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婚約者 [黒後家蜘蛛の会二次創作]

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婚約者(4) 会員による解答


どうぞ、というピアスンの仕草に応えて、ホルステッドは広い額を紅潮させてしゃべり始めた。
「たしかにこの話には腑に落ちないことが多いですね。だからピアスンさんもわれわれにこの話を明かしていただいてるんでしょうが。中でももっとも不自然なのは娘さんの態度です。手ひどく振られておきながら、今はイングラムを擁護する姿勢を変えない。これはジェフの言ったように、男に丸めこまれているということも考えられますが、そうでないとしたらどうでしょうか」そこでホルステッドは思い入れよろしく一息入れてから言った。「つまり、隠された何かがあるということです」
「何が言いたいんだ?」トランブルが吐き捨てるように言った。「もったいぶらずにさっさと話せよ」
「今から話すさ」ホルステッドは肩をそびやかした。「つまり、娘さんは本当に振られたことなどないんだ。イングラムの愛情はずっと娘さんにあったんだよ。そこへマーガレットが割り込んだんだ」
「ほう?」ルービンは腕を組んだまま、ホルステッドを横目でにらんで言った。「どういうことだ?」
「マーガレットはピアノ教師をしてイングラムの家に出入りしている間に、なんらかの秘密を握ったんだ」ホルステッドはそこでゆっくりと人差し指を立てた。「そしてイングラムを脅迫したんだよ」
「脅迫ですって」ピアスンが驚いて叫んだ。
「そうです。そうすれば娘さんの態度もわかるじゃないですか。一度は他の女と急に結婚すると言われてショックを受けたものの、実は、とイングラムに事情を打ち明けられたんですよ。事情を知ればイングラムに対して悪い感情を持つ理由はないでしょう。離婚をすればもともとの予定どおりに結婚しようとするのが当然なのではないですか」
 得意満面のホルステッドに対し、しかしテーブルを囲む面々はうなずかなかった。
「その脅迫の元になった秘密はなんだと思うんだ?」トランブルが言った。
「そんなこと、知るものか。知る必要もないね」ホルステッドは肩を大袈裟にすくめて言った。
「では、脅迫してまで結婚したマーガレットが離婚した理由はなんなんだ?」ゴンザロが言った。
「このまま結婚したままでいるより、金で解決したほうがいいと考え直したんだろう」
「なぜ?」
「そこに保険金が出てくるんだな。マーガレットは事故のときに初めてその話を聞いたんだよ。それで身の危険を感じたんじゃないか。そこで作戦を変更したんだと思うね」
 テーブルの面々は不信の顔でホルステッドを見返した。
「では娘はやはり、保険金殺人を企むような男と結婚しようとしている、ということですか?」ピアスンが言った。
「いやいや、そうとは限りませんよ。保険金はお嬢さんの言うとおり、善意のものであったかもしれませんからね。しかしそれが怯えたマーガレットを追い出すことになったのだとしたら、瓢箪から駒だったわけです」ホルステッドはテーブルの周囲を見まわした。
 アヴァロンが感心しない顔をしたまま言った。「きみはそもそも、脅迫したときの狙いはなんだったと思うのかね?結婚かい?金かい?金目当てだったら最初から結婚なんぞはしないだろう。結婚だったんだったら、金で解決しようと考えを変えるのはいかにも乱暴という気がするねえ」
「それはきみの意見だろう、ジェフ。結婚と金と両方が目的だったらどうするね。身の危険を感じて、結婚はあきらめたということで理屈は合うだろう」
「じゃあ、ボストンへ行く前の涙についてはどうなんだ?」アヴァロンが言い募った。
「それは知らないな。演技なのかもしれないよ」
 ピアスンが口を挟んだ。「おっしゃりたいことは分かるのですが、どうも私にも違和感がぬぐえませんね。ケネスに聞いていると、マーガレットがそれほど悪い人間にはどうしても思えないのです。私はケネスを信頼していますし、そのケネスが長く面倒を見ているんですからね」
「ということだ。その程度のことしか言えないのであればもう黙ったほうがいいな、ロジャー」ルービンが駄目を出した。
 しばらく腕組みをして考え込んでいたゴンザロが口を開いた。「言いにくいんですが、ピアスンさん、マーガレットの『イングラムとは何もない』という言葉に引っかかるんですね。イングラムとは何もないのなら、他の誰かとは何かあると言っているんじゃないですか」
「どういう意味です?」ピアスンが言った。
「マーガレットではなく、お嬢さんがマーガレットに対して何か脅迫をしていたのは、ということです。マーガレットの何か弱みを握って、離婚するように仕向けたとか……」
 ピアスンはしばし呆然とした後、怒りでゆっくりと顔を赤く染めた。
 それを見てドレイクが慌てて言った。「思いつきをすぐ口に出すんじゃない、マリオ。それでもやっぱり『ジェニファーに謝っておいてくれ』という言葉は説明できないじゃないか」
「それは逆説かもしれないぞ。あるいは言葉では言えない何かをケネス氏に訴えたかったのかもしれない」
 トランブルが怒鳴った。「馬鹿なことを言うのもいいかげんにしないか。恨みがあるんならそんな言い方が不自然だってことくらい、いくらきみにだってわかるだろう。それにそうだとしたらイングラム自身はどうなんだ。すんなり離婚するわけがないだろうが」
「それに、そこまで執着した相手なら、上の息子と同居しようとも不自然だろう」ドレイクも言った。
 しばらく続いた沈黙を破ってアヴァロンが重々しく言った。「全体を見るに、イングラム氏がやはりこの一連の騒動に対してもっとも責任を負うべき人物だと思うね。ロジャーの説やマリオの説よりも、飽きた女性を体よくボストンに追い払ったというほうがまだ説得力があるようにわたしには思えるよ」
 トランブルが顰め面で言った。「どだい、1歳の子供がいるからには、2年前からマーガレットとは付き合ってたってことだろう。じゃあしばらくはジェニファーと両方付き合ってた時期があってことじゃないか。女たらしには違いないさ」
 アヴァロンがうなずいた。「トムの言うとおりだね。まあ、いくつか不自然なところはあるけれども、それの意味するところを知るには情報が足りないね」
「それについて考えていることがあるんだが」ルービンが眼鏡の奥の梟のような目をピアスンに向けて言った。
「最初から気になっていることがあるんですが、ピアスンさん。イングラムの職場での最近の評判ですが、あれはケネス氏から聞かれたんですか?」
 虚を突かれてピアスンは言葉に詰まった。「それは……」
「それにですよ、さっきあなた、イングラムの最初の奥さんに保険が掛かっていたかどうか聞かれた時、『それはまだ分かりません』とおっしゃいましたね?『まだ分からない』とはどういう意味ですか?」
 ルービンに畳みかけられたピアスンは唇を引き結んで黙り込んだ。
「探偵ですか」ルービンが短く言った。
 ピアスンはきっとルービンをにらみ返したが、やがて肩を落として言った。「おっしゃるとおり、探偵を雇ってイングラムの周辺を調査させています。親としては居ても立ってもいられなかったもので」