OP短編集
「ビーチにて・1」 サンジとロビン
ワインのような深いいろの眼が、見ている。
白い砂浜に影をつくるパラソルの下、膝をかかえてじっとこちらを見ている女の子。十近くも年上なのに、ロビンは時折、ああして、幼い子供のような眼をしてサンジを見ることがあった。──サンジだけではなく、ナミや、ゾロや、ウソップや、他の仲間、そしてルフィのことも。それから海を、空を、船を。自分をとりまく世界を。
だからサンジは気付いていた。ロビンが今サンジの体──返り血で汚れてもいいように服を脱いだ半裸──に視線を吸い付けているのは、たとえばサンジが期待するような、女性的な、艶っぽい理由に基づくものではないのだと。
「……こわい?」
彼女の視線は左手に握られた包丁と、その光る刃に切り分けられたばかりの海王類の死体とに、交互に注がれている。
「ううん。だってそれ、わたしたちがたべるんでしょう」
「バーベキューにしてね」
かたく強張っていた表情がほぐれ、くすくすと笑う。消えて初めて、彼女がそこに浮かべていた感情の種類がわかる。それは恐怖というよりは畏怖、おそれに近いもの。
「私が考えていたのは、私も、いろんな命を奪ってきたのにってこと」
憶えている。引鉄をひいた感触。ナイフが肉を断った感触。この手の中で砕けていった骨、崩れていく、ひとの輪郭。
いのち。
ロビンはそれらについて、さして感慨もなさそうにつらつらと語ったあと、小首を傾げて「でも」と付け加えた。
「あなたにかかれば、たべられるようになったのかしら?」
「ロビンちゃんが望むなら、ね」
包丁を、くるりと回す。
うばった生命が流した、真新しい血が刃から剥がれ、サンジの白い肌にぴっ、と張り付いた。
「なんでも料理してみせるよ」