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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル7



 如月翡翠がタイトルオンリーのメールを送ったところで、呼び鈴が鳴った。液晶のモニタ右下に表示されている時刻を確かめ首をかしげる。22時ともなれば、真夜中とは言わずとも、連絡なしで尋ねてくるには、少々遅い時間と言えるだろう。
 心当たりもないままに、玄関に出ようと立ち上がろうとしたところ、廊下を歩く足音と、ただいまの声。
 如月は、おもわずモニタを見た。メーラはまだ立ち上がっている。
「ただいま」
 楽しそうな声とともに、PHSを片手に持った汀京也が居間に顔を出す。
 PHSの液晶画面には、先ほど如月が出したメールが表示されていた。


「週末ではなかったのか?」
 茶漬けを前に、両手を合わせる京也にむかって、如月は尋ねた。
「金曜って週末でしょ。――つーか、大学(がっこう)の方に、休学届け出して、研究室の方に挨拶してきたんす。平日じゃないとね、窓口あいてないし」
「……おまえな」
 如月は、額に手を当て、深くため息をついた。今日は確かタイトルオンリーも含めて、何通かメールをやり取りしていたはずだ。
「『もうこねーよ』はすでに、外だったと?」
「ピンポーン。てか、王子駅」
 口から出した箸をふりまわす京也に、如月は眉を寄せる。
「食べながら話すな、みっともない」
 厳しい口調で言い、自分はほうじ茶の入った湯飲みを傾けた。肩をすくめた京也が、大人しく茶漬けをかきこむ姿を眺め、口元に笑みを刻む。
 しばらくは、カチャカチャという箸と茶碗が触れ合う音だけが響いていた。
「休学届け、か。――かかりそうなのか? 天香のほうは」
 ごちそうさまでした、と、京也は両手を合わせた。
「ん? ん。ああ、そうそう。……これこれ」
 そう言って、京也はPHSを操作すると、如月に渡した。
「何だ?」
「写真」
 画像閲覧モードのPHSを如月が受け取ると、茶碗と箸を持って立ち上がる。そのまま、台所に食器の始末に行った。
 ぎこちない手つきで、渡されていたPHSをいじっていた如月は、台所で茶碗を洗っているであろう京也の方を見、暫し考えるとパソコンの前に移動した。
 さっきからつけっぱなしのパソコンの前に座ると、文机の引き出しを開ける。PHSのコネクタの形状を見比べながら、一本のケーブルを選び、接続した。
「何やってんの? って、別にいいじゃん、PHSで見れば」
 食器を片して戻ってきた京也が、背後から如月の作業を見て首をかしげる。
「見づらい」
 そう言って、場所を譲る。それ以上の文句は言わずに、京也はパソコンの前に座ると、如月のリクエストに従って、PHSからパソコンにデータを移した。その後、画像閲覧ツールを立ち上げてから、再び場所を譲る。
「PHSのカメラだからねー」
 微妙に拡大された画像が、画面に表示されている。如月の背後から画面を見ながら、京也は苦笑した。
「このへん、クラスメイト。やっちーに、七瀬っち、えーとオヤジ」
 元気な笑顔に、怪訝そうな表情、落ち着いた笑み。すべて、背後は教室だった。
「おまえにだけは言われたくないだろう、その形容は」
「二十歳なんすよ、この子」
「おまえは二十四だろ」
「誕生日まだです。あ、これ、担任ね。なんとか微妙年上」
 笑いながら、廊下で微笑む清楚な女性の画像を指差す。
「取手くんと保健の先生。――この人も劉ってゆーんだけど、そんなに中国に多かったっけ」
 次の写真は、白衣の美女と、繊細そうな男子が二人写っていた。解説から察するに、どうやら保健室で撮ったらしい。
「次が、食堂のおねーちゃんこと奈々ちゃん、あー、これ、コイツ! カレーの元凶。っと、そーいや!」
 お盆で顔を半分隠し、頬を染める少女の画像。次は、目元を手のひらで隠す、クセ毛の高校生。確かに、彼の前には食べかけのカレーの皿があった。迷惑そうな表情は、昼寝の最中にフラッシュを焚かれた猫を思わせる。その画像を指差し、京也は突然笑い始めた。
「……何だ?」
「コイツ、けっこー真剣にバカ。最初見たとき、京一思い出したっつーか、ある意味京一以上っつーか」
 ぺたぺたと壁際に寄ると、おもむろに壁に寄りかかり目を伏せる。
「授業をフケて昼寝してりゃ、大声出しやがって。うるさくて寝られやしない」
 口真似らしい。確かにキザといえばキザなセリフだ。とはいえ、本人を知らないに加え、クドい知り合いには事欠かない如月にしてみれば、首を傾げるばかりだ。だが、あぐらをかき身を乗り出すと、心底楽しそうに京也は続けた。
「十分怪しいけどさ。コレでも。でも、これ言ってんの、九月あたまの野外よ?」
「……ああ」
 ようやく、如月の表情に納得の色が広がる。それにつれて、口元が苦笑を形作った。
「転校初日、九月あたま。東京ですぜ? ガクラン着て屋上で昼寝って、何ひとり我慢大会やってんだっつーか、鼻の頭赤いし」
 自らの鼻の頭を指差し、京也は笑った。
「確かに、面白い奴だな。――で、それが蓬莱寺と何の関係があるんだ?」
「京一くんと初めて会った日、ボク、真神のヤンキーに体育館裏呼び出し食らったんすよ。美人は辛いわよね。んで、京一くんが助けてくれたんすけど」
 今度は、ブイ字腹筋の体勢だ。かなり無理のある体制で、近くの茶筒――木刀の代わりらしい――を傍らに引き寄せると、京也は目を伏せた。
「足元がこううるさくっちゃあ、おちおち部活サボって昼寝もできねェぜ」
「……足元?」
 ふるふるとしばらく辛そうに耐えた後、姿勢を崩す京也に、おざなりな拍手を送りながら、如月は尋ねた。
「木の上」
 顔の横で人差し指を立て、京也は上をさした。
「は?」
「木の上で寝てたの、本人いわく。京一くん。ご丁寧にも木刀抱えて。よくまぁ落ちなかったねっつーか、十年前のテレビアニメワンパク、かっこ死語、主人公かっつーか」
「――確かに、蓬莱寺が木刀を手放すとは思わないが」
 白皙の美貌を、微妙に歪め、如月は落ち着いた声音で感想を述べた。それを聞き、何度も頷きながら、京也は茶筒の頭を叩く。
「プールにも持って入ったくらいだしねぇ」
「正気か、あの男」
 今度こそ、容赦ない言葉が飛び出す。
「あれ? 如月くん知んなかったっけ?」
 怪訝そうに相手を見、しばらく考えてから、京也はもう一度茶筒の頭を打った。
「ああ、そっか。そうそう、プールの帰りか、如月くんいたの。いやー、あん時はねぇ、他人のフリってどーすんだっけ、と。タイショーは区民プールなのに水中眼鏡にフィンのフル装備だし。京一は京一で、オネェちゃんをナンパするんだって言ってたけど、木刀プールで抱えてるアホについてくる子がいるのかと」
 楽しそうに笑う京也を、如月は黙って見つめた。そして、ポンと肩を叩く。深くため息をついて首を左右に振った。如月の無言の情けに、京也は何度も頷き、肩に置かれた手を両手で握り締めた。
 しばし、無言の時が流れる。
「っと、思い出(まがみ)話はそのくらいにして。えーっと、あ、コレコレ。見えづらいけど、生徒会御一行様。って、見えないかこりゃ」
 感傷に浸った後、京也は次の画像を指差した。
「さすがに、厳しいな」
 何事もなかったかのように、如月もまた画面を覗き込み、眉を寄せる。