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鬼ごっこ、ご褒美はお寿司

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 本屋まであと数歩、というところで狩沢は歩みを止めた。耳を塞ぐアニメソングの隙間から、自分を呼び止めるような声がしたのだ。最初は他人の話だろうと無視していたが、どうも声が大きくなり、複数になり、近づいてくる。イヤホンを片耳だけとって狩沢は振り向き、立ち並ぶ三人のいかにもチンピラ然とした男たち、お前門田の女だろ、ありきたりな常套句に溜息を吐いた。イヤホンをぶら下げたまま、狩沢は本屋に向かって走った。あっ逃げやがった、後ろからチンピラが追ってくる、しかりて慣れた事態だ、狩沢は人気のある店に逃げ込み、棚の影に隠れる。慣れた店内、しかし高い棚が入り組んだ店だ、慣れないチンピラは既に狩沢を見失っている。そうして門田に連絡を入れればすぐに来てくれて、チンピラが伸されて終わり。指先だけで辿り着ける、番号を画面に出して、いつも通り電話を発信しようと、した。でも。発信ボタンを押す指が躊躇した。一人で勝手に退屈してワゴンを飛び出したのに、皆を呼ぶ? このまま隠れて鬼ごっこを続ければチンピラも諦めて帰るだろう。三人ぐらいまくのは訳も無い。万引き監視用の鏡で周囲を警戒しつつ、ぶら下がっていたイヤホンを鞄にしまい、ついでに携帯もしまった。一人が奥へ近づいてくるのが見えて、場所を移動する。そう、繰り返せばやり過ごせる。相方の仕事を邪魔することも、無い。蛍光灯が光る店内、立ち読みする他の客はまさかこの中で鬼ごっこなど思わないだろう、笑いを零すほどの余裕を持って狩沢はチンピラから逃げる。コミックから文庫、ハードカバーを抜けて女性誌、少年漫画誌。大丈夫、だいじょうぶ。まるで自分に言い聞かせるように繰り返しながら、鏡に見えたチンピラが諦めかけている様子を見る。よし、もう少しで終わり。ふっと安心した、瞬間。上を向いたチンピラと、鏡越しに目が合った。チンピラが仲間を呼び、メーデーメーデー、どちらに逃げようか、いつの間にか手にしていた携帯を、むりやり鞄に放り込む。叫ぶチンピラに騒ぎ出す店内、迷惑はかけられない、外へ出ようと人を掻き分け、すっかり夜の気配のにじむ出口、走り抜けて、そして何かにぶつかった。ごめん、呟いて再び走り出そうと立て直した体の、その腕をそれはつかんだ。