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らぶらぶらぶ【臨帝】

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ソファに座ろうと臨也が中腰になった瞬間、帝人に飛びつかれる。抱きついているのだろうが、猫が獲物を捕食するような動きだ。バネ仕掛け。
「なに?」
 帝人のパタパタ揺れる耳を軽く引っ張る。
 うさぎは今日も元気だ。
「抱きついてるんですよ」
「そうですねぇ?」
 臨也の疑問の答えになっていない。
「退屈?」
 完全に自分の膝の上に乗って首筋に顔をうずめてくる帝人に正直言って照れる。嬉しいが慣れない充実感と失っていた感覚に自分の中心がガタガタ揺れるのを臨也は感じた。
「抱きつきたかったんです。理由なんかいりますか?」
 殺されるのかと思う言葉に抱き締め返せば耳はやはりパタパタ揺れる。苛立ちはしない。少しだけ突きたいような欲求は芽生えたが我慢する。
「この頃、よく帝人君が抱きついてくる気がするんだけど」
「後ろからできなくなりましたから」
「あ、あぁ」
「いいですから! 何もしないでいいですからッ」
 合点がいった臨也が手を動かすと帝人に激しく頭を横に振られる。まだ何も言っていない。やってない。
「僕の許可なしに勝手なことしないで下さい。約束です、約束ですよ! 絶対ですからね!」
 ぎゅうっと首を引き寄せられて涙目で言われる。
 息苦しかったがかわいいので許してやろうと思った。
「臨也さん、どうでもいいとか思ってますよね?」
「いいじゃん、別に」
 悪びれもせずに答えれば悲しそうな空気を出されて胸が痛んだ。
「だから、ダイレクトアタックやめてってば」
「はい?」
「帝人君は俺の言うこと聞かないくせに俺を服従させるとか……」
 舌打ちをしてみるが嫌な気持ちはわかない。
 満たされていて甘い。
 泣き出しそうなほどに気持ちがいい。
「あー、あぁ!」
 目の前にある帝人の耳を噛んでみる。
 口の中に軟骨のコリコリとした感触とウサギの毛。
「や、やめ、やめてくださいよっ」
「なんで?」
 うさぎの耳を唾液でベタベタにしながら臨也は首を傾げる。
 帝人の耳は自分のものだ。
「え、えっと……じゃあ、臨也さんの言うこと聞きます」
 名案を思い付いたような顔をする帝人。
 頷いて「いいですよ」と笑う。
「何がして欲しいんですか? 何でも聞いてあげようじゃないですか」
 胸を反らして得意そうな帝人は油断しきっている。
 臨也を害がないと判断しているからだろう。
「帝人君の感覚って壊れてる?」
「失礼な。仮に壊れてたら犯人は一人ですよね?」
「そうだね。謝らないけど」
「殊勝な態度でも取るべきです。臨也さんは本当、もっと」
「いいじゃないか。結果的に」
「どこも良いことなかったです!」
 怒る帝人の頭を撫でる。張りつめた空気は簡単に弛緩する。
「帝人君がシズちゃんやセルティと南の島へ行こうとしてたことなんか、俺はちぃぃっとも気にしてないから」
「どこから……、新羅さん? 新羅さんですか?!」
「何でか俺が新羅にメスとかハサミとか投げられる羽目になったけど、本当に全然気にしてないから」
「ごめんなさい」
「帝人君、シズちゃんの上に乗って楽しそうだったんだってぇええぇ?」
 恨みがましい臨也の声に帝人は笑顔で「はい!」と答えた。素直すぎる。
「静雄さん、スゴイんですよ。尻尾がヘリコプ……臨也さん?」
 無言で耳をにぎにぎと握られて帝人は嫌な予感でもしたのか「臨也さん?」とまた呼びかけてくる。
「えっと、えと。気分は神隠しされてた千尋ちゃんというか金曜ロードショーやってたから、セルティさんも見てて」
「はぁ、テンション上がりましたか」
「え、えっと、そうなんです。三人でどこまでも行けるみたいな」
「新羅が『ヘルメットの代わりに仮面もいい、とか言ってくるんだよ』って泣くから何かと思ったら」
「セルティさんは形からですね。黒いからですか? 別に僕がお願いしたわけじゃ」
「シズちゃんにはお願いしたんだ?」
 低い臨也の声それ自体よりも握られている耳が帝人は気になるのか視線が臨也の手に向く。
「あ、あの……飛べるんですか? って」
「へぇぇえ」
 今にも触られている耳が引きちぎられるかのような臨也のテンション。
「飛べるんだ? 羽も何もないのに、飛べるんだ? へぇ?」
 ライオンを前にしたネズミだろうか。
 帝人の心拍数は急上昇。
「スゴイねぇ、シズちゃんは」
 力なく笑う臨也に帝人は泣き出した。
 臨也の地雷を踏みしめたのはまず間違いない。
「帝人君、そこで抱きついて来るのはズルい」
「どう、したいんですか? 臨也さんは耳を」
「別に」
 ぎゅっと抱きついて来る帝人の手が背中に回る。
 指先はどこまでも優しく、空気もやわらかく温かい。
 今、臨也が帝人の耳を千切って投げ捨てたなら全部なくなってしまうだろう。泣き声だけが臨也の心臓を締め付けるのだ。
「やっぱり、厄介だ」
 行動を起こす前に、言葉を口にする前にもう分かってしまう。
 帝人も分かったからこそ泣いたのだ。
 先手を打たれた自分が負けだと臨也は肩の力を抜く。
「いるんです。全部、ちゃんと必要なんです」
「邪魔だけど……許してあげる」
 そう思ってやろうと泣き止んで笑う帝人の尻尾に触れる。
「それで、何がいいかな」
「ん、何でもいいですけど……痛いのは嫌ですよ?」
 尻尾をふるふる震わせるうさぎさんは誘い上手だ。


1 にんじん食べる? (性的な意味で)→続き
2 屋上から一緒に飛ぼう
3 夕飯の時間なのでご飯の後に帝人君をデザートで




1 にんじん食べる? (性的な意味で)→続き



 笑顔で臨也は「にんじん食べる?」と聞いてきた。
 それは言葉通りではないだろう。
「な、何をする気ですか?」
「文字通りに食べないかなあって」
 帝人の腰を引き寄せて臨也は笑う。
 駄目な笑い方だ。意地悪をする気なのが分かりきっているので帝人は臨也の膝の上から退こうとした。
「約束破る悪い子になっちゃうの?」
「うー、臨也さんこそ約束破る気ですよね。痛いの」
「しないよ」
 擬音がつきそうな輝かしい笑顔。まぶしくて太陽が見える。
「何ですか、何ですか? ずっと狙ってたけど躊躇ってました。今がその時だ、みたいな」
「何でもOKなら当然セオリー通りにさ……下の口でにんじん食べてもらわないと」
「うさぎはそんな事しません。そんなセオリーはないです」
「たぬきが『羨ましい羨ましいみかプーとこんな事して』って参考資料を」
「待ってください! 情報の出所は遊馬崎さんじゃなくって狩沢さんなんですか! 狩沢さん、え?」
「羨ましいって言うから『うらやめっ!』って勝ち組宣言しといた」
「恨みがましくされても仕方がない嫌味な男ですね」
「うるさいっ」
「あふっ! ちょ、……激しく噛まないで下さいよ」
 臨也に耳を噛みきられる勢いで噛まれて帝人は顔を赤くする。
 帝人のけもみみは感度が低い。
 神経がほぼ通っていないのだ。
作品名:らぶらぶらぶ【臨帝】 作家名:浬@