虹の作り方
「・・・・あれ?シャカ??」
周囲の風景が変わっていた。どうやら、シャカの邸らしい。シャカはのんびりとソファーに座ってチャイを飲みながら、パラパラと本を捲っていた。
「―――君は相変わらず騒がしいな」
頭の中にクエスチョンマークでいっぱいになった時、ようやく自分が瞬間移動させられたのだということに気付いた。
「なんでだ?」
「“助けろ、シャカ!”と散々君は叫んでいたではないか。」
「あー・・・まぁ、そうだったかな?」
心の中で確かに叫んだ。まさか聞こえてたなんて・・・それこそ恥だな・・・と思う。
「何があったのかね?」
「いや・・・まぁ・・・別に。大したことじゃねぇよ」
うっかりとんでもないことを口走りそうになった、なんてことを言った日にはロクでもないことになるに決まっていたから適当に誤魔化す。
「だったら、今すぐ君をあの場に送り返してやろうか?」
「いや、遠慮する。ここで過ごすわ・・・かまわねぇだろ?」
「別にかまわぬが・・・と、デスマスク・・・重いのだが」
ソファーになだれ込み、ごろんとシャカの腿の上に、頭を乗っけて横になる。ちょっと酔いが回っているせいもあって、随分と心地よい。
「なに・・・気にするな。俺は楽だ」
「・・・・勝手な言い草だな」
呆れたように溜息をつきながらも、除ける気配がないことからどうやらお許しが出たらしいとにんまりと笑った。
「そういや、おまえ、宿題できたのか?」
ごろりと頭を動かしてシャカを見上げる。見下ろすシャカの真っ青な目と合った。
「ああ、あの宿題かね?飴玉コロコロ」
「そうそう。ちっとは上達したか?」
「さぁ・・・わからぬが」
「試してやろうか?また、腰砕けになるだろうけどな?」
にやりとほくそ笑んだデスマスクの顔に、ボスッとクッションが勢いよく押し当てられた。
「うがっ・・・・わかった!悪かった!」
ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いたシャカを見て、デスマスクは内心でヒーヒー笑い転げた。
徐に『キスとはどうするのかね?』なんて聞いてきたシャカに、デスマスクが悪乗りして実践してやったら、シャカは腰砕けの放心状態になったのだ。
思わず、そのまま悪乗りしてとんでもないことになりそうだったが、それはなけなしの理性でもって押し留めた。だが、あの反応が初々しくて、もう一度拝んでみたい気もしないでもなかった。ほんとうに何も知らないおシャカさまに少しずつ色々なことを教えるのはとても楽しい。
「ところでさ、おまえ、あのオブジェは何だったんだ?」
ふと、思いだした例の謎の物体について尋ねてみた。
「ああ、あれか・・・別に意味はないのだが」
「意味のねえもんを送りつけやがったのか?おまえは・・・はぁ〜」
思わず毀れる溜息。シャカはくすくすと小さく笑む。
「なに、ちょっとした話のネタにでもなるだろうと思ったまでだ」
「ネタにはなったけど、おかげで俺はここにいるじゃねぇかよ・・・・」
「―――それが私の狙いだったといったら?」
謎々をするように秘密めいた柔らかな笑みを零すシャカ。
「え・・・?」
「ほんの少し、君が生まれた日を共に祝ってみたいと思っただけだ。君には色々感謝しているから」
うわぁ〜〜〜!!なんていうことをサラッと言ってのけるんだろうと、慌てて顔を横向ける。
「そ・・そそそ・そりゃありがたいこった!」
「―――デスマスク、耳が赤いが?」
「う・・うるせ!目瞑ってろ!」
小さく笑いを零しながら、シャカはデスマスクの頭をさわさわと優しく撫でる。
何だか、聞き分けのない子供扱いされているような気がしないでもないが、今日が誕生日でよかった・・・・なんておもわず思ってしまう。
少しずつ掛かり始めた虹を見て、わくわくする子供のような気分だなと、デスマスクは改めて思いながら、優しいまどろみに身を委ねるのだった。
Fin.