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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル13



「ああ? 日本の首都でのテロ行為、かばい立てするなら同罪、まことに遺憾でも何でも言わせろ」
 言い捨てて、村雨祇孔は受話器を置いた。
 近くのスピーカは、蓬莱寺京一の声を吐き出している。
「こーゆーのを、なんつったっけか。ああ、モーレツ社員か」
 一人ごちながら、ノート型PCの画面を睨む。
「――なるほど。手加減知らずの嬢ちゃんか。ならば――」


 天香学園の敷地は広い。
 黄昏から、夜闇へと時刻を移しつつある校内は、驚くほどに静かだった。
 いや「静か」ではない場所もある。
 たまたま、彼がそこにいないだけだ。
 今まで、いた場所は、とても騒がしかった。映画みたいな格好の、マンガみたいな設定の連中が、一山いくらで動き回っていたからだ。
 足を止め、辺りを見回す。そして、学生寮の方を見た。そして、自らの両の手を見下ろす。月明かりに浮かび上がるてのひらには、何もない。
 一つため息をつき、墓の方を見る。
「――ううん」
 十字を切り、天を仰ぐ。信じてもいない存在に、都合のいい願いを投げかけると、汀京也は、軽い足取りで学生寮に向かった。

 誰の姿も見ずに、寮裏までたどりつく。
 見咎められずに敷地内を動き回るためのルートは、諸般の事情により確保してあった。
 とはいえ、事態が事態だ。本当に、誰にも会わなかったというのは、幸運といっていいだろう。
 大きく息を吸い、辺りを見回す。
 これから先は、ごく普通の――つまり、誰に見咎められてもおかしくはない、そんな道筋(ルート)だ。
 一つ頷いて、足を踏み出す。
 踏み出そうとしたところ、ポケットのPHSが震えた。
 切ってなかったかと、大慌てで取り出し、調べる。
 メール着信だった。見慣れた相手からの短いメールに、しばらく考え、返信ボタンをおす。
 辺りを窺いながら、慣れた手つきで文章を打ち込む。
「FREEZE!」
 辺りを威圧する声が響き渡った。
 PHSの小さな筐体が、てのひらから地面に滑り落ちた。
 文書は終わっていない。反射的にボタンを押したような気はするが、送信されたかどうかはわからなかった。
「HOLD UP」
 京也は、言われたとおりに手を上げた。
 背後から足音が近づいてくる。重い足音だ。
「壁に手をつけ。ゆっくりと移動しろ」
 外国訛りがある日本語で告げられる指示に、大人しく京也は従った。
「……Portable Telephone?」
 《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の兵士は、地面からPHSを拾いあげた。先ほど、京也が落としたものだ。
 PHSを手にしたまま、兵士が近寄ってきて、ボディチェックを行う。
 当たり前のように、銃やそれに類するものはない。
「生徒か。こっちを向け。手を上げてゆっくりとだ」
 少し遠ざかる気配があった。
 言われたとおりに、そろそろと手をあげ、振り返る。
 数メートル離れたところから、兵士は京也に銃を突きつけていた。
「さて。ただの生徒なら、大人しく講堂に帰ってもらうところなんだが」
 分厚く下ろした前髪の下、京也は目を細めた。
「何者だ。どこに連絡していた」
 銃口がポイントしているのは、腹だった。
 この至近距離ならば、外れることはないだろう。
 問題は、どの程度の威力があるか、だ。大きさと威力が必ずしもイコールかどうかは分からなかったが、両手で支えられているそれは、どう考えても無手の学生を相手にするべき代物とは思えなかった。
「か、亀急便です〜。お客様に、お届けの連絡……」
 勤めて明るい声を出した。
 銃口が揺れた。兵士の身体が硬直したように見えた。
 そして、しばらくの間。
「――何だそれは」
 闇が、不機嫌な声を生み出した。
「え……」
 京也は目を見開いた。とても聞き覚えのある声だった。
 目の前で、ずるずると兵士が倒れていく。
「早いのか遅いのかハッキリしろ」
 闇は、人を生み出した。コートを身につけた、細身の青年だった。その青年は、右手で左手に何かを巻きつけている。
 作業が終わると、兵士の傍で、京也のPHSを拾い上げ、開いた。
「――いつまで呆けている気だ?」
 PHSの電源と液晶だけを確かめ、頷く。口元に笑みを浮かべ、京也に差し出した。
「う……わ……」
 PHSが振られる。
 京也は、無意識の動作でそれを受け取り、いつものようにポケットにしまった。
「超既視感(デジャビュ)――」
「うん?」
「こう、地下鉄で木刀飛んできた記憶」
「――木刀ではなくて、不満か?」
 闇の中から現れた青年――如月は、目を細めた。
 口の端が当分に上がる端正な笑みに、京也は肩の力が抜けていくのを感じる。そして、それと同時に、頭の中いっぱいにスポンジをぎゅうぎゅう詰めにしたみたいな圧力が、緩み始めた。
 京也は、自分もまた笑みを浮かべていることを知った。
 多分それは、六年前のものに酷似しているだろう。
 大きく、首を横に振る。
「すげぇ、今なら何でも、いけそうな気分」
 ぐっと、拳を握る。そして、墓の方向を見る。
「よし。行くぜ、如月!」
 六年前の相方を思わせる口調で、京也は言った。
 その視界の中で、静かに如月は頷いていた。


 今から《墓》に侵入する、と。そう伝えてくる如月の声に、村雨は大きく頷いた。
「こっちも、天香まわりの封鎖は完了した。敵はそっちに残ってる連中だけ。生徒の方は、朱雀の嬢ちゃんと蓬莱寺がいるから、心配ない。せいぜい、大ダメージを与えて、《秘宝の夜明け》(レリックドーン)への圧力を強めてくれ。司令官の首なんかが希望なんだが、生け捕りはできそうか?」
 静かな声による返答に、笑い声を上げる。
「まぁ、できれば、だ。本国からいぶりだすのは無理でも、天香(そこ)から手を引かせるのは、時間の問題だから、安心しろ。――気をつけて」
 受話器を置くと、村雨は再び、ノート型PCの液晶に向き直った。
「さて、どっちが大事かな? 《秘宝の夜明け》(レリックドーン)。まだ見ぬ《秘宝》のうわさと、自分のおうち」
 ゆっくりと、受話器を引き寄せると、電話番号をプッシュしはじめた。