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【腐】よいこのねるじかん

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ストックは、目元を荒っぽくごしごし擦ると、嬉しさをめいっぱい表現するように何度も頷いた。
そして、くるりと身体を反転させベッドに向かっていく。
途中、赤い外套を投げ捨て、靴を脱ぎ放り投げ、ベルトを抜くと地面に落とし。
あっという間に薄いインナー姿になるとベッドにダイブした。

ストックが部屋中に散らかした衣服の類を拾い上げ、机の上に置いた後、ガーランドはベッドの上に近寄る。
ストックは喜々として毛布を自分の身体に引き上げ、上目遣いでこちらをみてきた所だ。

期待に胸を膨らます無防備な表情に、むらぁとくるものがある。雄の部分に急速に熱が集まっていくのを感じた。
なんと言ったって、以前より憎からず思っている相手が、野暮ったい装束を脱ぎ、ベッドの中で横たわっているのだ。
腹が減って仕方のない時に、籠いっぱいに盛ったフルーツを目の前に差し出されたようなものである。
男として、雄として、感じない訳がなかった。

ガーランドは生唾を飲み込んだ。
一度意識してしまうと、彼の日に焼けた喉元や、堅く結ばれた唇に目を奪われてしまう。
涙で濡れた睫。堅くシーツを握っている手。インナーの隙間から少しだけのぞいている胸元。


くいたい。
かぶりつきたい。
なめてしゃぶってすすって……。


ガーランドはベッドに片膝をつくと、ストックの上にまたがった。
そして、ほどよく鎖骨が浮かんだ彼の首もとに顔を埋め、本能に赴くまま噛みつこうとした、のだが。
それよりも早く、ガーランドの背に腕が回される。そして、耳元で

――ねないの?

という声が聞こえてきた。


(これからなにをされるのかわからねぇのか)


ガーランドは思わずストックの顔を見下ろした。組み敷いている彼は、澄んだ、純な瞳をしてシグナス武王を凝視していたのだった。
これからガーランドがなにをするのか。自分がなにをされかけたのか。何もわからないらしく、首を傾げている。

ストックは、言った。


――はやく、ねないの?


か細く、弱々しい声音。これが、本当にストックなのか。


ガーランドは、己の内に渦巻いていた熱が、急速に冷めていくのを感じた。
そして同時に、(危ねぇ……)と思う。

肉体こそ青年とはいえ、精神状態は脆弱な子供そのもの。
無防備が故、どことなく艶の漂うストックは惜しいが、『子供』相手に手を出すほどガーランドは飢えてはいなかった。
なんと言ったって、肩を掴まれた程度で、ヒドく動揺するのだ。
それを無理に犯したりなんてしたら……。

じっとこちらを見つめてくるストックの目線を受け、雄が急速に萎えていく。
代わりに頭をもたげてきたのは、父親が子供に抱くような 守ってやりたい かまってやりたい という庇護心だった。
嫁なし子なしで40手前まで来てしまった自分に、父性があるとは驚きである。
だが芽生えてしまったものは仕方がない。


「わかった、わかった。今、寝る」


ガーランドはストックのすぐ側に身を横たえると、ベッドが深く沈み、軋んだ音を立てた。
ストックはすかさず近寄ってくる。再びガーランドの身体に腕を回し、手入れとは無縁であろう少し堅い髪を、王の胸元にこすりつけてきたのだった。

この懐きよう。
自分を父親か何かと勘違いしているのだろうか。
だったら、尚更手を出すことはできない。

ガーランドは、今度は驚かせないよう気をつけつつ、優しく、強く抱きしめる。
細身だが、程良く筋肉のついている身体はしなやかで、少し抱き心地は悪い。だが、それがいいのだ。枕は固い方が好きである。


「一緒に寝てやる。だから、おまえも安心して寝ろ、な?」


ストックは顔を上げると、にっこりと笑って……あの仏頂面がである!……ガーランドの頬に口づけた。
とっさの出来事にシグナス王が目をぱちくりさせている間に、再び胸に顔を埋めると静かに目を閉じたのであった。


(コイツは……本当に……!)


ついつい頬が緩みそうになるのをかろうじて押さえる。
ガーランドは金色の頭に顔を埋め、彼の香りを肺にたくさん吸い込んだ。そして、額にキスを一つ落とす。


「おやすみ、ストック」


(できれば、今度寝るときは、裸で抱き合いてえなぁ……)と、邪なことを胸のうちでつぶやきつつ。
ガーランドは目を閉じると静かに意識を手放したのあった。