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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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 笑っていた。
 涙さえ浮かべ、彼は笑っていた。
「なぁ、御子神。おぼえているか? 初めて会ったときのことを」
「――どこのバカかと思いましたよ」
 京也は、そう言って自らの鼻の頭を指差した。
「そう、こんなとこを真っ赤にさせてまで、外で昼寝をしようなんて修行僧は」
「そうじゃない。ああ、俺は言っただろう? 《生徒会》には気をつけろ、と。――なぁ、何でおまえはこんなトコまで辿りついちまったんだ?」
 皆守は、てのひらで目元を拭った。
 京也は肩をすくめた。そして、いつものように、てのひらを上に向け、アメリカンコメディの役者じみた仕草をしてみせる。
 互いの口元が歪んだ。笑みというには、ひきつっていた。
「《墓》を侵す者を排除せよ。それが《生徒会》――《墓守》の掟だ」
「ひとり、ふたり、そして誰もいなくなる。扉の数はそのまま《生徒会》関係者の数。なるほど。だから《墓》にいたわけですね。皆守クン。あの領域(エリア)はキミの担当ですか」
「ああ、そうだ。残りは俺と阿門。副会長と会長だ。前の領域(エリア)は、墓荒らし同士の相打ちを狙って開かれた。できれば、両方とも倒れてほしかった」
「知っていますか? 物語で、自分で正体とわるだくみを語った人物っていうのは、無様な結末を迎えるのがお約束です」
「無様でもなんでもいいさ。ここでおまえの探索を終わらせる。それだけだ」
 皆守は、言葉を切り、京也を見つめた。
「もう一度聞こう。――行くのか? この先へ」
 京也は、携帯端末(H・A・N・T)を引っ張り出した。そして、静かに足元に置く。同じように、黄金の剣をも置いた。
 目的を計るかのように、皆守は目を細めた。
「どうしても行くというならば、力ずくで」
 京也の口調は、まるで何かの台本を読み上げるかのようだった。
「でしょう?」
 片足を引き、重心を落とす。目の前で、軽く拳を握った。
 皆守の表情が歪んだ。
「リクエストしてもいいですか? コレ、踏まないでくださいね」
 わずかに皆守の重心が後退した。
 次の瞬間、鮮やかな蹴りが京也のいた場所を襲う。
 数センチの差で、京也はそれをかわしていた。
 いや、そもそも皆守の方にも当てる気はなかったのか?
 二人の表情は変わらなかった。
 京也は空間の真ん中に向かって移動した。足音も立てず、肩の高さも変わらない。まさに、滑るようなというに相応しい動きだった。
 当たり前のように、皆守がつきしたがう。こちらはまるで、遊歩道を散歩しているかのようだ。
「体育の時間であごを出すようなヤツが、勝てると思っているのか?」
「持久力が必要なほどもつつもりで?」
 軽い気合の声とともに、左右と続けざまに拳が襲いかかる。身体をひねり、皆守はそれをかわした。
「言ってろ」
 言葉とともに、右足が京也の足元を狙う。
 京也が後退する。その動きを予測していたかのように、皆守は素早く重心を移した。そして、側頭部を狙って反対の足がはねあがる。
「――ぐっ――」
 鈍い音とともに、京也のバランスが崩れた。数歩たたらをふみ、体勢を立て直す。
「遅い」
 身体を起こしきる前に、次の蹴りがわき腹に決まる。倒れる前に、もう一発、今度は頭に決まった。
 石の床に、鮮血が散る。
「――悪く思うなよ」
 しっかりと体重の乗った足を、京也は受け止めた。
 皆守は、足を引く。
「すでに思ってる」
 ぐっと掴む。掴んで、身体を起こした。皆守の表情に驚愕が走った。
 京也の手は万力のような力で、皆守の足首を掴んでいた。骨が砕けるか砕けないかの、ぎりぎりの力がこめられている。
 皆守はバランスを崩す。当然だ。片足をつかまれたままだ。
 そのまま、勢い良く投げられた。京也の体形や体勢から考えて、不自然なほどの力だった。
 京也は、息を吐き、肩をまわす。
「なぜ、先へ進むなと?」
 皆守は、素早く体勢を整えた。そして、もう一度、今度はフェイントも何もなしのまっすぐな蹴りを放つ。
「それが《墓守》の役割だ」
 首筋を狙ったそれを、京也は片手で受け止めた。
「《墓守》の役割は何のために定められた?」
 表情が少し哀しげに歪んだ。
 もう一度、先ほどと同じように「投げる」。
 たたらをふみ、姿勢を整えた皆守の目が剣呑な光を帯びる。
「《墓》に眠るものを外に出さないために」
 今度は、すぐにはかかってこようとしなかった。目を光らせ、用心深く距離をとる。
「さっき温室で声を聞いただろう? あれのどこが眠っているんだ?」
 もう一度、京也は構えた。細く長い息が、ゆっくりと吐き出される。
 呼吸を整える。
 皆守の表情が歪んだ。
「そして、何故おまえは《墓守》の役割を果たそうとする?」
「それが俺の役割だ」
「何故」
「俺は――!」
 皆守は、距離を詰める。自己流の動きだった。間合いまで近づくと、柔らかく膝を緩め、身をひねる。
「担当の区画は、昨日俺が開放した。おまえはもはや《墓守》ではない」
「ぐっ! ああああああああああああああああああああ」
 最高の角度と速度、狙いを持って、皆守の脚は京也の身体を捉えた。
 捉えたはずだった。
 皆守に伝わったのは、大岩を思い切り蹴ったかのような感触だった。いや、もしも大岩が相手ならば、蹴りを放つときに無意識の手加減があるだろう。だが、相手を人間だと思っている今の彼に、それはない。
 力が全て自らに返ってくる。嫌な音が体内に響いた。
 叫びが噴出する。
 部屋を形作る炎が、獣じみた叫びを吸収し、ゆれる。
「ああああああ――あ――ああ――」
 京也は微動だにせず立っていた。
 皆守の蹴りが起こした風が、顔の上半分を覆っていた前髪を散らした。微かに細めた目は、脚を抱えてのたうちまわる皆守を見下ろしていた。
「もう少し利口なやつだと思っていたが。――いまさら。扉を閉めるだけでどうにかなるなんて、なんておめでたい」
 叫びからうめき声へ。少しずつ、皆守の様子が落ち着いていく。
 汗とも涙とも、それとも唾液ともつかない体液にまみれた顔が、京也を見上げた。短く浅い呼吸をくりかえしながら、小さく口が動く。
 京也は皆守に近づいた。
 本能的な動きか、皆守は京也から距離をとろうとするかのようにもがいた。
「そうしたのは誰だ?」
 低い声が二人の間に割り込んだ。
 京也は皆守から視線を外した。そして、特に驚く様子もなく、近づいてくる丈高き姿を見据える。
「《転校生》」
 数メートルの距離をおいて、阿門帝等は足を止めた。
「《墓》を荒らしてきたのは、誰だ? そうなる結果は見えていただろう」
 彼はまっすぐに京也を見ていた。
 京也は苦笑を浮かべ、頷いた。
「ああ。俺だ。その責任をとって、ここに眠るものを破壊する。そう、決めた」
「おまえは、この遺跡に眠る《秘宝》を求めてきたと言っていた」
 京也は肩をすくめた。
「金銀財宝に心が動かないと言えば嘘になる。だが、今はそれ以上に俺はここが気に入らない」
「詭弁を。目の前にぽっかりあいた奈落の口にも気づかずに、《秘宝》の輝きのみを目にうつす愚者。いくら言葉を取り繕ったところで《宝捜し屋》(トレジャーハンタ)とはそういう存在だ」