黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~
「ああ、友人と言っていい程度のつきあいはあるようだ。この封印の巫女という言葉も、彼が話しているのを聞いたものだ」
瑞麗の言葉に、にわかに如月は表情を厳しくした。
「予想通り、じゃああるがな」
同様に、村雨の表情もひきしまる。壬生が小さく頷いた。
「どうした?」
「黄龍の器は、身動き取れない状態のはずだが、友人がらみとなれば話は別だ。式からの連絡はないが、相手が相手、状態が状態だ。《墓》の様子も、彼が語ったところによれば、不自然だったらしい。――確認した方がいい」
如月は、そう言って壬生に視線を向ける。
「――封印の状態の悪化が、何らかの影響を及ぼしている可能性もありますね」
静かな壬生の言葉に、鴉室が動いた。
「確認してこよう。アンタらはもう少し情報を確認しててくれ」
「けして、処理しようとするな。相手は龍脈を制す唯一の存在。三歳児が散弾銃をもってるようなものだ。動きがあるようなら、必ず知らせろ。声もかけないほうがいい」
大げさとも思えるような如月の言葉に、鴉室は足を止めた。そして、肩をすくめ、頷く。
「――壬生」
「わかりました如月さん。僕も行きましょう」
「何だ?」
「京也が寮にいなかった場合、人手があったほうがいいでしょう」
不審の念を露わにする鴉室に対し、壬生は静かに言い、鴉室の後を追う。
「わいも行くわ」
劉の言葉に、如月はPHSを彼に投げた。それを受け取り、小さく礼を言う。
「履歴に村雨と京也、壬生の番号がある。他の二人は、大丈夫だな?」
確認に、壬生と鴉室は頷いた。そして、すぐにも三人は保健室を出て行く。
「気をつけて」
それを見送り、村雨と如月は瑞麗に向き直った。
京也は、一枚の紙を持っていた。
ヒトガタに切り抜かれたその紙には、東の陰陽師の棟梁の筆跡(て)で、天后と書かれていた。
彼は、携帯端末(H・A・N・T)を開いた。そして、昨日、如月が示した符を取り出すと、机の上に、芙蓉の符と重ねておいた。
服を脱ぎ、着替える。新しい服を選ぶ際には、丁寧に違和感を確かめる。アサルトベストを身につける前にも、ポケットの一つ一つまで確かめた。持っていくものの全てを、ひっくり返して改める。
小さく眉を寄せ、ため息をつく。
京也は、部屋を出た。
作品名:黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~ 作家名:東明