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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル1



 「ただいま」と「久しぶり」の挨拶は、すでにすませてあった。
 勝手知ったる、実は自宅。如月宅の居間で、ひっぱりだした座布団に座り、汀京也は大きく伸びをした。
 抱えてきた上着と、スポーツバッグは、さっそくその辺りに放り出してある。家主が台所での用をすませて戻ってこれば、真っ先に蹴られることだろう。
「いやあ、マジかんべん。真神の一億倍は校則きびしいっつーか、小学生並っすよ。もー、今度は一日の予定表提出させられるんじゃないかと、どきどきっす」
 台所の如月の背にそう呼びかける。その様子を見て、先客の村雨が面白そうに笑う。
「ママンに付きまとう小学生みたいだぜ、センセイ。なんだか、コーコーセーやるっつー話だけ聞いてるが、一体どーしたっつーんだ?」
 彼は今、居間の隅におみせを広げ、種々雑多な古道具を確かめている。人使いの荒い陰陽師のいいつけか、それとも自らかってでたか。メモを確かめる目つきと、道具を扱う手際は、さすがともいえるほどに確かだ。
「いやー、こーしてると、真神時代に戻ったみたいっすねぇ」
 転がったまま目を細めて、その姿に対する感想を漏らす。まるで、くつろぎきった飼い猫だ。
「事情は家主がきてからっつーことで。とりあえず、R協会のボンクラミスとだけ」
 知ってる? と、うつぶせになり、村雨に問いかける。村雨は、作業の手を止めた。口中で何度か「R」と呟き、首をかしげる。
「インディ・ジョーンズか? あんまり縁はねぇが……」
「んー、国家安寧とかそーゆー系とはちゃうみたいだからなぁ。如月さんは知ってるんだよねー?」
「取引相手の一つだ。やってることは墓泥棒だが、比較的穏便な組織だな。壬生を相手にするときは気をつけたほうがいいかもしれない」
 如月は、持ってきた茶菓子と茶をちゃぶ台に置いて座った。今日の客の予定は、村雨と京也だけだからだろうか。高校卒業後の彼にしては、珍しく洋装だった。
「っちゃー、壬生さんと敵対ですか、って拳武館とは関係ないじゃん。俺、鳴滝さんにアリバイ工作やらせちゃったっすよ」
「壬生は拳武館じゃあなくて、M+M機関(エムツーきかん)。おまえな、敵対組織がある人間の動向くらい確認しろ」
「うえ。だってボク、ただの大学院生だもーん。つか、俺ら、同窓会できるんすかー?」
 家主に蹴られる前に、大急ぎで身体を起こし、上着を引き寄せる。黒い色のそれに視線を落とし、京也は二人に向かって、大きく広げた。
「難しいだろうな。警察官と拳武館っつー対立がなくなったっつっても……M+Mか……まぁ、表立って敵対はしちゃいないが……」
 京也が広げた上着――新宿区にある天香学園制服――を見て、村雨は言葉を切り、ひゅうと小さく口笛を吹いた。如月の方は小さく苦笑をもらす。
「ただの大学院生は、イメクラでもなきゃンなもん着るかよ」
「長期休みの帰省時以外、学校の敷地から出ることまかりならず。何らかの理由で外出時は制服着用のこと。いきなり校則違反です」
 独特な赤のラインが入ったガクランを、丁寧に畳んで傍らに置く。
「すでに「学校の敷地から出ることまかりならず」に違反してるじゃネェか」
「最初だし、ちゃんと外出届書きましたって」
 そう言って、縁側の方を向いて、両手をあわせる。
「長期休み以外はっつーことは、それなりの理由が要るんじゃねーのかい? よく、許可が下りたもんだ」
「とりあえず、じーさまに倒れてもらいました」
「ひでぇな」
「いやもう、確認の電話されましたよ。拳武館館長には超感謝。あっと、そうそう。如月くん。一応、村雨くんも。しばらくは、メールとか電話とか? 汀禁止ね」
 二人に怪訝そうに促され、京也は肩をすくめた。
「やっぱ、本名名乗るわけにもいかんしょ」
 そう言うと、にやりと笑い、順番に二人の顔を窺う。
「御子神きょーやくんでヨロ」
「もしかして、倒れてもらったというのは……」
「ぴんぽーん。ありゃ二百まで生きるね。いやぁ、罪悪感ないない」
 けらけら笑いながら、片方のてのひらをひらひらさせる。そんな京也の様子に、村雨は天を仰いで、おおげさに十字を切った。
「アンタもほんっと、いい度胸してるよ。日本有数の妖怪爺を殺すとは」
「殺してないって。倒れたってだけー。いや、でもさ。さすがに街中、制服着る度胸はないっすよー、規則っつわれても」
 両の手で湯飲みを支え、一服。あくまで落ち着いた仕草の如月が、京也の言葉に、ちらりと視線をある場所に向けた。
「大丈夫だろう」
「何言ってんすか。俺、生物の教員資格あるんすよ? まー、教育実習の教え子は実家方面だけど? っても、研究室のに会ったら、首つるしかないっす、マジ」
「いや、大丈夫だ」
 やけに、力のこもった言葉だった。その口調に、滑らかな舌の回転を止め、京也は首をかしげた。そして、ちらりとどこかを見ると、小さくうなずく。
「大丈夫。うん、大丈夫な気がしてきましたよ如月さん」
 明るい口調で、京也は頷いた。その様子に、如月の口元には微かな笑みが浮かぶ。
「汀……じゃなくて、御子神、京也、か? 今日はいつまでいるんだ?」
「んー、爺様危篤、なんとか持ち直しっつーこって、明日の夕方にでも帰ろうと思ってるんですが」
 指折り数え、ちらりとスポーツバッグに目線をやる。
「……」
「時間はありそうだが、持っていくものの支度はすぐにでもしたほうがいいのではないのか? 洗濯物があるなら出しておくように。ついでだ」
「ありがとーん。如月くん愛。んじゃ、ヨーカン食ってから」
「……あんたら」
 如月が持ってきた茶菓子こと、人数分のヨーカンに京也は手を伸ばした。そして、その上に村雨のそれが重ねられる。
「村雨くんの、まだあんじゃん」
「誰がヨーカン欲しいっつった」
「ダメよ、人数分」
 村雨は、じっくりと京也の顔を見た。そして、そ知らぬ顔で、おかわりの茶を注いでいる如月を見る。
「アンタら。今、何を見て大丈夫だと納得したんだ?」
 地を這うような声だった。
「ヨーカン……」
「答えたら、とらやでも何でも買ってきてやるさ」
 なさけない声をあげる京也に向かって、ゆっくりと首を横にふる。
「小ざさに挑戦してみないか?」
 自分の分を確保した如月が希望の品を述べた。
「ふざけんな」
「お前の幸運があれば、いける気がするのだが」
 しみじみと、村雨の顔を見て頷く如月翡翠。馬耳東風に我不関。これほどまでに似合う人間も、そうはいないだろう。
「てめぇで並べ。で、だ。俺が聞いてんのはヨウカンはどこが美味いという話じゃねぇ」
「芙蓉に言付けておこう」
「あんたら、どこを見て納得した。二十歳もとおにすぎたセンセイのアイタタタなガクラン姿を」
 どこまでもなめらかに、それていく話。それには答えず、村雨はゆっくりとした口調で尋ねた。そして、京也、如月と、順番に視線を巡らせる。
 如月と目が合う。笑いあった。お互いに。
「――皆まで言わすな」
「俺は留年経験はない。浪人経験があるのは、こっちのセンセイだろう。運転免許証には、若旦那とは同じ年、センセイよりは一年前の生まれ年が載ってる。わかってるだろうな?」
「わかってんなら、聞くことないじゃん」
 「わかっている」