OP短編集
「食べる姉妹」 サンダーソニアとマリーゴールド
ぱくぱくぱくぱくっ
あの子は食べる。
どんなものでも、手当たり次第に、口に入れて死なないものならなんでも。
「ねえ、マリー……」
ぱくぱくぱくぱくっ
今も、あの子の前には食べ物の山だ。どんなに贅沢な宴を夜通し開いても足りないほどの量がそこにある。
偏食だったくせに。
やせっぽちだったくせに。
食が細くて太れない体を貧相だって、嘆いてたくせに。
今は、涙まで浮かべて食べている。
自慢の姉様と、自慢の妹。
あたしは余り似ていないから、二人が並ぶのを見るのが大好きだった。
美しく気高い、まさにそれは九蛇の名にふさわしい姉妹。似ていなくても同じ血を受け継いでいることが、あたしにはとても誇らしかった。
ぱくぱくぱくぱくっ
あの子は食べ続ける。
その結果は、彼女の身に確実に蓄えられ、日に日にその輪郭を変えていく。
狂ったように──そんなこと、今更気付かなくたって、あたし達はとっくに狂ってしまっていた。
あたしも夜毎、夢に狂う。
記憶に狂う。
忘れることすら出来ずに。
ぱくぱくぱくぱくっ
だからあの子を止められない。
あたしが愛した、美しい姿が、見る影もなく失せてゆくのを、どうすることも出来ないのだ。
受けた傷を忘れたくて。
悪魔の味を塗り替えたくて。
あの絶望の味をこの舌から消せるのなら、どんな酷い食べ物だって口にできる。
なのにどうしても、どうしても、それが叶わない……。
「マリー、」
「いいの。ソニア姉様、大丈夫よ」
あたしの焦がれた美しい顔は無惨に横に引き伸ばされ、今はそれが歪んでさえいる。
……あたしはどんな顔をしてあなたを見ているのだろう。
「泣かないで」
彼女は、わらう。
食べることを止めもせずに。
「強くなる。強くなるのよ。そのためのことなの」
やせっぽちのちいさな体では、毒蛇になっても何にも勝てないから。
「もっと強く、大きくなるの。この力で姉様達を守れるように。もう二度と誰にも屈服なんかさせないように」
変わり果てた眦に滲む涙。許容量の限界を超えて、体が無茶を訴えているのに。
彼女は食べ続ける。
ぱくぱくぱくぱくっ
「マリーゴールド」
ああ、あなたは、
「……付き合う。私も」
「姉様」
「強くならなきゃ。生きてかなきゃならないんだもの」
ぱたぱたぱたっ、涙が落ちた。でもそれを乱暴に拭って、顔を上げる。笑う。これでさよなら、弱いあたし。
そしたら目の前の彼女の姿がはっきり見えた。
なんて、美しい、ひと。
蓄えた血も肉もあなたをかたちづくる全てが──
「さあ、ひとつ残らず平らげるわよ」
「ええ、姉様」
──変わらない、私の誇りだ。