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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル9



 革張りの大きなソファに腰を下ろすと、如月翡翠は、村雨祇孔にA4サイズの封筒を手渡した。
 手渡された方は、持ってきたミネラルウォータのペットボトルと引き換えに、封筒を受け取り、中を改める。
「天香学園内部の写真だ。《生徒会》のメンバーが写っているものがある」
「ほう? ケータイのカメラかい。あのセンセイも、すっかり高校生してやがるな」
「大学(がっこう)の方に、休学届けを出して、本格的に腰をすえたようだしな。使い物になるような写真はないが、一応、焼いておいた」
「なるほど」
 封筒の中の硬い感触の正体、申し訳程度に緩衝材が使われている袋に入った円盤――CDR――の中身に、村雨は頷いた。
 普通の上質紙にカラーで印刷された、何枚かの画像。解像度はとても低い。手ぶれもある。真正面から写されたものならば、なんとか顔立ちの雰囲気が分かる程度だった。
「で、《生徒会》の面子ってのは、どれだい?」
「最後の写真だ」
「……一抹の期待があったんだが……」
 右上から左下へ。順番に並べて印刷された中、特に遠くから撮られた写真を指先ではじき、村雨は苦笑を浮かべた。
「多分無理だと思うが、御門にまわしてみよう」
「本題は、次だ」
「んん?」
 画像が印刷された紙をテーブルに置き、村雨は次の紙を見た。
 ほんの数行のテキストが印刷されている。メールをプリントアウトしたものだった。
「――なるほど。しっかし、センセイもこの文面は故意かね」
 ほんの一瞬、目に鋭い光が宿る。だが、すぐにいつもの余裕のある表情に戻り、如月を見る。
「天然だろう」
 あっさりと如月は言い捨てた。
「かねぇ、やっぱり。――うまいもんだ」
「ああ。故意にだとすれば、飛水の連絡員に欲しいくらいだ」
 真面目くさった言葉に、村雨は声をあげて笑った。
「職員室前で正座。結界を抜けて出入りしてるのが、みんなにバレたってとこか。みんなってことは、《生徒会》もコミと見て間違いねぇだろう。黄龍の器ってことまでかはともかく、ただものじゃあないとは思われたと見て間違いない」
 深く腰掛け、両腕をソファの背にかける。浅く腰掛けて、膝にひじをついている如月とは、まるで対照的な姿勢だ。
「『ワルイコトはできないものデス』」
 如月は、メールの文章をそのまま口に出した。
「だから、しばらく学校内で大人しくしています、と。状況が悪化しやがったな。まぁ、封印の場所にちょっかいを出してりゃあ、そのうち来ることだったとはいえ」
 それを受けて、すぐに村雨は翻訳を口にした。
「んで? どうするんだ? ママンとしては」
「潜入する」
 面白そうな村雨の問いに、如月はきっぱりと言い切った。
「年内には、始末をつけたい。すでに、ロゼッタ協会からは回答をもぎ取った」
 両の手であごを支え、如月は目を細めた。
「なるほど。――とうとう動くか」
「奇しくも、例のおおさわぎと季節は同じ」
「そういやそうだな」
「目的も――」
「おい、ちょっと待て。今回は、せっせとおいたにはげむ一般人のオシリをぺんぺんするのが目的だろう」
「僕の目的は、混沌の龍の再臨を防ぐことだ。――降りるか?」
 丸めていた背を伸ばし、如月は村雨を見た。
「――本気か」
 剣呑な光が、まっすぐに、醒めた瞳を射抜く。
「だからこそ、飛水は動く」
 一片の迷いもない言葉。
「ああ、そうかい。そうかよ。そういう――」
 がりがりと村雨は、頭をかき回した。天を仰いで目を細め、大きく息を吐く。何度か手の甲をテーブルに打ちつけ、ぐっと拳を握った。
 笑いを収め、彼は飛水の棟梁を見た。
「随分と、急ぐじゃねぇか。《生徒会》にセンセイがただものじゃあないとばれたのが、そんなにヤバいことかい? 確かに状況は悪化した。だが、予想の範疇だろう」
「いや、それは、原因の一つではあるが全てではない」
 如月は、テーブルに手を伸ばすと、ミネラルウオータのペットボトルを手に取った。フタをあける時の独特な音が、やけに響いた。
「壬生から聞いた話が一つ。天香は六年以上前から、ゆっくりと崩壊に向かって進んでいるということ」
「つまり、先が予想以上にヤバかったと?」
「それともう一つ。――村雨」
 如月は、表情をゆがめた。水を一口飲み、もう一度フタを閉める。きつく、閉める。
「写真を、見ただろう」
「ああ。すっかり、高校生に馴染んで――っ!」
「京也が力を欲する可能性がある」
 静かな声だった。
「ああ、ああ、そういう。確かにそうだ」
 村雨は、先ほどテーブルの上に置いた紙を手に取った。そして、じっくりと見づらい写真を見る。《生徒会》の人間の写真以外は、どれもこれも、シャッターを切った人間に親しみを示しているように見えた。
「これを京也は見せに来た。とても楽しそうだったよ。――封印か、開放か。閉じ込めたいのか、それとも、護りたいのか。ただ、それに苦しめられてる人間がいるとすれば。ましてや、その人間と、交われば」
「あのセンセイは、そういう人だ。確かに」
 村雨は頭を抱えた。
「考えていた。京也の言う、ひびくヤバいモノとは何か。僕は最初勘違いしていた。世界の危機なんてスケールの大きなことに、彼が手を出したがるはずがない。そのことを失念していた。僕にとって護るべき世界というのは、あまりに自然な発想ゆえに。だが、彼は違う。彼が首を突っ込むことを選ぶとすれば、ただ一つ」
「ああ、全く。自らが率先してなんて、あのセンセイのガラじゃあねぇ。たった一つの例外を除いて。最初から、最初からか!」
「心預けたもの(みうち)のためならば、どこまでも無茶をする。見栄も張る。だからこそ、あの騒ぎは収まった。だからこそ、一年もった。そしてそれは、明らかに僥倖だった」
「――ちっ」
 村雨は、目を閉じた。そして、深く息を吸い、目を開く。
「ああ、アンタの言うとおりだ。秒読みってほど切羽詰っちゃいねぇが、猶予はねぇ。混沌の龍の再臨を阻止する。俺もまた動かざるを得ない。たとえそれが――」
「働いてもらうぞ、村雨」
 皆まで言わせず、如月は言った。
 村雨は、左手で自らの顔を撫でた。ぎり、と、奥歯が鳴る。
「世界一の幸運を、あごのさきでこき使いやがれ、飛水の棟梁」
 ゆっくりと、一語一語言葉を区切り、村雨は言った。
 彼は、剣呑ともいえる笑みを浮かべていた。