鬼ごっこ、ご褒美はお寿司
狭いワゴンの中で活字から目を離すと、いつの間にか陽が暮れかけていた。窓の外の、見慣れたような、しかし具体的に言葉にすると認識できない曖昧な景色。薄赤に染まった視界に入る全て。隣の彼を見る、と本職の下書きか何かであろう、イヤホンを付けたままスケッチブックと格闘していて、狩沢は今まで彼を放って文庫本に熱中していた自分を棚上げに、寂しいじゃないのゆまっち、なんて戯言を思いつつ、けれど邪魔するような大人気ないことはしない、だって私は一人前の女だもん、代わりに助手席に声を掛けた、ドタチン今どこ今何時ー? 助手席から身を乗り出して、時計を見ろよと苦笑しながらけれど優しい彼は答えてくれる。四時二十八分、渡草の家から夕食を食べに繁華街へ向かうところ。カズターノも来るよ、と親しい不法入国者の名前を挙げられて狩沢は身を乗り出した、じゃあ露西亜寿司ね! 運転席に手を掛ける、と急カーブにふらついて、危ないから座ってろ、運転席からの叱責に大人しく尻を落とした。
隣の彼が仕事中で、珍しく未読の本も無い、というよりも読み干してしまって、私もお仕事するかな、と携帯で発注チェック。二件の依頼に目を通し、帰宅後の予定を立てる、なんて暇つぶしもあっという間で、狩沢は帽子を脱いで前髪を梳いた。窓の外はもう見慣れた通りを走っている。退屈、というのは久しぶりである。ワゴンに乗る仲間たちは皆、平和島のような武力とまではいかないが戦力足りうる人材ばかりで、最近の街の騒動にも巻き込まれたり首を突っ込んだり、騒がしい日々が続いていたからだ。二次元があれば三次元なんてどうだって、とはよく思うけれども、二次元にも三次元にも触れられないような、曖昧な退屈。
見慣れた看板を見つけて、とっさに狩沢は運転席に声を掛けた、車止めて。本を買ってそのまま露西亜寿司に向かうから、と。曖昧に停滞したワゴンが耐えられなかった。事件と事件の間、しかし次の事件など永遠に来ないと恐怖させる停滞。断絶を埋めるための道具が必要だった。折原にとっての情報みたく、狩沢にとってはそれが本であった。それぞれ気まぐれなワゴンのメンバー、帽子を被り直す間に慣れた手つきで渡草が道路わきに車を寄せてくれて、一人狩沢は街に下りた。集中してしまっている遊馬崎はそれにも気付かない。車が見えなくなってから、腹いせみたくイヤホンを耳に差した。流れ出すアニメのポップな音楽。きゃらきゃらした女の子の声。体に染みる夕暮れの日差し、目的の本屋に歩きつつ、新刊の情報を思い出す。新しくなくても買いそびれていたシリーズのバックナンバーだとか、そういう全てを買ってしまおうと思った。太陽が見えなくなって、夕方がだんだんと夜に変わっていく。首なしの黒バイクが嘶きながら通り過ぎ、街に増える黄色に辟易する。
隣の彼が仕事中で、珍しく未読の本も無い、というよりも読み干してしまって、私もお仕事するかな、と携帯で発注チェック。二件の依頼に目を通し、帰宅後の予定を立てる、なんて暇つぶしもあっという間で、狩沢は帽子を脱いで前髪を梳いた。窓の外はもう見慣れた通りを走っている。退屈、というのは久しぶりである。ワゴンに乗る仲間たちは皆、平和島のような武力とまではいかないが戦力足りうる人材ばかりで、最近の街の騒動にも巻き込まれたり首を突っ込んだり、騒がしい日々が続いていたからだ。二次元があれば三次元なんてどうだって、とはよく思うけれども、二次元にも三次元にも触れられないような、曖昧な退屈。
見慣れた看板を見つけて、とっさに狩沢は運転席に声を掛けた、車止めて。本を買ってそのまま露西亜寿司に向かうから、と。曖昧に停滞したワゴンが耐えられなかった。事件と事件の間、しかし次の事件など永遠に来ないと恐怖させる停滞。断絶を埋めるための道具が必要だった。折原にとっての情報みたく、狩沢にとってはそれが本であった。それぞれ気まぐれなワゴンのメンバー、帽子を被り直す間に慣れた手つきで渡草が道路わきに車を寄せてくれて、一人狩沢は街に下りた。集中してしまっている遊馬崎はそれにも気付かない。車が見えなくなってから、腹いせみたくイヤホンを耳に差した。流れ出すアニメのポップな音楽。きゃらきゃらした女の子の声。体に染みる夕暮れの日差し、目的の本屋に歩きつつ、新刊の情報を思い出す。新しくなくても買いそびれていたシリーズのバックナンバーだとか、そういう全てを買ってしまおうと思った。太陽が見えなくなって、夕方がだんだんと夜に変わっていく。首なしの黒バイクが嘶きながら通り過ぎ、街に増える黄色に辟易する。
作品名:鬼ごっこ、ご褒美はお寿司 作家名:m/枕木