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【けいおん!続編!!】 水の螺旋 (第三章・DIVE) ・上

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(第三章 - DIVE)

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 1


 人通りの少ない路地に賭里須(とりす) 凜(りん)という名の青年はたたずんでいた。
 背後に気配を感じた。誰かが自分の方へ近づいてくる。
「凜くん」
 と女の声がした。
「覚悟はできたようだね、唯」
 唯は凜の横に並んで云った。
「うん。でも、もう私の大切な友達を危険な目に遭わすのはやめて」
 唯はひと呼吸おいた。
「でも、あんなの凜くんのキャラじゃないよ。わざとやったの?」
「まあ、ね。あれだけキツくやっておかないと、彼女たちは君を気遣っていつまでも関わろうとするだろうから」
「それにしてもやりすぎだよ。みんなにケガさせて、おまけに店の中メチャクチャにして」
「でも、実際に器物を破損したのは唯、君だよ」
 凜はひと呼吸おいてから、声のトーンを落として真面目な声を作った。
「さぁ、準備はいいか」
「うん」
 ふたりは肩を並べて歩き出した。

 凜と唯が向かった先は、町なかにあるとある個人経営の病院だった。病院といっても、その建物はかなり古く、今開業しているのかさえ分からない。
 入口には『休診中』という看板がかけられている。凜はかまわず、入口のドアを引いた。ドアが開いた。ふたりは中に入る。
「凜です。入ります」
 誰からも返事はないが、凜は構わず歩を進めた。唯もそれに続く。そして、ふたりは診察室に入った。診察室には、白衣を着た中年男性が椅子に腰かけていた。
「凜です。唯も連れてきました。石山教授」
 中年の男は凜たちを振り向いた。実はその白衣の男こそ、和のバイトしている研究室のボスである、あの石山教授だった。
「ああ賭里須くんに平沢くん、待っていたよ」
 石山教授は椅子から立ち上がった。

 奥の部屋の治療室に唯たちは場所を移した。
 石山教授は棚を開け、何かを探していたが、その体勢のままで後ろの凜に話しかけた。
「そういえば賭里須くん、先日はずいぶん暴れたそうじゃないの。店をめちゃくちゃにした上に、何人か殴りつけたんだって?」
 唯は顔を曇らせてうつむいた。殴られたのは自分の大切な友達たちだ。
 一方で、凜は平然とした顔をしながら、「はい」とだけ答えた。
「もう少し考えて行動してもらいたいな。もみ消すのが大変だったんだから。ウチの研究室の学生が暴力沙汰を起こしたと世間に云われちゃ、僕の名に傷がつくでしょ」
「すみません。ただ、関係のない人間をこれ以上巻き込ませてはいけないと思いまして」
 相変わらず、凜は毅然とした態度で答えた。
「そこをもっと慎重になってもらいたかったね。君は優秀だし、よく働いてくれる。その面では評価するが、思慮に欠けた無鉄砲な行動にしばしば出てしまうのが悪い癖だ。今、この件をヘタに世間に知らしめて、間違った認識をされるとマズいんだよ。君があんな大げさな行動に出て、変に目立っちゃった可能性も大いにある。そのことぐらい、頭のいい君なら分かりそうなものだがねぇ」
 唯は隣の凜の方を見た。凜は相変わらず、物怖じすることもなく毅然とした態度でいる。
「まぁ、目撃者が少なかったのが救いだね。僕の口添えで、世間的に君の素性がばれずに済んだからね。ただ、あそこに居合わせた人間から話が広まらないとも限らない。特に、君が暴行を加えた数人に関しては」
「申し訳ありませんでした。以後、気をつけます」
「…あと平沢くん、君はその場で賭里須くんと吹き飛ばしたそうだね。あの力を表に出すのは良くない。そんなことに使うものじゃないとくれぐれも肝に銘じておいてくれ」
「え、で、でも…」
 唯は反論しようとしたが、石山の言葉に遮られた。
「まあいい。今回君たちに来てもらったのは、そんな説教をするためじゃない」
 石山は棚から薬をとってきた。薬包紙を電子天秤に乗せ、値をゼロに設定してから、試薬瓶のフタを開け、薬さじで粉末の薬を薬包紙に入れ、重さを測る。
「平沢くん、この薬を飲んでくれ」
 そう云って、石山教授は薬包紙に入れた粉末薬と水の入ったグラスを持って、診療用のベッドの上に座っている唯のもとへやってきた。そして、その薬と水を唯に差し出した。
唯はまず、薬を受け取った。しばし、手の中の薬を眺める。そして、覚悟を決めたように、その粉末を口に流し込んだ。そして、石山の手に残っていたコップの水を取り、その水も口に流し込み、粉末を胃の中に流し込んだ。
「すまんが今日のところは、まだ一回分ごと包装してないので、今適切な量を測りとったが。次からはちゃんと一回分ずつ袋に入れたものを渡すようにするからね」
 石山は続ける。
「さて、この薬は君の眠っている力を増大させるものだが、睡眠導入剤も混ぜてある。眠くなったら、そのベッドに横になるんだ。眠ったら、君は間もなく夢を見るだろう。だが、その夢はただ君の脳が作りだした現実とは何の関係もない君自身の想像の世界なんかじゃない。人の夢・希望・怒り・悲しみが作りだした、この世界とつながるもうひとつの世界だ」
 云い終わると、石山はまた薬を測り始めた。今度はそれを凜に飲ませるためだ。唯と同じように、凜は薬を口に含み、水で流し込んだ。
 そうこうしているうちに、唯は徐々に眠くなってきた。
「眠そうだね。さあ、横になるんだ」
 石山の介助で、唯はベッドに横になった。そしてそのまま眠りへと落ちた。
 と同時に、彼女は別の世界へと落ちて行った。


 2


 その頃、憂と和は唯の住むアパートへ赴いていた。階段を上がり、2階の唯の部屋の玄関に着いた。
 和がインターホンを鳴らす。返事はない。しばらく待っても、唯は出てこない。どうやら不在のようだ。
 和は憂を目でうながした。憂はコクリと頷いて、家から持ってきた合鍵を取り出し、玄関の鍵を開けた。
 ドアを開く。昼間とはいえ、明かりもつけていない部屋の中はいささか薄暗い。部屋に入って辺りを見渡したが、唯の姿も気配もない。やはりここにはいないようだ。
「さあ、何か手掛かりになるものはないか、捜しましょう」
 和は云った。憂と和は引き出しやふすまの中を探してみたが、唯の行方がつかめそうなものは何も見当たらない。
「うーん、困ったわね」
 和はそう云って、ふと唯の机を見た。ノートパソコンが目に入った。
「そのパソコンには何か入ってないかしら」
「つけてみる?」
 机の引き出しをあさっていた憂が云った。
「ええ、お願い」
 憂はパソコンのスイッチを入れた。しばらくして、パスワード入力画面が表示された。そうか。いくら唯でも、自分のパソコンにパスワードぐらいのセキュリティはかけておくだろう。正しいパスワードを入力しなければ、唯のアカウントにはログインできない。
「パスワードが分からなきゃ、中をのぞくことはできないわね」
「和ちゃん、大丈夫よ」
 憂が開いた小さなノートを和に差し出した。引き出しに入っていたものらしい。憂が開いていたノートのページに、パソコンにログインするためのパスワードと、あとメールのアカウント、パスワードが書き込まれていた。
「ここは憂、あなたにお願いしていい?さすがに、パソコンまで家族でもない私がいじるわけにはいかないから」