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染まる色は同じ色

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 文月、小暑。
 暦の上では梅雨明けとなり、暑さが本格的になるころだと言われている。だが、今年の気温はそれの上を行く。
 予想外の気温が五月末から六月と続いており、既に真夏日、猛暑と言った言葉も聞くくらいだ。街行く人たちの装いも既に夏真っ盛り。額に汗する彼らが苦境を物語る。
 そして群衆の一人となる高校生三人もまた、この暑さにうんざりとしながら公園の木陰で涼んでいた。

「あっちー…… ったくなんなんだよ、この暑さ! これも地球温暖化とかのせいですかー? 人類の行いは人類に跳ね返ってくると? 冗談じゃないね! しかーし! 道行くお姉さまたち、お嬢さん方の装いは実にいいねぇ目の保養!」
「……紀田くん、五月蠅い。そう叫ばないでよ余計暑苦しい。あとセクハラだから」
「ヒデェ帝人! 聞いたか杏里? 実に幼馴染甲斐のない言葉!!」
「え、えっと……」
「気にすること無いよ園原さん。紀田くんの病気だから」
 ぱたぱたと胸元を緩め、少しでも風を送ろうとする帝人は、正臣の叫びをあっさりと切る。なおも正臣は「いつも以上にキレがいいな! さすが俺の相方!」などと叫んでいるが帝人は構わず一刀両断を続ける。
 いつもながらといえどもどう反応していいのか分からなかったのだろう、杏里は僅かにほっとした顔をしてそれでも首を傾げた。ちなみに彼女もまた手で顔を仰いでいる。
「……あの、竜ヶ峰くん。差し出がましいんですけど」
 二人の応酬が一瞬途切れたのを見計らい、おずおずと問いかける杏里に二人の視線はそちらを向く。仕草で続きを促す彼らに応じるように、杏里は疑問を紡いだ。
「制服、半袖……着ないんですか?」

 ――この暑さにあたって、当然の疑問を。

 あ、と二人とも無意識に顔を見合わせる。正臣はもちろん半袖だが、帝人は捲りあげられた長袖だ。サラリーマンでもいることはいるが、道行く人たちの大半は半袖。珍しいことには変わりない。
 杏里の疑問も当然か、と目だけで会話した幼馴染は同時に口を開く。
「……あー、それは」
「それはだなー、帝人がもやしっ子だからな!」
「紀田くん! 余計な茶々入れないでよ!」
「あながち外れてもいないしなーぁ? てか、マジで帝人はもうちょっと食うべきだぜー、もやしじゃなくて!」
「人をもやししか食べてない貧乏人みたいな言い方しないでよ!」
「あの、竜ヶ峰くん……本当ですか?」
「信じないで園原さん! 誤解! ちゃんとご飯食べてるから! 米も野菜も!」
「そこで肉って言えないのが帝人の甲斐性のなさだよなぁ」
「黙れ正臣、ちょっと別の境地体験してみる?」
「……ハイ、すいませんでした帝人さま。はしゃぎ過ぎましたゴメンナサイ。だからそのボールペンをなにとぞ下ろして下サイ」
 にこりと笑い、なぜかボールペンを構えた帝人に汗が一気に引いていく。別の意味での汗がだらだらと背筋を伝ったのを感じながら、正臣は内心ヤベーからかい過ぎたと反省した。さり気に正臣呼びになったことは嬉しいが、そういった親しさは普段に聞きたい。間違ってもこんな状況ではごめんである。
 怒り心頭とまではいかないまでもかなりのレベルにある帝人を察し、「オーケー、クールダウンクールダウン」と告げるが向けられる目は冷ややかだ。やっべえ。
 今度こそレッドゾーンに突入しかねないと危機感を募らせた正臣は、帝人の機嫌と杏里の誤解を解くべく「つまりだな、」と説明する。
「こいつ、紫外線に弱いんだよ。っていうか肌が弱いのか」
「……弱い弱い連呼しないでよ、紀田くん」
「事実だろーが。毎年地元でも夏の度に汗疹が出来て湯治だの、日焼けどころか火傷の域だの大騒ぎしてたのはお前だろうが」
「大騒ぎってほど騒いでないよ! ただ、ちょっと酷いことになるくらいで……」
「だからこんな暑いのに長袖着て、尚且つ日焼け止めしっかり塗ってんだろ?」
「そうだけどさ、もうちょっと言い方ってものないの?」
 止めとばかりに告げられた言葉に、帝人は悔しげに唸りながらも首肯する。自らの腕を擦りながら恨めしげに。
「僕だって出来ることならもうちょっと図太い肌になりたかった……」
 はぁ、と嘆息した言葉は心底切実な思いが込められている。その姿が容易に日焼けぐらいでと茶化す余裕を与えない。帝人の真剣な様子に杏里は労しいと見やり、正臣は昔から知る友人の苦労を労うように肩を叩く。
「まあそー言っても個人の体質ばっかはこのスペシャルでパーフェクト、も一つおまけにマーべラスな親友の俺でもどうにもならない! てなわけでだな杏里、帝人は毎年毎年この暑苦しい季節にこういう格好を披露せねばならんのだよ。周囲にとっては迷惑極まりないほどに!」
「一言どころか全てが余計だよ」
「酷い帝人! 心配して解説してやっている俺になんて言葉を!!」
「あ、あの、そういう理由だったんですね……ごめんなさい」
「や、園原さんが謝ることなんてないから! 紀田くんと違って」
「無視か! 何この愛の差!?」
 冷たい! 寒波もかくやってくらいの冷たさだぞ帝人ー!と騒ぐ正臣を放って、帝人は杏里に向かって慌てて首を振る。杏里が悪いわけではない。こういう勿論正臣だって。
 恨むべくはこの体質。多少日光に当たったくらいで直ぐに赤く腫れあがり、熱と痛みを伴って帝人を苦しめるこの肌なのだ。
(白いって言われるけど、女の子じゃあるまいし。僕だって出来るなら)
 出来るなら正臣みたいに健康優良児になりたかったとは、口には出さない願望である。ちらりと目を向ければ彼は大げさに嘆くふりをしている。だがその実、帝人の事情を知っているので本気ではない。幼いころから痛い、痒い、熱いと三重苦を体験している帝人を間近で見ているのだ。なんだかんだ言いつつもフォローしてくれる。
「ま、とりあえず暫くはこーんな暑苦しい恰好が続くんだ。ってことで頑張ろうな杏里! 視界の暴力に負けないように!」
「え、えっと……はい。でも竜ヶ峰くんも、気を付けてくださいね」
「はは、うん。そうだね」
 たかが日焼け。されど日焼け。医学用語では日光皮膚炎とも言われている。馬鹿にするのは容易いが、意外と大変なのだ。当事者は。
 せめてもうちょっと健康的なくらいにはなりたいんだけど、と思いながらも既に諦めている。帝人の趣味はネットサーフィンであり、室内に籠るものだ。当然、外出とは縁が薄い。思えば、幼いころから籠りがちな傾向もあった。
 自分の行動にも原因はあるがやはり人間体が資本というし、ここは素直に友人たちの言葉に頷くべきだろう。日焼け止め、そろそろ切れるから買っとこうと決意しつつ、帝人は座っていた場所から立ち上がる。
 行こうか、と声をかければ立ち上がる二人と連れ立って、三人は雑踏の中へと消えていく。ドラッグストアに寄るか?なんて会話をしながら、ふと帝人は思う。

 ――そういえば、あのひとはどうなんだろう。

 脳裏に思い描いた疑問は誰に知られることもなく、呼ばれる声に霧散する。
 …………はずだった。

「そういうわけで、なんで僕が折原さんと一緒に帰ってるんでしょう?」
「今更じゃない?」
作品名:染まる色は同じ色 作家名:ひな