雪都会
「そういう事を一番に考える手前の方が気色悪ぃんだっつ、の!」
そのタイミングで自分の横にあったエアコンの室外機を力任せに臨也に投げつける。
半年後にはこの家の室外機の持ち主が、夏バテすることなんて勿論、考えもせずに。
「うっわー、人の家に室外機投げ込むとか常識じゃない事分かってんの?」
「手前の口から常識っつー言葉が出てくるたぁ上等だ、臨也あああぁぁぁぁ!!」
「うるっさいな、迷惑だよ。夜勤の人が寝てたらどうすんの。」
そう言って、静雄の投げた本日2人目の生贄である太い鉄パイプをスルリと避けて、臨也は
静雄の前に降りた。
トン、と音も立てずに軽い足取りで静雄に一歩近づき、
「うるさい子は強制的に黙らせるよ?」
一瞬、動きが読めなくなって棒立ちになっている静雄の耳元に口を近づけ、小さく、小さく
呟いた。
「おい、てめッッ」
何か言おうとした静雄の言葉には耳も傾けず、臨也は静雄の唇に自分のそれを重ねた。
ただ、重ねるだけの接吻。
「……―――――ッ!!??」
静雄は慌てて振り払おうとするが、自分のされた事に気付くのに一歩遅れ、その抵抗は
無駄となる。
大体7秒くらい経ったところで唇を離され、静雄は一気に後ろへ飛びのいた。
ありえない。
可笑しい。
なんだよこれ。
色々言うべきだった文句が頭の中に流れる。
そして辿り着いた結論は。
あぁ、こいつこういう趣味なのか?
それだけの疑問だった。
「あれ、シズちゃん怒らないの?」
何の違和感もなく、いつも通り笑う臨也に、今のは白昼夢だったのではないかと思ってしまい
そうである。
だが違う、違うのだ、本当だったのだ。
口を片手で押えて、顔を紅潮させている静雄に臨也はまた一歩近づき、
「ねぇ、」
「怒らないの?」
一瞬、またかと思い身構えた静雄に臨也は何もすることなく、ただ顔を近づける。
そして、そのまま少し片足の重心を静雄の方に移動させ、自ら自分の体を静雄の胸板に
寄せた。
何が起こったか分からず、硬直する静雄。
何も知らない、健全で純潔な子供のように、無邪気に疑問の視線を向ける臨也。
すん、と無言で静雄のバーテン服に顔を押しつけると、臨也は少し呟いた。
「煙草臭い。」
くぐもった声で、一言だけ。
「うっせぇな、文句言ってんじゃねぇ。」
そこでやっと20秒間の沈黙に終止符が打たれる。
反射的に静雄は臨也の背に軽く腕を回すと、そのふわりとシャンプーの香りのする黒髪に
顔を寄せた。
「ん。」
「何してるの。」
「臨也冷てぇ。」
「シズちゃんが可笑しいのさ、こんな気温の中で、身体がこんなに温かい人いる筈無いでしょ。」
「んー。」
あまり話は聞かずに、その冷えた身体に身を寄せる。
決して体温的には温かくは無いのだが、ただ少し身体に熱が染みて。
何処か天敵である彼の体温が居心地良く感じてしまって。
何処か離れる気の失せた二人の日常はこのまま終わった。
~続きは現在執筆中~