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炎の烙印-前篇-

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 ヒーロー全員に避難勧告が発令されるのも時間の問題だった。
 要救助者は防火シェルターにいるのだし、なにしろ人数も一人。
 ヒーロー全員の命を天秤にかけられない。
 一刻も早く救助しなければ、強制退去がかかってしまう。
 誰一人として犠牲を出したくない。
 その一心だけで、虎徹は炎の中を走った。
 マスク越しでも、息を吸うと喉が灼き付きそうだった。
 ふと相棒が気になって隣を見ると、肩を並べて走る赤いスーツ姿があった。
 虎徹の視線に気がついたのか、小さく頷いて寄こした。
 それだけで、不安が勇気に変わるような気がした。
 ヒーロー人生10余年、よもやバディを組んでヒーローをやることになるとは思いもよらなかったが、なかなかどうしてこれは思ったより心強い状況だった。
 始めは煩わしかったことだが、今となってはバディを組ませてくれたアポロンメディアの方針に感謝したいくらいである。
 ともあれ、一気に炎の中を走りぬけた虎徹とバーナビーはなんとか炎の壁を通り抜け、火の勢いが弱い区画に到着した。
 そして、例のシェルターを挟んで向うの区画が火薬庫だった。
「こちら無事にシェルター前まで到着。なんとかまだ火薬庫までは火は行ってないようだ。すぐに救助を開始する」
『急いで、ヒーロー全員に避難勧告が出たわ』
「了解。火の勢いがすごくて後退はできそうにない。ハンドレットパワーが切れる前に屋根を突き破って上空に出る」
 はっきり言って、上空も炎が逆巻いているので安全とは言えなかったが、もはやそれしかない。
 虎徹は通信を終えると、シェルターの内部と話しているバーナビ―の様子を伺った。
 まだ扉は開いてないようだ。
「どうした?早くしないと、火がすぐそこまで来てるぞ」
「爆発の影響で扉が曲がってしまったようで開かないんです」
「中とは連絡取れたか?」
「ええ、無事は無事のようです。ただ、このゆがみのせいで防火機能も低下してるようで、かなりの熱が入り込んでいるみたいです」
「とにかく開けるぞ」
 このシェルターに防火機能がないとわかった以上、一刻も早くここをこじ開けて救助しなくてはならない、そう判断して虎徹とバーナビーは分厚い鋼鉄の扉をゆがみ部分からこじ開けにかかった。
 通常の100倍の力というのは相当なもので、とても動きそうになかった鋼鉄の扉が、ギリギリッと耳をふさぎたくなるような擦れる音を立ててひしゃげ始めた。
「よし、もう少しだ。ふんばれ!」
 そう虎徹がバーナビーに声をかけた時だった。
 パァー・・・ン。
 と、どこかで小さい破裂音がした。
 一瞬、火薬庫に引火したかと思ってびくっと身をすくませた虎徹だったが、どうやら小さな火薬への引火だったらしく、もう一回「パーン」と小さく破裂すると、炎が爆ぜる音へ変わった。
「あー・・・ビビった。どうやら、火薬庫への引火じゃなかったようだな。急ごう、バニー」
 外れかかった扉の下を持ち上げて、バーナビーに声をかけたが反応がなかった。
「ん?バニー?そっち持ってくれないと一人じゃ無理・・・」
 扉の向こう側をはがしにかかっているバーナビーが、すっかり棒立ちになっているのを見咎めて虎徹が声をかけるが、反応がない。
「バニー!急がないと・・・・・・え、うわっ」
 バーナビーが手を離した鋼鉄の扉が、事もあろうかその瞬間に枠ごと外れ、その重みを乗せてまだ扉を持っている虎徹一人振りかかってきた。
 バランスを崩した瞬間、巨大な鋼鉄の塊が一気にのしかかってきた。
「っ!!」
 そしてその振動で危うい状態だった天井の底が崩落し、枠を支えていたコンクリートの柱までドミノ倒しのようにすべて倒れてくる。
 どんだけーーーっ!!!
 虎徹は心の中で、「神様、ここまでされるほど罰当たりなことした覚えがありませんっ!」と、妙に冷静に、そして的外れなことを考えていた。


                         つづく
作品名:炎の烙印-前篇- 作家名:るう