着ぐるみの着心地はいかが?快新編
事の発端は数日前、
快斗と2人で買い物に出かけた時。
たまたまドラッグストアの前を通り過ぎたら、
2体の着ぐるみがティッシュを配っていた。
どうやらこのドラッグストアのキャラクターのようで猫の王子さまみたいなものと猫のお姫さまみたいなもの。
かなりクオリティーが低かったため、判断しづらかった。
「なぁあれ猫か?」
そう話しかけた相手は隣から消えており、
何処かと探すと猫の王子さまと握手を交わしていた。
「あの馬鹿。」
そして今度はお姫さまと握手を交わして、次の瞬間お姫さまを抱きしめた。
さすがにマズイだろ…と思い連れ戻しに行こうとしたら。
猫の王子さまによってあっさり引き離された。
快斗が驚いて放心していると、王子さまは快斗の頭にポンと手を置いた。
その流れを知らない者が見れば、王子さまが快斗をなでている平和な光景だが、
快斗の顔が引き攣っている。かなり痛い…みたいだ。
どうやって救い出そうか、
いっそ置いてくか…などと思案していると、
お姫さまが王子さまの背中をバン!!と殴った。
王子様が不意打ちに驚いてる隙に快斗は素早く離れる。
そうして開放された快斗が目を潤ませながら走って戻ってきた。
「新一…あいつ超怖かった…」
「アホ。」
「でも、良いなぁ着ぐるみ。」
「あーはいはい。行くぞ。」
という事があったのだ。
そして、今のこの状況だ。
快斗が持ってる雑誌にはテーマパークの着ぐるみバイト緊急募集とある。
キャラクターはうさぎの兵隊2名。男性に限る。
…兵隊2名、『2名』が若干ひっかかった。
「やるのか?」
「うん。」
「そうか。」
「新一も。」
快斗の笑顔にここまでイラッとしたのは初めだ。
俺はそんなことに付き合う気はさらさら無かったので、何が何でも断るつもりだった。
だが、そのとき電話が鳴った。
何故だか嬉しそうに快斗が俺の家の電話に出た。
「嫌な予感がする。」
電話を終えた快斗が満面の笑みで戻ってくる。
さっきの記録を大幅に更新した。
(・・・・・殴りてぇ。)
「新一!!2人揃って採用だって!!」
「2人っつうのは…」
「もちろん俺と新一v」
今チラシを見たのに、
応募していないのに、
なぜ採用済みなのか、
聞きたいことは山ほどあった。
頭痛がする。
…病欠ってアリか?
不謹慎ということは承知でギリギリまで事件が起きないかと携帯を握り締めていたのだが、
無常にも携帯は静まり返っていた。
こうなってしまった以上、無責任に放り出すのも嫌だったので仕方なくやることにした。
夏場ということもあり、他に応募者が1人も居なくては仕方がない…
それに、1日の我慢だ。
なんでもその日はテーマパーク10周年記念らしく、
急遽、着ぐるみの数を増やしたそうだ。
その結果、夏ばてで休んだ人の代わりが居なくなったのだ。
そのため2名の募集をかけたと。
快斗は馬鹿だよなーなんて笑っていたが、笑い事じゃない気がする。
よくそれで10周年を迎えたものだ。
作品名:着ぐるみの着心地はいかが?快新編 作家名:おこた