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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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 小さく呟き、扉を開け放つ。
 今までにもまして熱せられた空気が、ゆるやかに扉の向こうから彼らを迎えた。


 更なる暑さが京也を迎えた。
 扉は、薄く開いたままにしておく。
 部屋の隅には、煮えたぎるマグマのごとき火溜りがある。もっとも、本当にマグマが湧出しているのだとすれば、彼らがここにいられるとも思えない。おそらくは、古代の遺産(テクノロジー)の暴発、もしくは防御機構と思えた。
 部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、いくつかの銃口が彼らをポイントした。
『ああん? あかないだと? 冗談を言ってんじゃネェぞ』
 下品な声とともに、銃弾が岩を砕く音がする。
『――おい。誰が入ってきていいと……んん?』
 部屋の中にいた兵士からの呼びかけに、白人の巨漢が振り返った。
「……どこから入ってきやがった、おめぇ」
 京也は肩をすくめ、無言で背後の扉を指した。
「ほーお。――さては、アレか? おまえらが、例のロゼッタ協会から派遣されたというトレジャーハンタか?」
「下っ端に用はない。司令官はどこだ」
 白人の巨漢は、装甲服を身につけてはいない。判でおしたように同じ姿の《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の兵士たちの中において、それは、彼が何らかの特殊な立場であることを示しているのだろう。
 その程度のことを十分に理解しつつ、京也は言い放った。
 狙い通り、白い顔がどす黒く染まる。
「もう一回言ってみろ」
「引っ込め雑魚」
「若造(ガキ)が!」
「そいつがロゼッタ協会のトレジャーハンタだ、間違いない」
 薄闇に沈む部屋の奥から、落ち着いた声がかけられた。
「よくたどり着いたねぇ。御子神京也くん」
「俺にも教えてくれ。まさか、それがこの作戦の司令官なのか?」
「そうだよ。ヨーロッパで恐怖という名の伝染病を思うさま振りまいた彼が今回の司令官だ」
「おまえも、苦労するな」
「――随分と雰囲気が違うけれど、確かに御子神京也くん、なのだろうね?」
「ストレスでまいっている。用は手短に済ませて帰りたい」
 微かに、京也の手が動いた。それに伴い、彼らをポイントする銃口もまた、微かに動く。
「ふふ……どんな用かな?」
「パシリだ。お帰りはあちら。荷物をまとめて、さっさとお帰りあそばせ。そう、伝えにきた」
 京也はぐるりと室内を睥睨した。
「ふふ……はははははははは……面白い冗談だね」
 喪部は、腹を抱えて笑った。心底苦しそうに身体を折り、涙さえ浮かべて笑い転げる。
 笑っているのは、彼だけだった。
「帽子を出すから、硬貨(コイン)はそこだ。――俺がここにいるということから導き出される状況というのがあるだろう?」
「すごいね。何人殺した?」
「おまえは、今までに食べた米粒を数えているのか?」
 続けざまに銃声が響き渡った。
『喪部、いつまで遊んでいやがる』
「悪かった。――奥の扉が、開いた。古くてひっかかっていただけらしい」
 喪部は、ドイツ語に日本語で答えた。
 次の瞬間、京也は前に出た。
 全くの予備動作なしの動きだった。
 予備動作なしである上に、先ほどの喪部の報告。京也をポイントしていた兵士たちの動きが遅れるのも、無理のない話だった。
 だが。
「――ぐっ!」
 腹を抑え、京也は呻いた。
「ああん? 俺の邪魔をしようってのか?」
 白人の巨漢は、葉巻を咥え、にやにやと笑っていた。
「マッケンゼン」
「五分だ、喪部。先に行け。邪魔をしようなんて奴は、挽肉になるのがお似合いだぜ」
 プッ、と、白人の巨漢――マッケンゼンは葉巻を吐き出した。
「さぁて。防弾チョッキはつけてるようだが、んん? 肋骨にひびでも入ったかぁ?」
「――」
 京也は、ゆっくりと腹を抑えた手を放した。そして、腰を落とし、構える。右手を軽く前に出す。膝をやわらかく緩め、重心は爪先に。
 口元には、笑みが浮かんでいた。
「つぶれっちまえ!」
「――ハァッ!」
 機関銃が弾をばらまく音が、室内に反響(こだま)する。
 京也は前に出る。頬に赤い筋が出来る。耳の一部が千切れ飛ぶ。
 たっぷりと脂肪ののった腹に、右の拳を叩き込む。マッケンゼンは、くぐもった声をあげた。
 そのまま、左。さらに、脚。
 兵士たちが銃を構えなおした。
 京也は、マッケンゼンの背後にまわった。手首と喉を抑え、向きを変える。兵士たち、および喪部に対し、彼の巨体を盾とする。
「FIRE」
 喪部の凛とした声が響いた。
「――な!」
 巨体の影で、京也は目を見開いた。
『……んだと……テメ……』
『《秘宝》を持ち帰るのが、僕たちにとって最優先すべき任務。ここで邪魔されるわけにはいかない』
 一瞬の戸惑いの後、喪部の言葉を聞いた兵士たちが銃を構えなおす。
「……っ!」
 京也は、マッケンゼンの巨体を兵士達に向かって突き飛ばした。
 そのまま、それを追うようにして、自分も兵士たちに向かう。
「ハァっ!」
 よろめくマッケンゼンの背を蹴る。明確な目標――目の前で銃を構える兵士に向かって。
 断末魔と、兵士の怯えた声。
 兵士は、巨体に向かって引き金を引いていた。いや、暴発したといった方が正しいか?
 腹に銃弾を喰らい、マッケンゼンは倒れた。
 その結果を確認することなく、京也は他の兵士に向かう。短い気合の声とともに、次々と拳や脚が兵士を跳ね飛ばす。
 マッケンゼンが宣言した五分。
 その後に立っているのは、京也と喪部だけだった。
「撤退しろ。司令官も、今ならまだ、手当てをすれば間に合う」
 マッケンゼンの苦鳴を背に、京也は呼びかけた。
「――フッ」
 答えは、一発の銃声だった。続いて、短い呻き声。ほんの一度、巨体をびくりと痙攣させたかと思うと、マッケンゼンは死んでいた。
 喪部の手には、微かに煙を上げる小銃が握られていた。
「最後まで、責任を持って始末して欲しかったんだけどね」
「同志(なかま)じゃないのか?」
「よしてくれよ。ボクがその白ブタの仲間だって? 虫唾が走る」
 理由は互いに違った。だが、喪部も京也も同じように、嫌悪に顔を歪ませた。
「――東洋人の若い司令官――モノベとはおまえだな」
 その時、落ち着いた声が二人の間に割って入った。
 扉の隙間から、如月が室内に滑り込んできて、声をかけた。
「上に確認しろ。《秘宝の夜明け》は、ここからの撤退を決めている」
 如月の言葉を聞いた瞬間、はじかれたように、京也は振り返った。
「まさか――」
 微かに、声が震えていた。
 少なくとも、この区画(エリア)を探索中、如月がどこかに連絡しているそぶりはなかった。いや、それ以前に《墓》に降りたところで、PHSが使えないことを確認した。
 二人が離れていたとすれば、先ほど京也が戦っていた間だけだ。考えられるとすれば、その間に式なりなんなりで外界と連絡を取ったか?
 如月は、京也を見た。
 京也は、ぶあつく下ろした前髪の下で、目を細めた。
「……むしろ、おまえを追い出したい。そう言ったはずだ」
 視線を喪部に戻しながら、如月は言った。
「そう。ところで、君たちのバックアップはどんな体制?」
 京也は、唇を震わすばかりだった。先ほどまでの勇猛果敢な様子は、どこにも見当たらない。