鬼ごっこ、ご褒美はお寿司
「スージー先生の画集限定版、俺の分も予約しといてくれたっすか?」
追い付いたチンピラが、しかしその男の姿を認めて、二の足を踏む。あれ、なんすかあの人たち、のほほんと間の抜けた声に、狩沢はほっと、頬を緩め、にこり笑って、そしていつものいたずらな表情、誘拐されかけたんだよちょう怖かったんだから! 誇張たっぷりに演技して、それに彼も乗る。悪い人なら成敗しなきゃっすねー。夜の街、本屋から漏れる光、歩道の脇に止まったワゴンがクラクションを鳴らす。ドア一枚だけ痛いアニメ絵が描かれた特徴的なワゴンに、形勢逆転、青ざめて逃げ出すチンピラを、逃げちゃ駄目っすよー、路地裏まで追いかけて、仕事道具であるアイスピックで暴力暴力。遅れて狩沢が追いかけた時には既にチンピラが泣きながら謝っていた。次いで現れた門田に、哀れなチンピラはその場で土下座。それを無視して、怪我は無いか、と狩沢の無傷を確認し、門田はアイスピックを振り回す彼を止め、そこでチンピラが安心したのもつかの間、十分成敗されたチンピラに一発ずつ自分でも入れて、全員気絶させ、そして三人並んでワゴンに戻った。
ワゴンではカズターノが増えていて、五人仲良く露西亜寿司、街はもう夜の営み、平凡な日常の中の小さな喧騒、遠くで自動販売機が宙に浮いて、何でもない非日常な日常の夜。あれ狩沢さん機嫌いいっすね、融解されかけたのに、隣の彼の漢字変換を間違えた質問に、だってぴゃーなんだもん、的確な返答とともに、狩沢は遊馬崎に飛びついた。
作品名:鬼ごっこ、ご褒美はお寿司 作家名:m/枕木