっと待て。
「ほらほらうさちゃんイザ兄の所よりもっとすてきなお家に行けるんだよ、
こっちにおいで」
舞流がにやにやと怪しげに指を動かして近寄ってくる。
「キュ、キュイ!」
帝人君は俺の腕の中で震えている。
「寄るな触るな見るな」
「大丈夫大丈夫」
「帰れー!!」
あの人の手に帝人君が渡ったら間違いなく解剖される。


***


強引に妹さん達を返そうと臨也さんが試みるも僕を譲るまでは
帰らないと駄々を捏ねるので仕方なく一時休戦を提案した。
臨也さんは僕を連れてキッチンへと足を運んだ。コーヒーメーカーから
白いマグカップにコーヒーを注ぎいい香りが鼻を通る。