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【腐向け】西+ちびロマSS・4本セット

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八百屋さんの完熟トマト


 畑仕事を終えた昼下がり。スペインはロマーノを連れて街へ来ていた。収穫したばかりの野菜を売るのと、子分の教育の為。
 難癖つけては勉強をサボる子であるが、女性相手だと異常に頑張る癖がある。そこを突いて、女性客の対応をさせてスペイン語や通貨を勉強させようと考えていた。
 決してロマーノと一緒に居たいだけではない。
「じゃあロマーノ、頑張ろうな」
「ここ暑いぞこのやろー……」
「こっち日影やから、俺の隣おいで」
 早速文句を言う子分に苦笑し、自分の隣を叩く。それを受け面倒臭そうに移動すると、何かを思いついた顔で立ち上がった。
「お店屋さんは、エプロンするんだろ?」
 そう言って取り出したのは、白い子供用エプロン。よいしょと腰に巻き、縦結びだがしっかり紐を結ぶ。風でふわりと浮かぶ布にはウサギのアップリケ。
 またオランダかと思いつつ、彼を子分にして良かったと心の底から思った。ウサギエプロンをつけたロマーノの可愛らしさが尋常じゃない。
 そんな子供店員が目を惹くのか、スペインのスペースには客が途切れる事無く顔を出す。顔を真っ赤にしながらたどたどしいスペイン語を話す可愛い子供に、特に女性陣が食いついていた。
(作戦成功や!)
 一生懸命にお金を数え、客に教わりながら釣りを出す。女性限定ではあるがしっかり働く子分の姿に、思わず目頭が熱くなった。こうして見ると、手のかかる子供はかなり成長している。
(……幸せやんなぁ)
 自分の国民に愛されるロマーノ。それをすぐ隣で見守れるという事。太陽のように惹き付ける光を放つ子供に目を細める。口元には自然と笑みが浮かんだ。
「スペイン!」
 頬を薔薇色に染め、ロマーノがこちらを振り向く。喜びに輝く瞳に映る自分に気付き、スペインの胸は温まると同時に掴まれたように締めつけられた。
 永遠のような時の中で、確かに生きている今を感じる。同じ日の無い日々の楽しさ。それはロマーノがここに来てから、強く実感するようになったこと。いつの間にか自分の中心にあぐらをかいて座り込む子分様に苦笑し、それもいいかと納得する。彼の気まぐれに振り回されるのも、楽しんでしまえばいいのだ。
 そんな風に考えていると、客が途切れた隙をついてロマーノは不穏な動きを見せる。スペインは大きく溜息をつくと、腰に手をあてて怒った。
「こらっ! ロマーノ、トマト食うたらあかんやろ!」
「ケチケチすんなコノヤロー」
「あーかーん! これは商品やで!」
 一仕事して腹が減ったと、トマトを齧り出す子供に説教をする。躾に熱心な大人と、頬を膨らませトマトを食べ続ける子供。そんな二人を周りの人々は笑顔で見ていた。
「お兄さん、これちょうだいな」
 これ以上食べられないようにトマトを入れた籠を持ち上げていると、女性客から声を掛けられた。微笑ましくロマーノを見つめている姿に先程のやりとりを見られていたのかと恥ずかしくなり、つい口止めのような気持ちでトマトをオマケにつけてしまう。
「ありがとさん、これオマケにつけとくわ」
「ふふっ、じゃあこれは可愛い店員さんに」
 オマケに渡したトマトを手に取ると、女性は取り上げられてむくれる子供に差し出した。目の前に差し出されたトマトと女性の相乗効果で、ロマーノの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「綺麗なお姉さん、おおきに!」
 やったと受け取る子供に手を振り、女性は笑顔で去っていく。そのまま美味しそうに頬張る姿に頭が痛くなり、スペインはどうしたものかと空を仰いだ。
「ロマーノ……お前なぁ……」
 食べ終えた隙をつき、ロマーノの頬をぷにぷにと押す。やめろと真っ赤な顔で抗議する声を無視し、これは罰だとスペインは柔らかな頬を触り続けた。
「お兄さん、俺にもトマトちょうだい」
「はーいって……フランスやん。よっしゃ、ええトマト選んだるわ」
 客だと手を離し振り向くと、そこに居たのは見知った顔。珍しい所で会うと笑い、早速トマトの籠を見る。そんな姿を制し、フランスは笑顔でスペインの隣を指さした。
「完熟してるやつ頂戴よ。ほら、そこにある」
 指の先には、頬を触られ続け怒っているロマーノの真っ赤な顔。慌てて子分を抱き上げ、ぎゅっと抱き締める。
「……悪い、フランス。トマトは売り切れやったわ」
 代わりに別の野菜をと動くと、腕の中でロマーノが暴れた。
「何だよ、苦しいから離せよちくしょうめ!」
「じゃあロマーノ、お兄さんの方に来なよ」
「わああああ! スペイン守れコノヤロー!!」
 今更天敵の存在に気付き、離れようとスペインの顔を押していた手を首に回して抱きつく。ぴったりと隙間なく、しっかりくっついて逃げる姿にフランスは大きく肩を落とした。
「えー、傷つく〜……」
「あっはっは、残念やったなぁ」
 べえと舌を出し、震える子分の背を撫でる。頬にキスを贈り存分にイチャつけば、げんなりとした顔の友人が手にしていた箱を前に出した。
「ふーん、お兄さんいじめると仕返しするよ?」
「!」
 箱の中から香る甘い匂いに、ロマーノの顔がスペインから離れる。思わず手を出して箱を受け取ろうとしたものの、相手がフランスだと思い出して手を引いた。その反応に笑い、フランスが箱を左右に揺らす。箱に釘付けにされた子供の視線は、箱と一緒に左右に動いた。
「……スペイン……」
 涙目で縋る声に溜息をつく。食べ物に弱いロマーノに呆れるが、頼られているという優越感がスペインの心を動かす。仕方なく店は畳み、屋敷へ帰ってお茶にする事にした。ほぼ野菜を売り切っているのが救いだ。
「今日はよう手伝ったなぁ」
「ふふん、まかせろコノヤロー!!」
「まったく……。親分子分っていうか、もう親子だなお前等は」
 ロマーノを背負って歩くスペインと、その隣で呆れるフランス。背中でもっと褒めろとはしゃぐ子供に二人して笑い、穏やかな時間は過ぎていく。
「スペイン、腹減った!」
「お前、さっきトマト食とったやろ!」
「早く帰って、お兄さんのお菓子食べような〜」

 女性に声を掛けられ気に入ったのか、ロマーノはそれ以来市場を進んで手伝うようになった。だがスペインに居る間、相手をする客は女性のみという姿勢は最後まで変わらなかったのだった。


END