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炎の烙印-中編-

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「あたた・・・・・・」
 正直、終わったと思ったがどうやら生きていたようである。
 己の頑丈さにこれほど感謝したことはない。
 しこたま頭を打ったが、あと痛みを感じるのは左腕くらいである。
 たぶんとっさに腕を上げて頭をかばった為、まっさきに瓦礫にぶつかったようだ。
 この痛み方だと、下手をするとヒビくらい入っているかもしれない。
 ズキズキと断続的に襲う痛みを堪え、虎徹は瓦礫の底からなんとか這い出てきた。
 それにしてもバーナビーはどうなったんだろう。
 虎徹が瓦礫に埋もれれば、助けに動いてもよさそうなものだが。
 もしかしたら、自分と同じように瓦礫に埋まってしまったのか?
 己の想像にぞっとして、慌てて周りを見渡す。
 後ろを見れば、かなり炎が迫ってきていた。
 けれど、
 シェルターの扉が転がっている、そのすぐ横にバーナビーは立っていた。
 それこそ先程から微動だにしていないかのように。
「バニー・・・?」
 虎徹は相棒の異変に気がついたが、その時シェルターの中から人が転がり出てきた。
「あ、熱い・・・!」
 防火シェルターの扉が開いたのだから、熱気が一気に流れ込んできたのだろう。
 助けを求めて男が飛び出してきた。
「えっと・・・、要救助者発見!このまま屋根を破って上に脱出する」
 とりあえず慌てて通信すると、うずくまっている男を抱き上げた。
「おい、バニー!上だ、脱出するぞ」
 もう熱気がそこまで迫っている。
 けれど、バーナビーはまったく反応しない。
 まさか意識を失っているのか?
「バニー聞いているのかっ?・・・う、ごほっ!」
 声を出すと、熱気が肺に入り込んでくる。
 まずい、さっきの倒壊のときメットを破損したか。
 アーム部分もバキバキに割れている。
 右腕に要救助者を抱えるにしても、ほとんど動かない左腕にバーナビーを抱えるのはちょっと無理がある。
 あと2分ほどでハンドレットパワーも切れる。
 どちらにしても爆発まで時間の問題だ、とにかく一般人を先に脱出させるしかない。
「くっ・・・!待ってろよ、バニー」
 虎徹は、天井の底が崩落してきたところを狙って上空へと飛び上がった。
 腕に抱える人物を庇うように、腕と己の上体でもって天井にぶつかった。
 屋根の瓦礫と、柱の瓦礫のつぶてをさんざん浴びて、ようやく抵抗がなくなった時には虎徹の頑丈なヒーロースーツはズタボロだった。
 斎藤さんに怒られちゃうよ。
 しかし、ここまでめちゃくちゃにぶつかって、原形をとどめているスーツには脱帽である。
 さすがに今日何度ぶつけたかわからない頭部分は、弱い接続部分から顔半分ぱっくりと割れてしまったが。
 もっともメットがなければ、ぱっくり割れたのは虎徹の頭だっただろうけれど。
 屋根を突き破り上空に飛び出た虎徹は、まだ火の回ってない屋根へと飛び移り安全な場所を探した。
 顔を上げた瞬間、白いマントがひらめき小さな風が頬を掠めた。
 スカイハイである。
 虎徹を見つけると、すぐに舞い降りてきた。
「いいところに!助かったぜ、スカイハイ」
「ああ、よかった、無事に救助できたんだね」
 どうやら虎徹達を心配してこちらに回り込んで来ていたのだろう、そんなスカイハイに虎徹はあいさつもそこそこに大急ぎで救助した男を押しつけた。
「え?なん・・・」
「悪い、その人頼む。すこし煙を吸ってるから、すぐに手当てを」
「って、どこにいくんだ?」
「バニーがまだ中にいるんだ。すぐに連れてくるから大丈夫!」
「お、おい!タイガー・・・」
 戸惑ったようなスカイハイの言葉を最後まで聞かず、虎徹は急いで踵を返すと炎の中へと引き返していった。
 まってろよ、バニー!
 先程壊した屋根の穴を、今度は炎を避けながら飛び降りる。
 熱気が渦を巻いて下から吹きあがってきた。
 ヤバいな、これは。
 先程のシェルターが隔壁がわりになっているとはいえ、いつ火薬庫に引火してもおかしくない。
 とにかく、抱えてでもバーナビーを脱出させなくては。
 いくらスーツを着ていても火薬庫を巻き込んだ爆発にどこまで耐えられるかわからない。

 そして、ハンドレットパワーの残り時間は30秒を切っていた。



 薄暗い照明の中で、ICUの赤いランプだけが妙に眩しい光を放っていた。
 その扉のすぐ近くの長椅子に、頭を抱えるようにして一人の青年が座っていた。
 重傷で運び込まれた虎徹の手術はとっくに終わり、ロイズにも帰るように言われたが、バーナビーはどうしてもここを離れることができなかった。
 命に別状はない。
 けれど、全身いたるところに裂傷に熱傷、打撲。左腕の重度の捻挫。
 おまけに、頭を強く打っているらしい。
 バーナビーの記憶は、途中からはっきりとしてない。
 気がついたら傷だらけの虎徹が、まるで何かから守るように覆いかぶさっていた。
 ヒーロー達が駆けつけるまでの間、意識のない虎徹を混乱のなか揺さぶり続けていた。
 何度も名を呼んだ。
 全く動かない身体が、腕に重くのしかかる。
 そのあとすぐに救助隊が到着しなければ、バーナビーは正気を失ったかもしれない。
 もう一度あの場面を繰り返したら、今度こそ自分は・・・・・・
 あの時、銃声を聞いた気がした。
 記憶がないのはその後だ。
 まさかあんなところでフリーズ状態になるとは。
 医師の話によると、フラッシュバックを起こしたのではないかということだった。
 今まで炎に対して何の症状もでなかったので油断していた。
 爆ぜた火薬の音が銃声に聞こえたのだろう、よりあの時の現場に酷似した状態になり、パニックを引き起こしたのだ。
 虎徹は要救助者を助け出したあと、バーナビーを助けに炎の中へ戻ったという。
 その後、火薬庫へ火が燃え移った。
 ぎりぎりのところで屋根の外へは脱出できたが、そこで爆風に吹き飛ばされたのだ。
 虎徹のヒーロースーツはそれまでにかなり損傷していて、大気を焦がすような荒れ狂う熱風にほとんど無防備で晒されたのだ。
「ほら、ハンサム」
「・・・・・・え?」
 湯気の立ち昇るカップがいきなり目の前に差し出された。
 現実に引き戻されて、バーナビーは何度も瞬きをして顔を上げた。
 固まったまま動けないでいるバーナビーの掌を掴んで、ホットミルクのカップを押しこむように手渡すと長身の身体を屈めて目を合わせた。
「せっかくのハンサムが台無しよ、すこしは眠ったら?」
「・・・帰ったんじゃなかったんですか?」
「みんなはもう帰ったわ、ブルーローズがかなりしぶってたけどあの子は高校生だしね。あたしが最後ってわけ」
 帰る前に虎徹の様子を見に来たらしい。
「この様子だと、今日は目を覚まさないわよ?」
「・・・・・・」
 俯いたまま何も答えないバーナビーに、ネイサンは小さくため息をついてやれやれと苦笑した。
 もともと何を言っても無駄だろうと予想はしていたのだろう、たいして落胆した様子もなくポンポンと軽く肩を叩いて立ち去っていった。
 バーナビーが付き添ったところで、虎徹の症状が良くなるわけじゃない。
 これはいわば自分の為だ。
 自己満足だとわかっていても、自分を納得させるためにここにいた。
作品名:炎の烙印-中編- 作家名:るう