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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル12



「新宿区××のバス乗り場付近のコンビニにて、強盗事件発生。犯人は、店員と居合わせた客を殺害。レジの現金と、ATMの中の現金を手に逃走。犯人は銃を持っている模様」


 私立天香高等学校は、新宿区にある。副都心と呼ばれる新宿駅の辺りを思い浮かべるならば、同じ区内とは思えないほどに静かな場所だ。高等学校の門の傍といえばつきものの、パンや文房具などをうる雑貨屋すらない。
 近くのマンションから見ても裏側。正門近くは、そこそこに広い公園がある。田舎に良くある、田んぼの真ん中の高校ほどではないが、かなり人通りの少ない場所であることは確かだ。
 センサが反応し、何度か瞬いて街灯がついた。
 その下の何もなかった場所が揺れ、一人の青年を吐き出した。
「さんく、芙蓉ちゃん」
 軽く木刀で肩を叩きながら、その青年――蓬莱寺京一は、街灯を見上げた。
 誰もいない。
 まるで、そこに彼を送り出した女性(ふよう)がいるかのような動作だった。
 ほんの少し歩けば、天香学園の校門だ。
「さて――」
 木刀の動きを止め、目を細める。
「行くぜ、村雨」
 襟元のマイクに聞かせるために、小さく呟く。そして、ゆっくりと、歩き始めた。
 その姿を、小さな蝶が追った。


 京一が門にたどり着いた頃、比較的、中は静かだった。
 いまだヘリコプタは、ローターの回転を止めていない。だが、校庭に散っている人影は、多くはない。
 数人が、ヘリのまわりで、無線機で各所に指示を飛ばしている。見たところ、司令官らしき人影はなかった。
「……遅かったか?」
「蓬莱寺様。装甲車が一台、正門に向かいました」
 頭に響く声に、京一は目を見開いた。芙蓉の声だ。耳元で、季節外れのモンシロチョウがひらひらと舞っていた。
 目を細めた。
「よっしゃ、まずは小手調べだな」
 門からは、まっすぐに見えない場所に立つ。そして、道路に対して構えた。
 エンジン音が近づいてくる。
 にやりと笑い、日本の狭い道路には不釣合いな迷彩色の車を注視した。
 もう少し。
 靴底で、砂が鳴る。
 木刀ならば、普通に考えて、相手は人だろう。だが、彼はただの木刀使いではない。
「FIRE!」
 気合の声とともに、最初の一撃を繰り出そうとした瞬間、目の前の装甲車が横転して腹を見せた。
「……な……」
 京一は、目を見開いた。そして、装甲車とは反対側を見る。
 街灯に、明るいブロンドが煌いた。
 肩に黒いかたまりを載せた、白い制服姿の少女が、小走りに近づいてきた。
「マリィ! 何でここに――って、如月の野郎!」
 おそらくは、帰らせることが出来なかったのだろう。《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の連中「を」「守って」やれ。
「つぅわけだ。村雨。心強い援軍が来たから、こっちは大丈夫だ。封鎖に全力を尽くしてくれ」
 小型マイクに一方的に告げると、京一は《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の援軍に向き直った。
 炎上して終わりかと思いきや、装甲服をまとった兵士が、次々と車から降りてくる。さすがに、爆発までは耐えられないだろうが、この程度ならば、無事なこともあるらしい。
 傍らに少女が立った。
「久しぶりじゃねぇか」
 昔と同じ無邪気な笑顔を、少し大人びた顔が浮かべる。肩に乗る猫に触れると、飼い主の意図が伝わったか、にゃあと一声残し、降りて姿を消す。
「FREEZE!」
「遅ぇ!」
 気合一閃。京一の木刀が唸る。
 何もない。ただ、素振りをしただけのようにしか見えない。
 だが。
 実際には、銃を構えていた兵士が、突風にでもあったかのような様子で、吹き飛ぶ。
 兵士たちのくぐもった声が、響きあった。
 様子を確かめずに、校内を見る。騒ぎに気づいた兵士たちが、ヘリの傍から、銃を手にやってこようとしている。
「キョーイチオ兄チャン」
 京一に並んだマリィが、彼の袖を引いた。
「うん?」
「車、爆発するって」
「はぁ?」
「言ってるヨ」
 木刀を構えたまま、思わず京一はマリィに振り返った。
 マリィは、眉を寄せ、横転させた車の方をじっと見ている。
 確かに距離はある。だが、相手はおそらく武器を積んだ装甲車だ。どの程度の爆発かなど、分かったものではない。
「来い!」
 京一は、マリィを引っ張った。そして、そのまま開いていた門――恐らくは、《秘宝の夜明け》(レリックドーン)が最初の侵入の時に開けたのだろう――をくぐり、校庭に走りこむ。
「マッテ!」
 マリィが、兵士たちに指先を向けた。
 京一に引かれるままに、凛とした声が、夕闇に響く。
「FIRE!」
「――ハッ!」
 門の外で爆音が響く。いや、それだけではない。門が揺れる。怪しげなひびが入り始める。
 嘆くまもなく、マリィの声とほぼ同時に、京一は木刀を一閃させていた。
 今度は「FREEZE」の前に、相手を吹き飛ばす。
「ええい、行くぜ畜生!」
 木刀を握りなおし、京一は、体勢を崩している兵士たちの中に駆け込んでいった。


「新宿区××の郵便局で強盗事件発生。郵便局に入ろうとしていた客の通報により、現金は取れずに逃走。逃走には、白の軽自動車。ナンバーはXXXX。犯人たちは銃を持っている」


「如月に聞いたのか?」
 英語でわめきたてる無線に軽く蹴りを入れ、京一はマリィに尋ねた。
 先ほど、装甲車が間近で爆発したため、門の近くに崩れかけている場所がある。そこを見、肩をすくめると、そのままヘリに向かった。
「アオイオ姉チャンのお使いでお店に行ったノ」
 ヘリの扉から中を覗き込む京一を見ながら、のんびりとした口調でマリィは言う。
「ったく、妙なトコが抜けてんだよな、あの骨董屋」
「キサラギ、悪くない。マリィが絶対行くって言った」
「……分かるけど。しっかし、成長したなー。マリィが一人いれば、桃源極楽陣も行けそーじゃねぇか」
 ヘリの中を確かめてから、京一はマリィに笑いかけた。
 この場には、いっそ不釣合いなほどの笑顔で、マリィはくるりと回った。その動作に、白いプリーツスカートが広がり、揺れる。
「その制服、皇神だろう? 芙蓉や御門や村雨の後輩かー。頑張ったな」
「ウン! アオイオ姉チャンが、いっぱい教えてくれたんダヨ!」
「よしよし。っと……こりゃあ、中入るしかないか……」
「待って。キョーイチオ兄チャン」
 マリィは、真剣な目で、先ほど京一が蹴りを入れた無線機を見ていた。
「どうした?」
「エット。……あと、一台。車がこっちに向かってるって。正門。それから――」
「何だと?」
 無線機から流れる言葉。マリィが翻訳したそれを聞いた瞬間、京一は門へととって返した。
「――それと――」
 マリィは、京一の後を追わずに、眉を寄せていた。
 無線機はまだ、騒がしく、ノイズ交じりの言葉を吐き出し続けている。そしてそれは、どんどんと切羽詰ったものになっていっていた。