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【ヘタリア・仏&加】イヨマンテ(魂送り)

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「あなたの歌をうたえ 空を見上げながら」
 ファーストネーション(カナダインディアン)の言葉。


 今より、ほんの150年前。北西のとある一角、豪雪の大地。
 短い夏が終わると、秋を飛び越したように冬が来る。不幸にも、この数年冷夏が続き、今年も又思うように作物は育たず、動物達は蓄える事ができなかった。
 動物達は困ったように身を寄せ合う。しかしその寄せ合った身を食い合い始めてしまうのは、数ヶ月先とはいえ、確実の事だった。ある白グマの群れの中、大きな体をした母グマが、一匹の子供と共にそっと群れから離れだす。餌食になるのはどの種族でも、肉の柔らかい子供だ。その母グマは過去自分が他の仔で腹を満たし、その小さな一匹を産み落とす事ができたのだが、わが仔は守ろうとして、こうして群れから離れたのだった。例えそれが、自分達の死体を作る事になろうともだった。
 しんしんとしずかに雪が降る。二匹のクマは静かに行軍する。
 と、白い火の玉がゆらゆらと揺れるのが見える。母クマはそれを認めると、観念したように足を止めた。子グマはそんな母の様子に、どうしたのかとその周りを回る。
 白の光球が二つ、四つと増えていく。そして天には大きな紅い月。子グマは不穏を感じ、母に寄り添いキューキューと泣く。
 その光球の奥から獣達が姿を表す。クマのみならず、鹿、トナカイ、ヤギ、馬、フクロウ、ロバ、と、常ならば捕食関係にある動物達で、この大地に住む以上、飢えの気配を感じているはずだが――いや、だからこそ――彼らは互いを襲わず、この親子を囲い出したのだった。
 眩い光の玉が、動物達と並んでこの熊の親子を囲いだす。
 その光球と獣の間から、きゅ、と二足歩行のか弱い足音が響く。それは人間の子供だった。金色の癖っ毛と、見つめていると囚われてしまいそうな紫色の瞳、その小さな肩には薄っすらと雪が積もっている。そしてかの子供の手元には、自身が蓄え持っていたらしい、秋の作物が山とあった。
 いまや凍りかけてはいたが、栗にカボチャ、ブドウにリンゴ、ニシンに鮭までもが、その子供の顔が隠れる程に山とある。それらの食べ物の匂いに、母親の傍にいた子クマは、喜ぶように駆け出そうとする。
 しかし、母親の鋭い前足が、その子供を押さえつけた。人間の子供の姿に、光球と獣達はその道を明けるが、そこは再び光球と獣達で閉ざされた。
 母クマとその子クマ、そして人間の子供を取り囲むように、無数の光球がゆらゆらと揺れている。その光球に温度はなく、光も物質的なものではない。時間も感じられないこの不思議な光は、ここに集まる生きとし生ける物、全ての命、その表情を照らしている。
 その光が、人間の子供のその顔を照らす。すると先ほど紫色と見たその瞳は、青と赤の相反する色が、細く複雑に絡み合って出来たものだと見て取れる。
 人間の子供は、母クマの前にその手にしていた恵みを山と置いた。人間の子供は、母クマを見つめるとただ一つ頷く。母クマは観念したように、その恵みの中に鼻先を埋めた。
 子クマはキューキューと泣いてその食べ物を欲しがろうとする。しかし母クマは前足でわが子を押さえつけて、決してその食べ物を分け与えようとはしなかった。母クマの口元は、凍ったブドウを齧ったためか、しゃくという音を響かせて紫色に染まり出す。凍って水分の飛んだブドウは酷く甘く、風味も濃厚だ。いつしか母クマの目は、そのブドウのように水分を迸らせていた。小さな黒眼が、じわと滲んだ。



「とう!」
 フランスの投げたダーツの切っ先は、先日イギリスに取られたアメリカ大陸の上部、まだ見ぬ謎の地域を見事に射抜く。
「ここには必ず大地がある! アメリカはイギリスに取られたが、北はまだだ! 前人未到の分、発見の楽しみが潤沢にあるって事だ! ここを俺好みに開発することで、あのイギリス野郎の鼻を明かしてやるぞ!」
 フランスの叫びに船員達はおおと歓声を上げる。
「こここそ俺たちのエルドラドになるだろう!」
 フランスはまたダーツを一つ持つと、違う的へとそれを投げた。その射抜いた場所に書かれていた言葉は。
 “大地たる『ヒト』は、いる。知能高。“
「よぉし! 今度の大地こそこの俺が手なずける!!  女なら魅了すればいいし、男なら武力で行けばいい! どちらにせよ、この俺の腕に敵うものなどいやしない!」
 ナポレオンに似た高らかな宣言に、船内はいよいよ興奮に燃える。
「石炭をガンガン燃やせよぉ!? 燃え上がる俺たちの心のようにな! まだ見ぬ土地には希望であふれている! その土地こそ、俺たちのエールフランスの大地だ!!」
 歓声を一身に受けると、興奮したフランス人全員は、衣服を脱いでワインを開け出す。そして実際でもがんがん石炭をくべるべく、フランスは自ら裸のまま、エンジン部分へと向かって行った。



 視界ゼロ。猛吹雪。
「おいおいおいー! なんだよこの寒さは!」
 フランスの金髪の癖っ毛は、たちどころに凍ってしまう。なんとか顔を覆い隠し、睫毛や髭まで凍らせぬようにするのが精一杯だ。
 “こりゃあヒトはいねぇだろうなぁ。……まぁロシアの例もあるけどさ。”
 部隊を連れて目を細めながら歩いていくと、遠くで白い塊が動くのが見える。獣にしては小さすぎるし、何より四足で動いていない。
 ――……なんだ?
 フランスは従う部隊へと手を上げて銃を構えさせる。向こうの塊も気付いたのか、こちらへと少しずつ近寄ってくる。
 “×××”
 吹雪に混じって、なにやら呼び声が聞えてくる。フランスは振り向き、誰か呼んだかと問うが、勿論部下達は横に首を振る。
「×××。」
 今度ははっきりとその声が聞えた。異国語らしく意味はわからないが、高く、……子供の声だった。直ぐに脳裏に浮かんだのは、先日イギリスに取られた、子供の“アメリカ”の姿だ。この探索する大地は、北側とはいえアメリカとは川を一本隔てただけ。もしヒトの形を持ちだしているのなら、それはアメリカと同じ“子供”の姿である確率が高い。
 フランスは吹雪の中、じっとその姿を見つめる。その二足の小さな塊は、目を六つ表しながらこちらへやってきた。
「×××。」
「し、」
 三度目の呼び声に、フランスは部下達に銃を下ろさせると、その声の主であろう、その二足、三頭の獣を迎える事にした。
「……×××?」
 その子供はやはり、アメリカと同程度の5.6歳程の小さな子供だった。その子供は胸元に同じ背丈の小さい白い毛皮を持つ獣を抱きしめ、自身もまたその白い毛皮を着込み、その小さな顔の上には、纏っている元……大きな白い獣の頭がのっていた。(これが三頭の理由である)
「……こども、だな。……この大陸を成す者か?」
「……×××〜。」
 その獣の皮に身を包んだ小さな子供は、白い獣を抱きしめながら、不思議そうにフランスに話しかけてくる。その小さな顔は、雪の結晶と同じように白くきめ細かで、その獣の頭部の下には、フランスと同じだろう金色の髪がわずかにきらめいている。その雪に紛れるようなまっ白な姿の中、唯一色を持つ貝紫色の瞳だけが、この色の無い景色で異様とも思える色を放っていた。
「……お前、名前は? あー、言葉わかんないか。」