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【腐向け】西ロマSS・7本セット

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マスカットキャンディー


 買い物した店の年配の女性に貰った飴の包み紙を開け、ロマーノは大き目の飴玉を頬張った。綺麗な緑の固まりは、いかにも合成という味を舌先に乗せる。たまにはこんな味もいい。そんな懐かしい味の飴を舌先で遊び、買ったワインを机に置いた。
 マスカット味の飴を舐めつつ、白ワインのラベルを撫でる。モスカートを買ったから、マスカットの飴をくれたのだろうか。簡単な連想に笑みを浮かべ、ボトルを冷蔵庫に放り込む。今日は暑いから、少し冷えたのが飲みたい気分だ。
「つまみ、何かあったかな……」
 確か、チーズの残りが少しあった筈。考えながら時計を見る。針が示すは中途半端な時間。今すぐ飲むか、もう少し待って夕食と共に飲むか。
 念の為パスタの残りを確認していると、玄関のベルが鳴った。今日弟はドイツの所に行っている筈。一体何だろうと扉を開ければ、陽気な男がワイン瓶片手に立っていた。
「オーラ!」
「なんだよ、お前かコノヤロー」
 土産と渡されたワインのラベルを見て、片眉を上げる。先程買ってきたワインと同じそれに、どういう偶然だと飴を軽く噛んだ。
「あれ? ロマーノ、飴食べてる?」
「そこの店でワイン買ったら貰った」
「あー、俺も貰ったわ」
 もう噛んで食べてしまったけれどと笑う姿に、同じ店で同じ物を買うなんてと驚く。素直に偶然を話せば、スペインは「俺ら以心伝心やな」とまた笑った。
「同じの二本って」
「ええやん、お揃いで」
 まあ、二人なら飲めるか。あって困るものでは無い。そんな軽い気持ちで客を中に通せば、フンフンと鼻を動かしたスペインに抱きつかれた。
「あっぶね! ワイン落とす所だっただろーが」
「ロマーノええ匂いするなぁ」
 慌てて瓶をテーブルに置き、背後の男に頭突きを食らわそうとする。予想していたのか避けたスペインは、首筋に鼻を押しつけるとまた鼻をひくつかせた。
「甘い匂い……」
「ああ、今飴食べてるからな」
 甘味料の塊のような飴を舌先に乗せ、軽く口から見せる。直ぐに引っ込めた飴を見つめ、スペインは自分の舌をぺろっと出した。
「それめっちゃ甘かったわぁ」
「色からしてメロンかと思ったけどな」
「ワインに合わせたんやろか」
 同じ事を考える男に、思わず頬を染める。同じワインを選んで同じ連想。抱きつかれている事もあり、まるでスペインと一つになったような気分だ。
 恥ずかしくて、少しだけ心地いい状況。染まった耳に気付かれないよう抱きつく腕を振りほどこうとするが、スペインは楽しげな声を出すだけで全然離れない。それ所か、余計きつく抱き締めてきた。
「なあ、知っとる? モスカートの香りって興奮作用あるらしいで」
「……これはただの飴だっつーの」
 耳元で熱っぽく囁かれる声に、馴らされた体は嫌でも先を期待してしまう。でもワインが飲みたいし夕飯も食べたいからという理由で、ロマーノは何とか堪えた。
「今夜はパスタが食べたい」
 強く腕を振りほどき、土産のワインも冷蔵庫へ押し込む。口外に今はする気がないと告げれば、腕を取られた。
「俺の口ん中も、マスカット味するやろ?」
「……今食ってる最中なんだから、分かるわけねーだろカッツオ!」
 深く合わされた唇が離れ、意地悪く笑う男に頭突きする。叫んだせいか口から飛び出しそうな飴を頬に入れ、ロマーノはリスのように膨らませた。
「腹減ってるから嫌だって言ってんだよ!」
「えー、俺も腹減っとるわ。だから……」
 そこから先は言うんじゃない。
 まるで話を聞かない男に腹が立つ。それでも嫌いになれない自分に更にむかついた。
 口の中のキャンディーを八つ当たりで噛み砕くと、スペインの口へ無理矢理押し込んで叫ぶ。
「飴でも食ってろ、ハゲ!」
 真顔で味わった後、お代わりを告げる声にロマーノは本を投げつけた。

 その後すっかりへそを曲げた恋人の為に、スペインは財布をはたいて豪勢な夕飯を作る羽目になったのだった。


END