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【ヘタリア・仏&加】イヨマンテ(魂送り)

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 フランスは、両手の爪先を鎖骨に当てて自分を示すと、“ふらんす、ふらんしす、ぼぬふぉあ、ふらんす”と口を大きく開いて、ゆっくりと発音する。そして次にその子供へと手のひらを下から向ける。
「vous?」
 子供はじっとフランスを見つめる。フランスは同じ動作を、今度は“ふらんす”とだけをゆっくり二度言った。
「……かな、だ。」
「Canada?」
「かな、だ。」
 フランスはにっこりと笑うと、ポケットから飴玉を取り出し、まず自分が舐めて安全性を示してから、その子クマへと与えた。
 子供はびっくりした顔を見せたが、子クマはそれを直ぐにばりばりと噛んでしまった。フランスは又にっこり笑うと、もう一つ取り出し、今度は人間の子供へとそれを与えた。
 小さな唇に押し当てられ、子供は口を開いてしまう。つるんと飴玉はその小さな口の中に入り、フランスはその口元を指先で押さえてしまう。
 そしてフランスは又にっこりと笑った。
 ――“大地”だ。やはりもう人の形と成っている……!
 その子供は最初驚いた顔をしていたが、飴の甘さに次第にその顔を解いていく。
「ふら、ん、す。」
「そうだ、フランスだ。よろしくな、カナダ!」
 フランスはその子供、カナダを抱き上げると、くるくると回り出した。




 暖かい船へとカナダを連れ帰り、大地について知る限りの事を話してもらった。
「なるほど、君はこの“クマ”と呼ばれる獣達と生活を共にしているんだね。」
 カナダの抱きしめる白く小さな生き物の頭を撫でてやれば、カナダはこくりと頷く。彼は現在、毛皮ではなく、乗組員から渡された毛布を被っていた。そしてその毛皮はフランスが手にしていた。
「すばらしい毛皮じゃないか。厚いのに軽く、毛の一つ一つは硬いが、撫でれば滑らかで手触りもいい。それに、何より暖かい。」
 フランスはその毛皮を肩に羽織る。今まで来ていたどんな外套よりも暖かく、丈夫そうだ。
「これは北へ行くにはもってこいの着物だ。」
 フランスはしゃがむとその子供と目線を合わせる。
「君の家には、これ、どれくらいあるんだい?」
 子供は指を一つ一つ折り曲げる。フランスはじっと数えて待っていたが、それは30を越えてもまだ折り曲げ続けていた。
「okわかった! 最高に沢山、あるって事だな!」
 フランスは手を叩き、素晴らしい! とニッコリ笑う。そして再び毛皮に顔を埋めてその毛並みを確認し、次はその今にも動きそうな頭部をじっと見つめる。
「彼らが偉大で荘厳な生き物だって事は、この凛々しくも雄々しい顔立ちから想像できるよ……。だのに目元は優しげで温みをまだ失っていない。母たる優しさと、父たる強さを兼ね備えた美しい獣だ。そして白は高貴で穢れの無さを表している……。」
 うっとりと語った後に、フランスはぐっと力強くカナダと船員一同を見渡す。
「この毛皮を我が国に輸出しよう! 北へ侵略しやすくなるし、何よりこれを身につけろと!」
 ばっと上半身の衣服を脱ぎ捨てると、素肌にその毛皮纏いだす。
「俺の全細胞がそう決断している……!」
 うっとりとそれを告げた後、フランスは両手で“ほら拍手拍手!”としたから手で空を持ち上げる。船員達は一拍置いた後、ぱらぱらと拍手をした。
「まずは俺達の分を確保してからですよ!」
「そうだそうだ!」
 船員達はここにはもう毛皮はないのに、我も我もとシャツを脱ぎ出す。気温20度に満たないはずの船内は、一気に肌色が多くなった。
「よし、この子供……と、カナダに、この俺の美しさを一層装うこの毛皮のある宝物殿へ案内してもらおう!」
 船員達は興奮して下半身も全て脱ぎ出す、フランスはこの光景にうっとりしながらも、自分もゆっくり下を脱いだ。
 ふと子供……カナダを見れば、……自分より大きい人間が次々に裸になる光景を、呆然と見つめている。
「純白の毛皮を纏ったおちびちゃんも天使だったが、生まれたばかりの姿になれば、もっと天使になれるぜ?」
 そう告げるとフランスはカナダの毛布も剥ぎ取ってしまう。カナダは“ぴぃ〜!”と小さな小鳥のような鳴き声を上げて必死に子グマを抱きしめながら、フランスにくるくると高い高いと回された。



 フランスは上機嫌で本国へと帰る海を渡っている。
 新大陸発見は上々だ。大地はヒトの形をしており、その瞳は賢そうに輝いていた。
「あの“毛皮”も上等な物だったな。恐らく熊以外のものもあるだろう。」
 フランスは今一度熊以外の獣、……テンやウサギなどの毛皮を思い、によによする。カナダの加工技術は最高だった。その動物の形そのままに、まるで今にも動き出しそうな形と、確かな保存方法を用いていた。
「あれは食糧保存にも使える技術だろう。狩猟民族だからこそ、失われていない生きる技術が……。」
「フランシス提督! 船が! イギリスの船が見えます!!」
「なにぃ!?」
 夢想は即座に太い眉毛の映像に壊される。フランスは即座に甲板に上がり、その報告を受けた船影を探し始めた。
「はぁーっ はぁっはっはっ!!」
 ぼぉー! という汽笛を鳴り響かせ、青い空に黒い煙が噴出する。そこには青字に青のリボンが立て横斜めと入る、かの国旗がはためいていた。
「てめ、イギリス!」
 甲板に出たフランシスは、その憎い国名を叫ぶと、傍らにいた水兵より、望遠鏡を奪い取った。そのレンズの先には、派手な海賊帽斜めに被った、げじげじ眉毛のその姿があった。
「よぉー! 俺が見つけた大地の北側でなぁにやってんだぁ!? お前ばっかじゃねぇの!? あんな雪の厚い北国なんざ、なんの資源も作物もねぇに決まってるのによぉ!!」
 げじ眉ことイギリスは、ぶふーと笑いながらそう叫ぶと、誰もいない傍らへと同意を求める。
「……可哀相になぁ、宙を相手にエアー会話する程に、相変わらず孤立してだなぁ……。」
「こ、孤立なんかしてねぇよ、ばかぁ! ……ま、こんな愛らしい奴らは、お前みてぇなヘンタイにゃ見えねぇよなぁ。」
 イギリスは又隣の誰もいない空間へと微笑みかけると、フランスへ向かいべぇっと舌を出し、そのまま船の向きを変えて行った。
 嵐が去り、ふぅとフランスは息を着く。
「おい、野郎ども、なんとしてもあの大地はわが国、ヌーベルフランスとするぞ。……あの子供が、昼間っから幻覚を見て空中に話しかけるどころか撫で撫でする上に、あのクソまっずい味に舌が慣らされるのなんざ、絶対に許されない事だからな!!」
 その言葉に船員達は力強く返事をした。



 フランスをバカにするも、バカに仕返され、イギリスの機嫌は中々悪いままに操舵室へ向かう。地球儀の前へ立ち、自分が見つけたアメリカ大陸……その上の雲に閉ざされた地形を指さした。
「おい、フランスが見つけたと言われるこの大陸について調べろ。……アイツの傍に、ウィルオウィスプがいた。この大陸は、精霊がいる大陸だ。」
 配下は返事をして、後へ退く。
 イギリスは先に、あのウィルオウィスプをアメリカ大陸でも見つけていた。そしてそれは弱々しく、今にも消え入りそうなものだった。
「どうした、大丈夫か!?」