二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

染まる色は同じ色

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 それと臨也でいいってば。帝人くんは律儀だなぁと笑う臨也にはぁと返事をして首を傾げつつ、エコバッグを持ちながら帝人は家路を辿る。何故か横に新宿の情報屋のおまけつきで。
 あれから暫くして三人は別れ、帝人は一人スーパーへと向かっていた。そろそろ食材も尽きそうだったことを思い出して。幸い、エコバッグは鞄に入っていた。みみっちいと言うなかれ、苦学生にとっては僅かの袋代金すら惜しい。
 今日は何にしようか。出来れば保存できるものがいいが、この暑さではダメになるのも早かろう。注意しないとすぐ悪くなってしまう。ならばあまり量を買うのも考えものだ。
 生鮮食品のコーナーで悩む帝人の肩を、ぽんと叩いたのが彼だった。そこまで思い出して帝人は首を傾げる。あれよあれよと言う間に連れだって帰路を辿っているのだが、思えばこの質問を一番最初に問いかけるべきだったと思い至って。
「それにしても何で臨也さんが普通のスーパーマーケットに居たんです? しかも池袋の」
 当然の疑問を向けるが、臨也は僅かに頬を引きつらせた。言葉は極普通の問いかけにすぎなかったが、向ける視線が思わず本音を語っていたらしい。何て似合わないところにいるんですか。あんた新宿に住んでるはずじゃという疑問を。
「……君が俺をどういう目で見ているかなんとなくわかる言動をありがとう。俺は怪我もするし血も流れる普通の人間だから、普通にスーパーは利用するよ。君と同じようにね」
「普通の人は真夏にコートなんて着ないと思うんですけど」
 胡乱気な眼差しで隣を見遣る。当然のように臨也はいつものコートを着ており、帝人の言葉に仕方がなさそうに苦笑していた。
「まあ、これはね。仕方がないと思って見逃して」
 珍しくこちらの反応を見るためのものではなく、純粋にしょうがないと自分でも諦めているような仕草をする臨也を、帝人は僅かに驚きを持って見つめる。
 真夏に黒の衣服を着る人間は珍しくもない。行きかう群衆の中にも黒色がちらほらと見える。だが、真夏にファーのついた黒のコートを着るなどという人間は、池袋中を探したってこの人一人だと言いきれる。
 先程まで散々正臣から長袖は視界の暴力だのなんだの言われていたが、正直臨也の方がそう見える。
「……暑くないんですか?」
「そりゃ暑いよ」
 即答される返答になら着なけりゃいいじゃないかと文句が浮かぶが、言ったところで即座に叩き潰されるのが目に見えて口を噤む。
 あー暑い暑いと文句を言いながら、臨也は帝人の隣を歩く。
「こう暑いとイライラしてくるよねぇ。そんなところに電柱とか標識とか投げられたら更にイラつくじゃない? もう死ねって思うよね。存在自体なくなっちゃえとか」
「既に平和島さんと一戦やらかして来たんですか」
「どうにか撒いたけどね。途中で涼んでたんだけど、丁度よく帝人くんが通りかかってよかった」
「僕は全然よくありませんよ……」
 少なくても予想以上の荷物を買い込む羽目にはならなかったはずだ。右手に提げた買い物袋の中身がガサリと音を立てる。だが、その中身の代金を出したのは臨也な故に深く追求できない。
「まあいーじゃない。貧乏学生な君に太っ腹な先輩が奢ってあげたんだから」
「……言っときますけど、外食の方がはるかにいいと思いますよ」
「ん、今日は帝人くんの手料理が食べたい気分だからそれはいいの」
 暗に帰れと言ってるのだがそれさえも通じない臨也に帝人は途方にくれて空を見上げる。夜の訪れが遅い夏は、時計の針に反して未だ空が青い。この人も声だけはさわやかなのにと逃避めいたことを考えつつ、家路を辿る。
 暫くすれば見えてきたアパート、部屋の前まで来て溜息ついて鍵をあける。後ろで何が楽しいのかにこにこと笑いながら佇む臨也は絶対に上がっていく気だ。ここまで来たら抵抗などする気はないが、溜息一つくらいは許してもらいたい。
 全てが臨也の思い通りに進むなど癪だ。たまには意趣返しもとい仕返しの一つくらい考えてもいいだろうと思う帝人は見かけに反してプライドが高い。貧乏学生甘く見るなよと心中でのみ呟き、開錠して開けた扉。部屋から流れ出る空気に、背後の臨也が眉間を寄せる。
「え、ちょっと何この空気。外よりも暑い?」
「当然でしょう、閉め切ってたんだから」
 帝人は構うことなく歩みを進め、がらりと窓を開け放つ。さして風も入らないのだが、それでも空気が流れるか否かは重要だ。心なしか部屋の気温も僅かに変動したように感じる。
「うっわ……サウナ。何この部屋。本当に人が住む環境? 汗噴き出して来たんだけど」
「……それは僕だって同じですよ」
 たらり、と額から流れた汗が頬を伝う。ここ数日の猛暑で悲しいながら慣れた現実だ。このときばかりはほんの少しもうちょっとまともな部屋借りればよかったかもと思ったが、財布の中身を思い出し、いやいやここしかないし、ここ安いしと自分を納得させる。  伝う汗を拭いながら、帝人は置いたエコバッグを台所に移動させるために持ち上げる。ぶーぶーと文句を言っている臨也に溜息を吐いた後、少し早いが夕食の準備をしようと荷物を漁り始めたところで――ふと、背後が気になった。
「…………何?」
「あ、その、すいません、暑くないんですか」
「暑いよ。暑いって言ってるじゃん」
 流れてる汗も見えないの。そんな皮肉さえ飛んでくるが帝人は意に介さず、首を傾げた。
「じゃあコート脱げばいいと思うんですけど」
 彼曰くサウナのような部屋に入っても、まだ臨也はコートを着たままだ。帝人の質問も尤もなものだろう。
 暑ければ脱げばいい。至極当然の結論に臨也はなぜか顔を顰め、僅かに逡巡する。珍しくも言い淀んだ情報屋に顔に出さないが驚いていると、深々と溜息を吐いて彼は首肯した。
「……そうだね。まあ、外よりはましかな。一応安普請だけど直射日光はそれほど強くないし」
 言うが早いがさっさと脱ぎ始める。とはいえ羽織るだけのコートだ。僅か数秒もかからずに床に落ちたコートは衣服とは思えぬ音をたてたが深くは追求しない。
 それにしても暑いと文句を言いながら臨也は前髪を掻き揚げる。額から頬へ流れる汗が妙に艶めいて見えて、格好いい。同性から見てもそうなのだ、異性はいかばかりか。
 美形って得だよねと妙な感嘆を交え、改めて臨也をしげしげと見つめた。
「臨也さんも夏服って着るんですね」
「……君、本当に俺を何だと思っているのかな?」
「あ、いえ別に変な意味じゃなくて。いつも黒コートのイメージでしたから」
 折原臨也を思い浮かべろと言われれば、十中八九皆が黒コートに黒づくめの姿をした青年を思い浮かべるだろう。もはやトレードマークと言っていいほどに。
「そりゃね。まあ、刷り込みってのは面白いものだよ。常に同じ格好をしていればそれ以外の格好をしていた場合、認識しづらくなる。たとえば俺がコートを白に変えて眼鏡でも掛けていたとしよう、それだけでも印象は全く違う」
「そうですね。でも、それもなんだかもったいない気がします」
 はふ、と帝人は息を吐く。訳知り顔で自身の印象から人間論へと発展していく会話に相槌を打ちながら、ちらりと見た臨也はやはり格好いい。
作品名:染まる色は同じ色 作家名:ひな