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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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 主に、縁側には女性陣、庭には男性陣が集っていた。
 まるで時がとまっているみたいだった。
 無言のまま、如月は、縁側の下においてあった健康サンダルをつっかけ、庭に降りた。そして、まっすぐに歩いた。
 如月が向かう先には、二人いた。一人は汀京也で、一人は壬生紅葉だった。
 問題は、へたりこんだ京也の背後で、石灯籠が崩れていることだった。
 崩れているだけで、石そのものに被害がないのは幸いと言えるだろう。だが、それでも、近くの羊歯類を破壊して鎮座する石の塊は、無残というに余りある。
「壬生」
 静かな声だった。しつけのいい黒髪が、さらりと流れた。微妙に呆然とした色を刷いた顔を、まっすぐに見上げる。
 一月の気温が、さらに下がったように思えた。
「僕は君の事を信じていたんだけどね」
「あ、その。すみません……」
 脚を引き、慌てて壬生は頭を下げた。彼一人が原因というわけではないだろう。庭には、他に原因となりそうな人間が、いくらでもいる。へたりこんでいる京也をおいつめたのが、彼一人というのは、いくらなんでも考えづらい。むしろ、そう。今まで京也を追い詰めていたのが他の人間で、壬生はたまたま最後に出てきただけというのが真相ではないだろうか?
 とはいえ、直接の原因が誰かと言われれば、否定の余地はない。
「君ならば、けして巻き込まれて無様な姿をさらしたりはしない。もしかしたら、暴走する酔っ払いどもを抑えてくれるんじゃないかと」
 如月は笑った。ここにいる人間は、何度も彼のその表情を見たことがあった。
 主に、鬼道衆や柳生宗嵩と相対しているときに。
「すみません! すぐになおします。その、足元が――」
「いいわけはいい」
 ぴしゃりと言い放つと、自分よりも十センチほど背の高い大の男の襟首をひっつかみ、ひきずった。
「――」
 情けない表情で縁側の端に正座する壬生紅葉。それを見下ろし、もう一度彼は庭を見回した。ゆっくりと、石灯籠のもとに歩きながら、如月は低く言った。
「子供か、君たちは」
「いやぁ、ホント、ヨッパライってこれだから」
「おまえが言うな」
 ぱたぱたと服を払いながら立ち上がった汀京也。その彼の後頭部で、鈍い音が響く。せっかく立ち上がったにもかかわらず、彼は情けない声を上げて、もう一度しゃがみこんだ。
 後頭部にヒットさせた拳をひるがえらせ、如月はそのまま京也の襟首を掴んだ。行き先は、先ほどと同じだ。
「本当に、一言多いですね汀さん」
「いやぁ、そういう芸風で」
 壬生紅葉と、汀京也。縁側に揃って正座させられた二人が、小声でささやきあう。
「二十四にもなって、力の加減もできないとはどういうことだ」
「わい、まだ二十四やないで」
 老陰玄武の微笑み。
「――一言多いにしたって、限度があるんじゃないっすか?」
「芸風やからなぁ」
 壬生は無言だった。視線をさまよわせながらの京也の言葉に、劉が頭をかいた。


「で、一体、何を騒いでたんだ?」
 薄く泡の浮いたビールのコップを傾けながら、村雨が尋ねた。
 先ほど、霧島とさやかも到着し、縁側で正座させられている三人を除き、参加者全員が居間に集っている。
 ふすまを取り払い、部屋の大きさを確保したとはいえ、人数が人数。いささか、狭さを感じるのは、仕方のない話だろう。
「ああ、きょーやんがイメクラ趣味に目覚めたって言うから、拳武館の制服があるってことになって。あと、天香? だっけ、そこのもあるから、とりあえず着せようっつー話で」
 インゲンとにんじんの肉巻きをつまみながら、京一は、ひらひらと片手を振った。
「姉さんたちの誰か、止めなかったのかよ」
「壬生が脅しいれようとしたのを、きょーやんが下手によけようしたんだって。そのまんまだと当たるってんで、あの大失敗」
「……なんつぅか、おまえら、ここをどこだと思ってんだよ」
「さすがに道場だとは思ってねぇよ……」
「全く、こんなか弱いコウサギちゃんになにをするんだか。酔っ払いって怖いですねぇ」
 言葉とともに、ひょいとてのひらがテーブルに現れる。村雨の傍らには、いつのまにか匍匐前進体勢の汀京也がいた。
 京一に、箸でつつかれて、しおしおとてのひらは逃げを打つ。
「おい、センセイ。そこは田作りだ。手ぇつっこむな。何が欲しいんだ?」
「伊達巻と、黒豆で。あと酒もくれるとうれしーっす」
 上半身をひじでささえ、京也は言った。注意深く、頭がテーブルの上に出ないようにしている。
 当然、家主が本気ならば、隠れているうちになど入らない。
 小さく息を吐くと、村雨は近くの取り皿に、言われたものを適当に放り込んだ。そして、さっきまで傾けていたビールのコップをつけて床に置く。
 京也はといえば、隣の小蒔に向かって、ひらひらと手を振って笑っていた。皿が目の前に来たのに気づくと、村雨に小さく頭を下げる。
「いやぁ……さすがにふざけすぎたよなぁ。ちゃんと直したってんで許してくれるといいんだけどよ」
「紫暮が主にな。俺が言いたいのはそういうことじゃねぇ。おい、骨董屋」
 村雨の呼びかけに、びくりと京也は身体を小さくした。多分大丈夫だろうとは言うものの、家主の許可を得て戻ってきたわけではない。
「何だ?」
 秋月組と談笑していた如月が顔を上げた。京也に気づかないということはないのだろうが、特にお咎めの言葉はない。テーブルのかげで、ほっと息をつく京也を、小蒔が笑いながら見下ろす。京也は、唇の前に人差し指を立て、彼女を見上げた。
「ツケといてくれや」
 不思議そうに、如月は首をかしげ、それでも頷いた。それを確かめると、村雨はよいしょとオヤジくさい掛け声とともに立ち上がった。そして、そのまま、居間から姿を消す。
「何でしょうねぇ」
 行儀悪く、寝転んだまま京也は箸を握っている。同じように、不思議そうに、近くにいた人間たちは首をかしげていた。
 すぐに、村雨は戻ってきた。そして、そのまま、縁側に出て行く。
「うわ、村雨さん何を!」
 しばらくの後、壬生の悲鳴が響いた。いよいよ、居間にいる人間たちは、不思議そうに互いの顔を見合わせた。
「――村雨。やりすぎです」
 ただ一人、東の陰陽師の棟梁が、扇子を額にため息をついている。
 障子があいた。そして、壬生を小脇に抱えた村雨が戻ってくる。
「イメクラでも何でも好きにしたらどうだ? ああ、ついでにこんなのも持ってきてある」
「……村雨さん。貴方って人は……」
 身動きもままならぬ状態で放り出された壬生が、低い声で唸る。単純に見れば、彼は特に拘束されている様子はなかった。ただ、口を開くことすらぎこちなく、指先一本うごかすもままならない様子だった。
 そして、村雨が開いたのは、ピンク色のナース服だった。やけに、丈が短い。
 それを見た瞬間、会場にいた人間は、村雨が何をしたのかを悟った。何度も、彼らはここに世話になっている。如月骨董品店が、どういった商品を扱っていたか、熟知とは言わずとも断片的な知識は持ち合わせていた。
「如月。……まだ売ってたのかよそんなもん」
「他の誰に言われても、おまえたちに言われる筋合いはない。村雨、領収書は必要か?」