二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【腐向け】西ロマSS・7本セット

INDEX|6ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

ミントの葉


「まだ仕事終わんねーのかよ」
「ごめんな、ロマ〜……帰らんといてええええ!」
「フン。さっさと終わらせろよ」
 呼び出されたスペインの屋敷。呼び出した張本人は、今だ激務の中に居た。呼んでおいて放置とは何だとムッとしつつ、最近はそれ程嫌でもない。
(そんな事だと思って、用意はしてきたけどな)
 ユーロ好景気で盛り上がっていた頃、スペインは屋敷の風呂場を改修した。良く言えばアンティークなバスタブは、大人が二人入っても余裕なジャグジーになる。ロマーノの家の物より大きいそれは、ローマ時代から風呂好きの自分にとってかなり魅力的だった。
 仕事で待たされても、あの広い風呂に入れるのなら我慢も出来る。むしろ風呂に入りに、遊びに来る回数が増えた程だった。
 荷物を漁り、持って来た袋の中身をバスタブに放り込む。今日はミント、ローズマリー、ラベンダーにタイム。カモミールにレモングラスとさっぱり系のハーブをチョイス。暑い日にはこれだろうと微笑み、お湯の栓を捻る。溜まるまでの間台所で飲み物を用意しようと、ロマーノは鼻歌を歌いながら足取り軽く進んだ。
 大きい風呂でゆっくりとハーブバスを楽しみながら、雑誌を読みつつ飲み物を飲む。いつもの優雅な時間に口元を緩ませ、今日は何を飲もうかと考える。
(さっぱりしたいから、レモネードかな)
 冷蔵庫を空け、作るはぎっしりの氷を入れたレモネード。小さいトレイにそれを乗せ、適当なファッション誌を脇に挟んで風呂場に戻る。丁度お湯は半分程度溜まっており、半身浴にはもってこいの量だった。
(暫く半身浴したら、お湯足すか)
 浮かんだハーブ達が香りを出し、ロマーノはご機嫌で服を脱いだ。お決まりの位置に雑誌とトレイを置き、ゆったりと寄りかかれる位置を探して風呂の中で体を動かす。
「あー……、最っ高……」
 ようやく体が収まり胸一杯に香りを吸い込むと、そんな声がひとりでに漏れた。ぐっと腕を伸ばし、体を解す。ちゃぷんとした水音しか部屋にはせず、ロマーノは今度耐水性のプレイヤーでも持ち込もうかと考えた。
(スペインの風呂は俺の風呂だな)
 それにしてもいい買い物をしたものだ。好景気だからと今までの貧乏の反動か、スペインはよく分からないものを買っていた。その中で、一番のいい買い物はこれだろう。
 雑誌のページを捲り、最新の流行を追う。まったりしてしまえば勝手なもので、スペインの仕事がそう早く終わらなくてもいいぞと思ってしまった。
「……ロマーノ?」
 レモネードを飲み終え、雑誌を読み終えた所で声が掛けられる。返事をする前に開けられたドアからスペインが顔を覗かせ、もう恒例になってしまった優雅なバスタイム姿に苦笑した。
「お前、俺より楽しんどるなぁ」
「この風呂が無かったら帰ってる所だぞ、コノヤロー」
 少しだけ拗ねたように頬を膨らませ、スペインを焦らせる。予想通り慌てた彼はその場で服を脱ぎ捨て、湯船に飛び込んで来た。
「ごめんな、ロマーノ」
 頬に何度も贈られるキスを顔には出さないが嬉しく受け取り、仕方なくという風に許しを出す。
「……風呂に免じて許してやるけどな」
 疲れの見える顔に浮かんだミントの葉を投げつけ、お湯を足そうと蛇口を捻った。疲れた体には、たっぷりのお湯の方がいいだろう。
「あーっ、疲れたわぁ〜……」
 首を回しながら、スペインが隣で寛ぐ。そのまま湯船に浮いたハーブを見渡し、いつもながらすごい量だと呆れた。
「ロマはほんま、ハーブバスが好きやね」
「……そりゃ、掃除すんのお前だしな」
 ぽかんと口を開け言葉が出ない様子のスペインにニッと笑い、ロマーノは湯船の中で足をバタバタと動かした。こんなハーブバスなんて、掃除するのが面倒過ぎて家では出来ない。でもスペインの家ならば、掃除するのは家主だ。その理由を思い出し、つい頬に熱が篭る。
「もしかして、掃除面倒やからうちで入っとるん?」
「いやいや、掃除する気は毎回あるんだぜ。誰かさんのせいで、次の日起きれないだけでな」
「ぐっ……!」
 掃除の躾と愛し合う行為を天秤にかけ、スペインが喉の奥で唸りながら口を閉ざす。毎回そのパターンになると気付いてから、ハーブバスに頻繁に入るようになったとは口が裂けても言えない秘密だ。少しの意趣返しも込め、ロマーノはいたずらに瞳を輝かせる。
「今回こそ、掃除しようか? 疲れてるんだろ?」
「……ロマの掃除は不安やから、ええよ」
 悔しそうに口を曲げ、スペインはロマーノの腕を引いて唇を重ねた。張ったお湯の温度は低いのに、頭がくらくらしてくる。湯当たりとは違う熱の篭り具合。繰り返されるキスの合間、ハーブバスが無駄になったとぼんやり思う。
 爽やかなミントもレモングラスも、もう鼻には届かない。抱き合った姿で香るのはスペインの匂い。それに満足し、行為に身を任せる。 
 やっぱり風呂よりスペインの方がいい。
 そんな当たり前の事実を再確認しながら。

「ちくしょう……せっかくの制汗、清涼作用が……台無しじゃねーか」
 行為の後のベッドの上で、ロマーノが愚痴を零す。さわやか系を揃えていたハーブバスの甲斐が無かったと嘆くが、その頬は染まっているので照れ隠しだろう。
「お湯抜いてへんし、もっかい入る?」
「〜っ! ヴァッファンクーロ!!」
 枕を投げつけ、ロマーノは布団の中に潜り込んでしまった。散々やらかした風呂での出来事を思い出したらしい。そういえば今回はお湯を汚したなと、スペインは言った後で気付いた。
「ろっまあの〜」
「うるせぇよ、お前疲れてんだから早く寝ろコノヤロー!」
「はいはい。寝るからそっちちょっと詰めたって」
 ベッドの真ん中で丸くなる彼の背中を撫で、少し位置をずれて貰う。ようやく出てきた顔にキスを贈ると、腕に抱きこんで瞼を閉じた。
(ロマーノが来てくれるんなら、風呂のついででもええわ)
 好景気の時、何を買おうと考えて浮かんだのがロマーノの顔だった。大切な人に贈りたいと告げても無駄遣いするなと断られ続け、考えた末に浮かんだのが風呂好きという側面。お風呂でイチャイチャも考慮に入れ、スペインは広い風呂場に改修をした。
 その効果は絶大で、以来ロマーノの訪問は目に見えて増えている。風呂で満足した彼の機嫌はすこぶる良く、その後のイチャイチャも増えて言う事無しだ。
(でも毎回ハーブバスは掃除が大変や……)
 風呂の改修はいい面が多いが、流石にバケツ一杯の草は辛い。同じように風呂好きの日本には入浴剤が沢山ある事を思い出し、スペインは早速取り揃えようと考える。それに手を出している間は、草掃除をせずに済むだろう。

 自分の考えに満足して眠るスペインには、その後「ゼリー風呂」なる入浴剤に自ら手を出してしまい、また掃除が大変になってしまうという事は予想出来なかった。


END